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「英雄のしつけかた」 4章 カッシュ要塞
73. 英雄のしつけかた 2
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「だいたい、わたくしの顔を見れば結婚しろ結婚しろとうるさいくせに、大丈夫かの一言もないなんて! あなたの真心はどこですの!」
そこが一番信じられないと、ミレーヌはひどく憤慨していた。
少しは見直しても、人の情がない行動にはつくづく愛想が尽きる。
とにかく怒涛のような文句のオンパレードだ。
一つしかないフライパンだったが、隙間なく打ち降ろされて、両手で防いでいるはずなのに流し切れず、ガラルドは生まれて初めて悲鳴を上げた。
「わかった! 俺が悪かった! 見ただけで無事だとわかったんだ! 本当だ!」
「無事なら気遣いもないんですか!」
許してくれ! と本気で謝った。
気持ちがこもっていません! とミレーヌは憤慨している。
「大将が謝ったぞ」
珍しい現象だと黒熊隊の五人は視線を交わし合った。
もちろん、とっくに惨劇からは後退している。
ここまでミレーヌが奮闘するとは思っていなかったから、少々悩ましい表情である。
ガラルドの言い分も、実は理解できるのだ。
国や立場など面倒なことを考えなければ、本当に更地にしてきれいに吹き飛ばしておけば、自分たちの子孫もどんなに楽だろうと思ってしまう。
簡単に野盗に利用されるような砦なんて、単純に考えても無いほうがいい。
古代遺跡でもないし、壊しておけば誰にも悪用されないのは確かだし。
歴史がある貴重な建物だけど利用価値がないのだから、保護するのは莫大な国庫負担を考えるとただの無駄である。
それでも、それは流派と国の思考の差だ。
国にとって利点があるからこそ、国王が砦の保存を決めたのだから。
立場が変われば利用価値も変わる。
ただそれだけだ。
ずっとそりの合わなかった国家との協調を図ろうと歩み寄りをはじめ、王都に居を構えたこのタイミングで、文化財を破壊するわけにはいかない。
壊すなら壊すで、タイミングが重要なのだ。
ジャスティ王は理解があるが、国の重鎮は流派を快く思っていない。
それにガラルドは英雄像が先行しているので、今の時期に派手な破壊行動はできるだけ慎むべきだったりする。
まぁ、そんなこんなで今回はガラルドを止めていたのだ。
それにしても。
遠慮などかけらもなく、ボコボコにされている。
防具があっても生身にかなりダメージが蓄積されていそうだ。
なんだか直視できず、遠巻きにするしかない。
心の中で、ガラルドのために合掌した。
ちょっとだけミレーヌの憤慨の理由を意外だとは思っていた。
「わたくしの顔を見ても、砦を壊すことばかり考えるなんて! どれだけあなたは情のない、スットコドッコイなの!」
へぇ~と思うしかない。
ミレーヌ様は、ガラルドの心配や真心が欲しかったんだ。
期待するだけ無駄なのに、乙女心とは実に不思議である。
そういう細やかな気遣いができる奴ではない。
そんなことはここにいる誰もが知っていたが、これでガラルドも少しは身に染みるだろうと目をそらしていた。
けしかけたのは自分たちだが、かすかに心が痛む。
でも、いい機会なので、徹底的にやっていただくのは大歓迎だ。
うん、そう思おう。
それにしても、手加減がない。
目をそらしても、ガンガンと鋼の打撃音が連続している。
自分たちでフライパンを渡したものの気の毒に思ってしまうほど、ミレーヌの攻撃は見事すぎて近寄ることもできなかった。
なにより勢いが恐ろしくて、止めに入る勇気がない。
この二人、付き合ってもいない癖に、かけ合いが犬も食わない夫婦げんかみたいだ。
うまくはまりすぎて止める気にもならないが。
絵にかいたようなカカァ天下で、お二人さんお似合いですよ~なんて。
口が裂けても本人たちに伝えられないのが残念だった。
それにしても、ミレーヌの文句はつきることがないと感心するばかりだ。
なぜか裸で家の中をウロウロするのはやめろとか、いろんなガラルドの問題行動にまで説教が飛びまわっている。
無敵の剣豪も形無しのあり様である。
そろそろキリをつけなくては騎士団がやってくるのになぁと思い始めたころ。
ミレーヌの声が響いた。
「この建物を保護しますか!」
おお! 本題を忘れていなかった、とその台詞に皆で感心した。
日常の不具合にまで話が飛んでいたので、忘れているのかと思っていた。
「すればいいんだろうが!」
やけくそでガラルドは叫ぶ。
「まだ仕置きが足りませんか!」
ガツンと勢いよくフライパンがふり降ろされた。
「まだそんな口の利き方を! 他の方々にどれだけ迷惑をかけたかも、わかってないでしょう!」
「よせ! 悪かった! 次からはちゃんと相談して、皆の意見を聞くようにするから、やめろ!」
とうとうガラルドはすまんと謝っただけでなく「剣に誓って!」と誓約まで口にした。
「次からですって! 生ぬるいことを!」
「まだわからないんですの!」と再びガツンとやられて、ガラルドは「やめてくれ!」と悲鳴を上げた。
「わかった、今からだ! 今から!」
誰か助けてくれと、とうとう泣きが入った。
「このまま王都に帰りますか!」
「帰る!」
気持ちいい程きっぱりした即答だった。
「わかればいいんです、わかれば」
ふうっと息をついてミレーヌは立ち上がった。
ガラルドは良くも悪くも有言実行である。
きっぱりと宣言した言葉を、ひるがえすことはない。
自分の役割を全うし、ミレーヌは爽やかな笑顔を浮かべた。
日常の鬱憤をすべて吹き飛ばした気がする。
実に爽快な気分だった。
そこが一番信じられないと、ミレーヌはひどく憤慨していた。
少しは見直しても、人の情がない行動にはつくづく愛想が尽きる。
とにかく怒涛のような文句のオンパレードだ。
一つしかないフライパンだったが、隙間なく打ち降ろされて、両手で防いでいるはずなのに流し切れず、ガラルドは生まれて初めて悲鳴を上げた。
「わかった! 俺が悪かった! 見ただけで無事だとわかったんだ! 本当だ!」
「無事なら気遣いもないんですか!」
許してくれ! と本気で謝った。
気持ちがこもっていません! とミレーヌは憤慨している。
「大将が謝ったぞ」
珍しい現象だと黒熊隊の五人は視線を交わし合った。
もちろん、とっくに惨劇からは後退している。
ここまでミレーヌが奮闘するとは思っていなかったから、少々悩ましい表情である。
ガラルドの言い分も、実は理解できるのだ。
国や立場など面倒なことを考えなければ、本当に更地にしてきれいに吹き飛ばしておけば、自分たちの子孫もどんなに楽だろうと思ってしまう。
簡単に野盗に利用されるような砦なんて、単純に考えても無いほうがいい。
古代遺跡でもないし、壊しておけば誰にも悪用されないのは確かだし。
歴史がある貴重な建物だけど利用価値がないのだから、保護するのは莫大な国庫負担を考えるとただの無駄である。
それでも、それは流派と国の思考の差だ。
国にとって利点があるからこそ、国王が砦の保存を決めたのだから。
立場が変われば利用価値も変わる。
ただそれだけだ。
ずっとそりの合わなかった国家との協調を図ろうと歩み寄りをはじめ、王都に居を構えたこのタイミングで、文化財を破壊するわけにはいかない。
壊すなら壊すで、タイミングが重要なのだ。
ジャスティ王は理解があるが、国の重鎮は流派を快く思っていない。
それにガラルドは英雄像が先行しているので、今の時期に派手な破壊行動はできるだけ慎むべきだったりする。
まぁ、そんなこんなで今回はガラルドを止めていたのだ。
それにしても。
遠慮などかけらもなく、ボコボコにされている。
防具があっても生身にかなりダメージが蓄積されていそうだ。
なんだか直視できず、遠巻きにするしかない。
心の中で、ガラルドのために合掌した。
ちょっとだけミレーヌの憤慨の理由を意外だとは思っていた。
「わたくしの顔を見ても、砦を壊すことばかり考えるなんて! どれだけあなたは情のない、スットコドッコイなの!」
へぇ~と思うしかない。
ミレーヌ様は、ガラルドの心配や真心が欲しかったんだ。
期待するだけ無駄なのに、乙女心とは実に不思議である。
そういう細やかな気遣いができる奴ではない。
そんなことはここにいる誰もが知っていたが、これでガラルドも少しは身に染みるだろうと目をそらしていた。
けしかけたのは自分たちだが、かすかに心が痛む。
でも、いい機会なので、徹底的にやっていただくのは大歓迎だ。
うん、そう思おう。
それにしても、手加減がない。
目をそらしても、ガンガンと鋼の打撃音が連続している。
自分たちでフライパンを渡したものの気の毒に思ってしまうほど、ミレーヌの攻撃は見事すぎて近寄ることもできなかった。
なにより勢いが恐ろしくて、止めに入る勇気がない。
この二人、付き合ってもいない癖に、かけ合いが犬も食わない夫婦げんかみたいだ。
うまくはまりすぎて止める気にもならないが。
絵にかいたようなカカァ天下で、お二人さんお似合いですよ~なんて。
口が裂けても本人たちに伝えられないのが残念だった。
それにしても、ミレーヌの文句はつきることがないと感心するばかりだ。
なぜか裸で家の中をウロウロするのはやめろとか、いろんなガラルドの問題行動にまで説教が飛びまわっている。
無敵の剣豪も形無しのあり様である。
そろそろキリをつけなくては騎士団がやってくるのになぁと思い始めたころ。
ミレーヌの声が響いた。
「この建物を保護しますか!」
おお! 本題を忘れていなかった、とその台詞に皆で感心した。
日常の不具合にまで話が飛んでいたので、忘れているのかと思っていた。
「すればいいんだろうが!」
やけくそでガラルドは叫ぶ。
「まだ仕置きが足りませんか!」
ガツンと勢いよくフライパンがふり降ろされた。
「まだそんな口の利き方を! 他の方々にどれだけ迷惑をかけたかも、わかってないでしょう!」
「よせ! 悪かった! 次からはちゃんと相談して、皆の意見を聞くようにするから、やめろ!」
とうとうガラルドはすまんと謝っただけでなく「剣に誓って!」と誓約まで口にした。
「次からですって! 生ぬるいことを!」
「まだわからないんですの!」と再びガツンとやられて、ガラルドは「やめてくれ!」と悲鳴を上げた。
「わかった、今からだ! 今から!」
誰か助けてくれと、とうとう泣きが入った。
「このまま王都に帰りますか!」
「帰る!」
気持ちいい程きっぱりした即答だった。
「わかればいいんです、わかれば」
ふうっと息をついてミレーヌは立ち上がった。
ガラルドは良くも悪くも有言実行である。
きっぱりと宣言した言葉を、ひるがえすことはない。
自分の役割を全うし、ミレーヌは爽やかな笑顔を浮かべた。
日常の鬱憤をすべて吹き飛ばした気がする。
実に爽快な気分だった。
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