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おまけ 莉子の一歩
レイニー・ブルー 3
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お風呂からあがって、愛莉の服を着た。
身長が違いすぎるから、裾や袖を折りあげる。
あの子、本当に足が長い。
モデル並みの身長もうらやましくてしかたがない。
ちょっと前に広告モデルに応募したけど、私は身長ではねられてしまったから。
この折りあげた十センチ分だけ身長を分けてほしいとため息をつきながら、人の声のする居間に向かう。
私がお風呂に入っている間に洗濯機を回したり、愛莉は忙しそうに動いている音が聞こえていたけど、今は居間にいるみたいだ。
ふすまを開けて、目の前を塞いでいる背中に驚いた。
大きな若い男の人。
振り向いた愛嬌のある顔に、更に驚く。
ヘーゼルナッツみたいな明るい瞳と髪の色。
あきらかに外国人とわかる容貌だった。
「ハロー」
思わずそう言うと、その青年はニッと笑った。
ハロー! と挨拶したかと思うと、流れるように流暢な英語で勢いよくしゃべるので、理解なんてまるでできずに目を白黒させるしかない。
なに? ここ、日本でしょう?
和室になんで、外国人がいるの?
「莉子先輩。ジェイクは日本語が話せますから」
冷ややかな愛莉の突っ込みに、アハハ~とジェイクと呼ばれた彼はいたずらに笑う。
「これからがお楽しみなのに、ネタばらしが早すぎま~す」
「ジェイクに付き合っていると、朝が来るので無視してください。それに英語は意味がないです。生まれも育ちもドイツですから」
「ドイツ! ドイツ人なの?」
さっきの流暢な英語は一体なに?
私をからかっていただけ?
ひどい。この人、いたずらがひどすぎる。
私が焦りながら困る顔を見て、喜んでいたなんて。
「ノーノー! 祖国はドイツでも、英語も得意ね! 僕は歩いていると、必ず英語で話しかけられま~す。日本人はみんな英語が好きね!」
などとヘラヘラ笑っているのを、愛莉は綺麗に無視した。
スルーの仕方が、非常に慣れている。
「莉子先輩。テレビを見るなら居間に。騒がしいのが嫌なら、私の部屋に案内しますけど」
「先輩? 愛莉の先輩ですか? 平安ちゃんは同級生じゃないの?」
平安ちゃん?
妙な呼び名に私が困惑していると、テレビを見ていたはずの拓海がブハッと吹き出した。
「ほんとだ~麻呂だ~」
麻呂?
どういうことかしら?
愛莉に視線を向けたら、ハウッと妙に焦りながら目をそらした。
そこで目をそらされると、非常に気になるんだけどね。
理由を聞きたくて居間にいる子たちに視線を向けたら、みんな微妙に笑いをかみ殺してあらぬ方向へと目をそらしていく。
全員がそろって嫌な反応をする。
なに、これ?
「知りたいですか~? 知りたいですよね~? 僕は親切で~す」
妙なアクセントをつけたしゃべり方をしながら、前髪に触れようとしたのか大きな手がスッと近づいた。
上から降ってくるようなその大きな手に私はびっくりして、思わず後ろに跳んだ。
つい、ここにはいない父さんを思い出してしまったから。
母さんを殴る時に自分を大きく見せたいのか、必ず頭上に手をふりあげる。
本能的に恐いと思ってしまっただけなんだけど。
勢いをつけすぎたのか、ドンッと廊下の壁に音を立てて背中をぶつけてしまった。
ジェイクはちょっと驚いたように目を見開いていたけど、すぐにポリポリと自分の鼻の頭を人差指でかいた。
そして、穏やかな微笑みを浮かべて、握手のために右手をそっと差しのべてきた。
ふざけた様子を綺麗に消した、丁寧な仕草だった。
「はじめまして、ジェイクです。驚かせてごめんね。僕は日本語もわかります。よろしく」
真面目な顔でつむがれた日本語の挨拶に、私はバカみたいに返事ができなかった。
態度が豹変したせいもある。
おかしな態度をとったことも彼は気にしていないとその雰囲気でわかったけれど、怯えたことを見透かされてバツが悪かった。
ただ、握手するのをずっと待っている手を無視できなくて「莉子です」と名乗りながらそっと手を添えた。
大きくてごつい手が、私の手を不思議なほど優しく包んだ。
暖かい。
この家にいる人の手は、なんて暖かいのだろう。
軽く握りかえしたけど、なんだか離しがたい気がする。
さっき怖いと思ったのがウソみたいに、優しい大きな手だった。
本当にグローブみたいだと思いながら太い指を確かめるように軽く握ったら、クスクスとジェイクは笑った。
「麻呂ちゃんはかわいいね」
「莉子です。なんで麻呂?」
やっと口に出したけど、みんな一斉に噴き出した。
眉根を寄せると、愛莉が申し訳なさそうに口を開いた。
「莉子先輩。化粧ポーチ、持って来ましょうか?」
愛莉の部屋で乾かしていると続けられ、そこでようやくハッとする。
私、素ッピンだった!
メイクを落としたことまで、記憶から流していた。
バッと両手をあげて、思わず眉上からおでこにかけて隠す。
平安とか麻呂と呼ばれる理由がわかった。
眉頭はちゃんとしてるけど、眉尻が薄くて描かないとまるでないのだ。
カーッと頭に血がのぼっていく。
素顔を他人に見せていることに気がつかないなんて、大失敗だ。
「別に家の中だし、気にしなくていいと思うけど」
ぶっきらぼうに、宇宙が言った。
中学生の男の子にしては気が利いている。
まぁ、さりげなく視線はそらしているけどね。
「そんなことより、テレビ見る?」
「座ればいいのに」
廊下で話さずこっちにおいでと、大地や南雲が私を手招いた。
早く早くとみんなが待っている。
ひじょうに戸惑った。
いいのかな?
こんなあったかい空間に、素ッピンのまま私も入り込んで。
そんな資格、ない気がするんだけど。
すごくすごく不似合いな状況なんだけど、気持ちは彼らのところに向かっていた。
愛莉をそっと窺うと、座布団置いときますねと、サッサと私の座る場所を確保していた。
居間の真ん中。
兄弟たちの中心に座布団を置いて、ふわっと笑った。
そのまま何も言わずに、台所へと向かった。
まぁ、居間と台所の仕切りは綺麗に取り外されているから、何をしているかは丸見えなんだけど。
給食を作っているような大きなお鍋をかきまぜている背中を見ながら、私は座布団に座った。
なんで私、冬真の彼女の家で団らんしてるんだろう?
非常に戸惑うけど、一緒にテレビを見ているうちになんとなく和んできた。
最初はちょっと距離を置いていた南雲が、スルスルッと寄ってきて膝に座ったから、少し驚いたけどかわいいと思ってしまった。
重いけど、暖かい。
でも、さすがに素ッピンが気になるから、ついついおでこを手で押さえてしまう。
どうしよう、眉だけでも描こうかな?
口には出さなかったけれど、行動があんまりわかりやすかったのだろう。
「気にしないのが一番だと思うけど」
などと、宇宙と大地に突っ込まれてしまった。
まぁ、そうかもしれない。
かわいいと南雲が笑ったから、わかっていないと思うけど悪い気はしないし。
「いいじゃん、すごく面白くて」
「周りの人を笑顔にできる素顔はお得だね」
アハハッと爆笑する拓海とジェイクには、非常にムカついたけど。
なんですって? と怒るのはやめた。
もういい。
ここは、素のままでいい場所なんだ。
つくろったり、綺麗に着飾ったりしても、意味がない。
初めて顔を合わせているのにね。
私の居場所が自然に用意されている。
素ッピンが当たり前の、そんな場所だった。
☆☆☆
疲れた。
愛莉の家族はあの後もゾロゾロと増えて、非常に人口密度が高かった。
祖父母に父母に兄弟にホームステイ中の従兄。
全部で十人。
指折り数えて、まぁ! などと非常に驚いてしまった。
もっと意外なことに、家の中で格闘したりと暴れ回っているからルーズなのかと思ったら、けっこうしつけは厳しかった。
よその子もうちの子も変わりません! が、モットーらしい。
例外なく、私もピシリと手を叩かれた。
すみませんね、肘をついてお茶碗を持ってしまって。
まさか、箸の使い方まで指導されるなんて。
それも、生まれも育ちも生粋のドイツ人であるメイベルさんに。
愛莉に祖母だと紹介された時はマダムみたいにふんわりした温厚なイメージだったけれど、中身は竹刀の似合うキリリとした侍みたいな女性だった。
アッシュグレーの髪と瞳が印象的な人だ。
厳しいばかりじゃなくて丁寧に話をする人だし、流暢な日本語で茶碗の持ち方まで教わってしまい、思わずかしこまってしまった。
親に色々と頭ごなしに説教されると面倒になってフイッと自室に逃げ込むのに、メイベルさんに注意されるのは腹が立たなかった。
一生困らないから覚えなさいと、メイベルさんはどこか暖かな物言いをするので、不思議と反発せずにすんだ。
保育園の南雲よりも箸の持ち方が悪いと拓海に突っ込まれて、本当に悔しかったのであれこれとムキになって教えてもらった。
時間はかかったけどメイベルさんは迷惑がらずに、できるまでつきあってくれた。
こんなに真剣に何かに取り組んだことなんて、何年振りだろう?
お箸一つで汗をダラダラと流してしまった。
おかげで、マラソンを走りきった後みたいに非常に疲れたけれど、心が緩んでいた。
「うるさかったでしょう?」
布団を並べて敷きながら、愛莉が苦笑した。
別に、とも、そうね、とも答えられずに、無言で私もそれを手伝った。
居間でワイワイと話している最中は何かを考える隙間もなくて、どうして私がここにいるのかまで、すっかり忘れていたけれど。
やっぱり、愛莉と二人きりになると妙に落ち着かない。
しかも枕を並べて、愛莉の部屋で仲良く寝るなんて。
ものすごく、変な状況。
私が無言だったから、愛莉も無言だった。
布団に入っても、それは変わらなかった。
灯りを消して、しばらくしたころ。
私は愛莉に声をかけた。
「どうして、泊まれって言ったの?」
やっと訊けた。
ずっとそれを聞きたかったのに、今まで訊けなかったのだ。
愛莉は、ああ、と小さな声を上げた。
説明してなかったですね、と几帳面な彼女らしいセリフをもらした。
「祖母なら、少しはわかると思ったんです」
「え?」
「祖母ならきっと、莉子先輩のことを少しは理解できるはずだって思ったんです」
「メイベルさん?」
ハイ、と愛莉はうなずいたけど、私にはちっともわからなかった。
「もしかしたら、ジェイクも理解できるかもしれない」
「ジェイクも? どういうこと?」
「上手くは言えませんけど」
しばらく愛莉は考えを巡らせていたけれど、ゆっくりと口を開いた。
「祖母は日本に来たとき、自分が日本人ではないことが痛かったそうです」
他の国に滞在した時は自分自身がドイツ人だと強く感じるので、日本もそうだと思って嫁いできた。
でも、日本にはヨーロッパとは違う、独特の空気が流れていた。
自分がドイツ人だと感じていたなら、自国の文化や気質といった芯の部分は毅然として持ち続けていられる。
ただ日本に来てからは、自分は日本人ではないと感じるばかりで。
ここは居場所ではないと一秒の隙間もなく突きつけられるようで、踏みしめる足元を失った気分におちいってしまった、と。
自分が取るに足りないちっぽけな存在で、ここに存在することすら否定されているようで、息の仕方も忘れそうだった、らしい。
私は愛莉の話を聞きながら、なんだか意外だった。
だってメイベルさんは、ドイツについて語る時は毅然としていたから。
日本の文化にも見識が深くて、自分の生まれた国にも敬意を払っていた。
まったく揺らがない人に見えていたので、意外すぎて驚いてしまった。
でも。
なんとなく理解もできた。
足元が揺らいで自分を見失いそうだったから、よけいに日本のことも祖国のことも理解を深めようと努力して、今はあんなふうに自信を持って語れるのだろう。
簡単なことではないだろうから、よけいに尊敬してしまった。
何が彼女をそこまで駆り立てたのだろう?
「そうですね。愛があるから、なんてよく言ってますけど」
自分がどこの誰かなんかよりも、もっと大切なことを知っていたから、今でもここにいると笑っていた。
自分自身の気持ちにだけは嘘をつかないこと。
それさえ忘れなければ、大切なものを見失わない。
それだけ祖父のことを愛しているみたいだけど恥かしいですと、愛莉はクスクスと笑った。
確かにメイベルさんと旦那様の源蔵さんは、並んで立っているだけでも年齢を感じさせない程甘い空気が流れている。
でも。
「なんでそれがお泊りにつながるのか、ちっともわからないわ」
まぁ、悪くないけど。
ううん。悪くないどころか楽しすぎて、腹筋が痛くなるほど笑ってしまった。
愛莉の兄弟も、ジェイクもバカばっかり言うんだもの。
それにしても。
「今日、莉子先輩はうちに泊るから」
だけで、誰も不思議に思わなかったのが、逆に不思議だ。
だって、箸の使い方一つでもしつけの一環になっているぐらいでわかるけど、それほどルーズな家じゃない。
むしろ、よろしく~で、オッケーなんて適当なこと、通用しない家庭だと思う。
「私にもわかりません」
愛莉はキッパリとそう言った。
ものすごく自信たっぷりだったので、私はあきれてしまう。
「なに、それ?」
「だから、祖母にならわかると思って」
「ん~? 繋がらないわよ。理解って、何? 私、ドイツ人じゃないし」
愛莉の思考はちっともわからない。
「榊さんが言ってました」
「榊? 榊って冬真にくっついてる人?」
今度は冬真の世話役の弁護士の名前が出てくるなんて。
唐突過ぎたからビックリして愛莉を見ると、目を閉じていた。
なんだか、半分寝ているみたいな顔をしている。
もしかして、寝言……ではなさそうで、時々、ホチホチとまばたきしている。
そうとう眠いみたいだ。
もしかしなくても、正気ではない気がする。
それでもこぼれ落ちる言葉は、起きてるのと変わらない穏やかな口調だった。
「冬真先輩って付き合い方が変わっていて、本当に適当な人と、特別な人がいたって訊いてます」
「なに、それ?」
ずっと付き合っていたけど、特別がいたなんて私は訊いたことがない。
「どうでもいいという言い方は失礼ですけど、嫌いな人ほど頻繁に会うというか……とにかく自分の都合で呼び出す人。それから、相手の都合を受け入れる、特別な人がいたそうですよ」
う~ん、と私は頭を悩ませる。
特別な人って言葉の響きは、冬真にはものすごく似合わないんだけど。
たいてい、自分の都合でとっかえひっかえって感じで、寂しいのが嫌いだから片っ端から当たりをつけて、呼び出していた気がする。
今すぐおいでって言われて、行かない子は少ないし。
だって、冬真の家に上がるだけでもおいしいし、たいていの贅沢ならおねだりで叶う。
服だって食事だって業者をマンションに直接呼びつけて、自宅でファッションショーだってしようと思えば電話一本で実現できるのだ。
手配をするあの弁護士さんは、そうとう大変だと思うけどね。
私が黙りこんでいる間も、愛莉はポツポツと言葉をつむいだ。
「冬真先輩は自分から、莉子先輩を一度も呼び出さなかったって」
そうよ、と返事をしたけど、なんだか呆然とした。
今度行きたいな~ともらした場所に便乗する事はあったけど、確かに冬真から突然の呼び出しはなかった気がする。
いつもいつも、冬真には私から電話してた。
今から行ってもいい? って。
好きにすればって、気のない返事しか返ってこなかったけど。
行くと、必ず冬真は一人でいた。
それまで女の子がいたのかな? って想像できる残り香や、食べかけのお菓子が台所の流しに転がっていても、訪ねた時には冬真はいつも一人で待っていた。
あれが、特別?
ぜんぜん、わからなかった。
寂しいのが本当にダメな人だから、時間割みたいに予定を組んで、退屈しのぎにいろんな子と遊んでるだけだと思っていた。
私が行くから、部屋に来ている女の子も、追いかえしていたのかな?
ちょっとは私のことも、冬真は考えていたんだ。
なんだか胸がつかえて、泣きそうになった。
「冬真先輩の特別な人は、自分の居場所が他にない人だって。だから、簡単にいいとか悪いとか、判断してはいけない人たちなんだって、榊さんが言ってました」
驚きすぎて、私は言葉を失ってしまった。
あの弁護士、涼しい顔をしながら、そんなことを想ってたんだ。
だけど、愛莉が続けてそういう特別の人の名前をズラズラと六人ばかり並べるので、感涙が引っ込んでしまった。
ええ、その全員の名前は知っている。
もちろん顔見知りで、仲もいい。
冬真の家に行けない時に、都合があればそろってカラオケボックスになだれ込んだりする仲間だもの。
私と同じように自宅にいづらい子ばかりだけど。
特別の意味を知っている人数ではない気がして、なんだか白けてしまった。
多すぎない?
やっぱり、冬真ってロクデナシかも。
そのロクデナシのことばかり考えている私も、そうとう考えなしのバカだけど。
冬真ったら、本当にわかりにくい。
ああ、もう!
二度と二人きりですごすことはないというのに、どうでもいいなんて言えないのが困る。
ごめんなさい、と愛莉は不意に謝った。
「冬真先輩の家に行く途中だったんでしょう?」
違うわ、と否定しかけたけど、私は言葉を失った。
確かに自宅を出てフラフラと歩いていたのは、冬真の家に行く道筋だった。
無意識とはいえ、歩き慣れた道をたどっていたのだ。
あの自動販売機で立ち止まれば、行き場を失って立ちすくんでるのと同じだった。
考えなくても、誰でも想像してしまうだろう。
ごめんなさい、と愛莉はもう一回謝った。
やめてちょうだい、と私は肩をすくめるしかなかった。
「貴女には関係ないことなんだから、私が情けなくなるじゃない」
ごめんなさいと三回目の謝罪に、もう! と私は苦笑するしかない。
「いくら私でも、好きでもない男の家に上がり込む趣味はないわよ、ファミレスかネットカフェに行くつもりだったのに、傘がなかったから行きそこねただけよ」
ホントに冬真のことは惚れたはれたの好きじゃないのよと力を込めると、愛莉は「ええ」と気の抜けたような返事をした。
「よけいに、居場所は無理でも、避難場所ぐらいになれるかなって……」
苦笑みたいにそうつぶやいて、愛莉は黙った。
しばらく続きを待ったけど、スースーと寝息が届いた。
視線を向けると、ぐっすりという表現がぴったりな、安らかな表情で眠っていた。
本気で寝てる。
あきれていいのか、驚いていいのかわからなかった。
ものすごく寝付きがいい子だ。
つい、笑ってしまった。
本当に、バカな子。
でも、よかったと思った。
理由はわからないけど。
愛莉に会えてよかった。
スースーと安らかな寝息に、私も呼吸を合わせる。
気持ちいい。
枕を並べているだけで、手もつないでいないのに。
私は、今、この瞬間も独りじゃなかった。
身長が違いすぎるから、裾や袖を折りあげる。
あの子、本当に足が長い。
モデル並みの身長もうらやましくてしかたがない。
ちょっと前に広告モデルに応募したけど、私は身長ではねられてしまったから。
この折りあげた十センチ分だけ身長を分けてほしいとため息をつきながら、人の声のする居間に向かう。
私がお風呂に入っている間に洗濯機を回したり、愛莉は忙しそうに動いている音が聞こえていたけど、今は居間にいるみたいだ。
ふすまを開けて、目の前を塞いでいる背中に驚いた。
大きな若い男の人。
振り向いた愛嬌のある顔に、更に驚く。
ヘーゼルナッツみたいな明るい瞳と髪の色。
あきらかに外国人とわかる容貌だった。
「ハロー」
思わずそう言うと、その青年はニッと笑った。
ハロー! と挨拶したかと思うと、流れるように流暢な英語で勢いよくしゃべるので、理解なんてまるでできずに目を白黒させるしかない。
なに? ここ、日本でしょう?
和室になんで、外国人がいるの?
「莉子先輩。ジェイクは日本語が話せますから」
冷ややかな愛莉の突っ込みに、アハハ~とジェイクと呼ばれた彼はいたずらに笑う。
「これからがお楽しみなのに、ネタばらしが早すぎま~す」
「ジェイクに付き合っていると、朝が来るので無視してください。それに英語は意味がないです。生まれも育ちもドイツですから」
「ドイツ! ドイツ人なの?」
さっきの流暢な英語は一体なに?
私をからかっていただけ?
ひどい。この人、いたずらがひどすぎる。
私が焦りながら困る顔を見て、喜んでいたなんて。
「ノーノー! 祖国はドイツでも、英語も得意ね! 僕は歩いていると、必ず英語で話しかけられま~す。日本人はみんな英語が好きね!」
などとヘラヘラ笑っているのを、愛莉は綺麗に無視した。
スルーの仕方が、非常に慣れている。
「莉子先輩。テレビを見るなら居間に。騒がしいのが嫌なら、私の部屋に案内しますけど」
「先輩? 愛莉の先輩ですか? 平安ちゃんは同級生じゃないの?」
平安ちゃん?
妙な呼び名に私が困惑していると、テレビを見ていたはずの拓海がブハッと吹き出した。
「ほんとだ~麻呂だ~」
麻呂?
どういうことかしら?
愛莉に視線を向けたら、ハウッと妙に焦りながら目をそらした。
そこで目をそらされると、非常に気になるんだけどね。
理由を聞きたくて居間にいる子たちに視線を向けたら、みんな微妙に笑いをかみ殺してあらぬ方向へと目をそらしていく。
全員がそろって嫌な反応をする。
なに、これ?
「知りたいですか~? 知りたいですよね~? 僕は親切で~す」
妙なアクセントをつけたしゃべり方をしながら、前髪に触れようとしたのか大きな手がスッと近づいた。
上から降ってくるようなその大きな手に私はびっくりして、思わず後ろに跳んだ。
つい、ここにはいない父さんを思い出してしまったから。
母さんを殴る時に自分を大きく見せたいのか、必ず頭上に手をふりあげる。
本能的に恐いと思ってしまっただけなんだけど。
勢いをつけすぎたのか、ドンッと廊下の壁に音を立てて背中をぶつけてしまった。
ジェイクはちょっと驚いたように目を見開いていたけど、すぐにポリポリと自分の鼻の頭を人差指でかいた。
そして、穏やかな微笑みを浮かべて、握手のために右手をそっと差しのべてきた。
ふざけた様子を綺麗に消した、丁寧な仕草だった。
「はじめまして、ジェイクです。驚かせてごめんね。僕は日本語もわかります。よろしく」
真面目な顔でつむがれた日本語の挨拶に、私はバカみたいに返事ができなかった。
態度が豹変したせいもある。
おかしな態度をとったことも彼は気にしていないとその雰囲気でわかったけれど、怯えたことを見透かされてバツが悪かった。
ただ、握手するのをずっと待っている手を無視できなくて「莉子です」と名乗りながらそっと手を添えた。
大きくてごつい手が、私の手を不思議なほど優しく包んだ。
暖かい。
この家にいる人の手は、なんて暖かいのだろう。
軽く握りかえしたけど、なんだか離しがたい気がする。
さっき怖いと思ったのがウソみたいに、優しい大きな手だった。
本当にグローブみたいだと思いながら太い指を確かめるように軽く握ったら、クスクスとジェイクは笑った。
「麻呂ちゃんはかわいいね」
「莉子です。なんで麻呂?」
やっと口に出したけど、みんな一斉に噴き出した。
眉根を寄せると、愛莉が申し訳なさそうに口を開いた。
「莉子先輩。化粧ポーチ、持って来ましょうか?」
愛莉の部屋で乾かしていると続けられ、そこでようやくハッとする。
私、素ッピンだった!
メイクを落としたことまで、記憶から流していた。
バッと両手をあげて、思わず眉上からおでこにかけて隠す。
平安とか麻呂と呼ばれる理由がわかった。
眉頭はちゃんとしてるけど、眉尻が薄くて描かないとまるでないのだ。
カーッと頭に血がのぼっていく。
素顔を他人に見せていることに気がつかないなんて、大失敗だ。
「別に家の中だし、気にしなくていいと思うけど」
ぶっきらぼうに、宇宙が言った。
中学生の男の子にしては気が利いている。
まぁ、さりげなく視線はそらしているけどね。
「そんなことより、テレビ見る?」
「座ればいいのに」
廊下で話さずこっちにおいでと、大地や南雲が私を手招いた。
早く早くとみんなが待っている。
ひじょうに戸惑った。
いいのかな?
こんなあったかい空間に、素ッピンのまま私も入り込んで。
そんな資格、ない気がするんだけど。
すごくすごく不似合いな状況なんだけど、気持ちは彼らのところに向かっていた。
愛莉をそっと窺うと、座布団置いときますねと、サッサと私の座る場所を確保していた。
居間の真ん中。
兄弟たちの中心に座布団を置いて、ふわっと笑った。
そのまま何も言わずに、台所へと向かった。
まぁ、居間と台所の仕切りは綺麗に取り外されているから、何をしているかは丸見えなんだけど。
給食を作っているような大きなお鍋をかきまぜている背中を見ながら、私は座布団に座った。
なんで私、冬真の彼女の家で団らんしてるんだろう?
非常に戸惑うけど、一緒にテレビを見ているうちになんとなく和んできた。
最初はちょっと距離を置いていた南雲が、スルスルッと寄ってきて膝に座ったから、少し驚いたけどかわいいと思ってしまった。
重いけど、暖かい。
でも、さすがに素ッピンが気になるから、ついついおでこを手で押さえてしまう。
どうしよう、眉だけでも描こうかな?
口には出さなかったけれど、行動があんまりわかりやすかったのだろう。
「気にしないのが一番だと思うけど」
などと、宇宙と大地に突っ込まれてしまった。
まぁ、そうかもしれない。
かわいいと南雲が笑ったから、わかっていないと思うけど悪い気はしないし。
「いいじゃん、すごく面白くて」
「周りの人を笑顔にできる素顔はお得だね」
アハハッと爆笑する拓海とジェイクには、非常にムカついたけど。
なんですって? と怒るのはやめた。
もういい。
ここは、素のままでいい場所なんだ。
つくろったり、綺麗に着飾ったりしても、意味がない。
初めて顔を合わせているのにね。
私の居場所が自然に用意されている。
素ッピンが当たり前の、そんな場所だった。
☆☆☆
疲れた。
愛莉の家族はあの後もゾロゾロと増えて、非常に人口密度が高かった。
祖父母に父母に兄弟にホームステイ中の従兄。
全部で十人。
指折り数えて、まぁ! などと非常に驚いてしまった。
もっと意外なことに、家の中で格闘したりと暴れ回っているからルーズなのかと思ったら、けっこうしつけは厳しかった。
よその子もうちの子も変わりません! が、モットーらしい。
例外なく、私もピシリと手を叩かれた。
すみませんね、肘をついてお茶碗を持ってしまって。
まさか、箸の使い方まで指導されるなんて。
それも、生まれも育ちも生粋のドイツ人であるメイベルさんに。
愛莉に祖母だと紹介された時はマダムみたいにふんわりした温厚なイメージだったけれど、中身は竹刀の似合うキリリとした侍みたいな女性だった。
アッシュグレーの髪と瞳が印象的な人だ。
厳しいばかりじゃなくて丁寧に話をする人だし、流暢な日本語で茶碗の持ち方まで教わってしまい、思わずかしこまってしまった。
親に色々と頭ごなしに説教されると面倒になってフイッと自室に逃げ込むのに、メイベルさんに注意されるのは腹が立たなかった。
一生困らないから覚えなさいと、メイベルさんはどこか暖かな物言いをするので、不思議と反発せずにすんだ。
保育園の南雲よりも箸の持ち方が悪いと拓海に突っ込まれて、本当に悔しかったのであれこれとムキになって教えてもらった。
時間はかかったけどメイベルさんは迷惑がらずに、できるまでつきあってくれた。
こんなに真剣に何かに取り組んだことなんて、何年振りだろう?
お箸一つで汗をダラダラと流してしまった。
おかげで、マラソンを走りきった後みたいに非常に疲れたけれど、心が緩んでいた。
「うるさかったでしょう?」
布団を並べて敷きながら、愛莉が苦笑した。
別に、とも、そうね、とも答えられずに、無言で私もそれを手伝った。
居間でワイワイと話している最中は何かを考える隙間もなくて、どうして私がここにいるのかまで、すっかり忘れていたけれど。
やっぱり、愛莉と二人きりになると妙に落ち着かない。
しかも枕を並べて、愛莉の部屋で仲良く寝るなんて。
ものすごく、変な状況。
私が無言だったから、愛莉も無言だった。
布団に入っても、それは変わらなかった。
灯りを消して、しばらくしたころ。
私は愛莉に声をかけた。
「どうして、泊まれって言ったの?」
やっと訊けた。
ずっとそれを聞きたかったのに、今まで訊けなかったのだ。
愛莉は、ああ、と小さな声を上げた。
説明してなかったですね、と几帳面な彼女らしいセリフをもらした。
「祖母なら、少しはわかると思ったんです」
「え?」
「祖母ならきっと、莉子先輩のことを少しは理解できるはずだって思ったんです」
「メイベルさん?」
ハイ、と愛莉はうなずいたけど、私にはちっともわからなかった。
「もしかしたら、ジェイクも理解できるかもしれない」
「ジェイクも? どういうこと?」
「上手くは言えませんけど」
しばらく愛莉は考えを巡らせていたけれど、ゆっくりと口を開いた。
「祖母は日本に来たとき、自分が日本人ではないことが痛かったそうです」
他の国に滞在した時は自分自身がドイツ人だと強く感じるので、日本もそうだと思って嫁いできた。
でも、日本にはヨーロッパとは違う、独特の空気が流れていた。
自分がドイツ人だと感じていたなら、自国の文化や気質といった芯の部分は毅然として持ち続けていられる。
ただ日本に来てからは、自分は日本人ではないと感じるばかりで。
ここは居場所ではないと一秒の隙間もなく突きつけられるようで、踏みしめる足元を失った気分におちいってしまった、と。
自分が取るに足りないちっぽけな存在で、ここに存在することすら否定されているようで、息の仕方も忘れそうだった、らしい。
私は愛莉の話を聞きながら、なんだか意外だった。
だってメイベルさんは、ドイツについて語る時は毅然としていたから。
日本の文化にも見識が深くて、自分の生まれた国にも敬意を払っていた。
まったく揺らがない人に見えていたので、意外すぎて驚いてしまった。
でも。
なんとなく理解もできた。
足元が揺らいで自分を見失いそうだったから、よけいに日本のことも祖国のことも理解を深めようと努力して、今はあんなふうに自信を持って語れるのだろう。
簡単なことではないだろうから、よけいに尊敬してしまった。
何が彼女をそこまで駆り立てたのだろう?
「そうですね。愛があるから、なんてよく言ってますけど」
自分がどこの誰かなんかよりも、もっと大切なことを知っていたから、今でもここにいると笑っていた。
自分自身の気持ちにだけは嘘をつかないこと。
それさえ忘れなければ、大切なものを見失わない。
それだけ祖父のことを愛しているみたいだけど恥かしいですと、愛莉はクスクスと笑った。
確かにメイベルさんと旦那様の源蔵さんは、並んで立っているだけでも年齢を感じさせない程甘い空気が流れている。
でも。
「なんでそれがお泊りにつながるのか、ちっともわからないわ」
まぁ、悪くないけど。
ううん。悪くないどころか楽しすぎて、腹筋が痛くなるほど笑ってしまった。
愛莉の兄弟も、ジェイクもバカばっかり言うんだもの。
それにしても。
「今日、莉子先輩はうちに泊るから」
だけで、誰も不思議に思わなかったのが、逆に不思議だ。
だって、箸の使い方一つでもしつけの一環になっているぐらいでわかるけど、それほどルーズな家じゃない。
むしろ、よろしく~で、オッケーなんて適当なこと、通用しない家庭だと思う。
「私にもわかりません」
愛莉はキッパリとそう言った。
ものすごく自信たっぷりだったので、私はあきれてしまう。
「なに、それ?」
「だから、祖母にならわかると思って」
「ん~? 繋がらないわよ。理解って、何? 私、ドイツ人じゃないし」
愛莉の思考はちっともわからない。
「榊さんが言ってました」
「榊? 榊って冬真にくっついてる人?」
今度は冬真の世話役の弁護士の名前が出てくるなんて。
唐突過ぎたからビックリして愛莉を見ると、目を閉じていた。
なんだか、半分寝ているみたいな顔をしている。
もしかして、寝言……ではなさそうで、時々、ホチホチとまばたきしている。
そうとう眠いみたいだ。
もしかしなくても、正気ではない気がする。
それでもこぼれ落ちる言葉は、起きてるのと変わらない穏やかな口調だった。
「冬真先輩って付き合い方が変わっていて、本当に適当な人と、特別な人がいたって訊いてます」
「なに、それ?」
ずっと付き合っていたけど、特別がいたなんて私は訊いたことがない。
「どうでもいいという言い方は失礼ですけど、嫌いな人ほど頻繁に会うというか……とにかく自分の都合で呼び出す人。それから、相手の都合を受け入れる、特別な人がいたそうですよ」
う~ん、と私は頭を悩ませる。
特別な人って言葉の響きは、冬真にはものすごく似合わないんだけど。
たいてい、自分の都合でとっかえひっかえって感じで、寂しいのが嫌いだから片っ端から当たりをつけて、呼び出していた気がする。
今すぐおいでって言われて、行かない子は少ないし。
だって、冬真の家に上がるだけでもおいしいし、たいていの贅沢ならおねだりで叶う。
服だって食事だって業者をマンションに直接呼びつけて、自宅でファッションショーだってしようと思えば電話一本で実現できるのだ。
手配をするあの弁護士さんは、そうとう大変だと思うけどね。
私が黙りこんでいる間も、愛莉はポツポツと言葉をつむいだ。
「冬真先輩は自分から、莉子先輩を一度も呼び出さなかったって」
そうよ、と返事をしたけど、なんだか呆然とした。
今度行きたいな~ともらした場所に便乗する事はあったけど、確かに冬真から突然の呼び出しはなかった気がする。
いつもいつも、冬真には私から電話してた。
今から行ってもいい? って。
好きにすればって、気のない返事しか返ってこなかったけど。
行くと、必ず冬真は一人でいた。
それまで女の子がいたのかな? って想像できる残り香や、食べかけのお菓子が台所の流しに転がっていても、訪ねた時には冬真はいつも一人で待っていた。
あれが、特別?
ぜんぜん、わからなかった。
寂しいのが本当にダメな人だから、時間割みたいに予定を組んで、退屈しのぎにいろんな子と遊んでるだけだと思っていた。
私が行くから、部屋に来ている女の子も、追いかえしていたのかな?
ちょっとは私のことも、冬真は考えていたんだ。
なんだか胸がつかえて、泣きそうになった。
「冬真先輩の特別な人は、自分の居場所が他にない人だって。だから、簡単にいいとか悪いとか、判断してはいけない人たちなんだって、榊さんが言ってました」
驚きすぎて、私は言葉を失ってしまった。
あの弁護士、涼しい顔をしながら、そんなことを想ってたんだ。
だけど、愛莉が続けてそういう特別の人の名前をズラズラと六人ばかり並べるので、感涙が引っ込んでしまった。
ええ、その全員の名前は知っている。
もちろん顔見知りで、仲もいい。
冬真の家に行けない時に、都合があればそろってカラオケボックスになだれ込んだりする仲間だもの。
私と同じように自宅にいづらい子ばかりだけど。
特別の意味を知っている人数ではない気がして、なんだか白けてしまった。
多すぎない?
やっぱり、冬真ってロクデナシかも。
そのロクデナシのことばかり考えている私も、そうとう考えなしのバカだけど。
冬真ったら、本当にわかりにくい。
ああ、もう!
二度と二人きりですごすことはないというのに、どうでもいいなんて言えないのが困る。
ごめんなさい、と愛莉は不意に謝った。
「冬真先輩の家に行く途中だったんでしょう?」
違うわ、と否定しかけたけど、私は言葉を失った。
確かに自宅を出てフラフラと歩いていたのは、冬真の家に行く道筋だった。
無意識とはいえ、歩き慣れた道をたどっていたのだ。
あの自動販売機で立ち止まれば、行き場を失って立ちすくんでるのと同じだった。
考えなくても、誰でも想像してしまうだろう。
ごめんなさい、と愛莉はもう一回謝った。
やめてちょうだい、と私は肩をすくめるしかなかった。
「貴女には関係ないことなんだから、私が情けなくなるじゃない」
ごめんなさいと三回目の謝罪に、もう! と私は苦笑するしかない。
「いくら私でも、好きでもない男の家に上がり込む趣味はないわよ、ファミレスかネットカフェに行くつもりだったのに、傘がなかったから行きそこねただけよ」
ホントに冬真のことは惚れたはれたの好きじゃないのよと力を込めると、愛莉は「ええ」と気の抜けたような返事をした。
「よけいに、居場所は無理でも、避難場所ぐらいになれるかなって……」
苦笑みたいにそうつぶやいて、愛莉は黙った。
しばらく続きを待ったけど、スースーと寝息が届いた。
視線を向けると、ぐっすりという表現がぴったりな、安らかな表情で眠っていた。
本気で寝てる。
あきれていいのか、驚いていいのかわからなかった。
ものすごく寝付きがいい子だ。
つい、笑ってしまった。
本当に、バカな子。
でも、よかったと思った。
理由はわからないけど。
愛莉に会えてよかった。
スースーと安らかな寝息に、私も呼吸を合わせる。
気持ちいい。
枕を並べているだけで、手もつないでいないのに。
私は、今、この瞬間も独りじゃなかった。
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