風と狼

真朱マロ

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おわり  風と狼

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 平穏無事な生涯かと問われれば、そうでもない、とソルは答えるだろう。
 辺境という土地柄、ある程度の騒乱はつきものである。

 なぜ剣を手にするのかと問われたら、目の前に敵がいたからだと答えるような人生だった。
 害獣も、野盗も、隣国の侵攻も、打ち払うべき敵であり災厄なのだ。

 けれど、悪くない人生だったと、答えられる生き様でもあった。
 信頼できる騎士と、頼りになる獣と、才気にあふれる妻を得た、華々しい生涯だった。

 人生における困難は何かと問われれば、妻となったシャナの機嫌を取ることだと笑いもする。
 領地にも尽力したシャナが、甘く優しい顔をしたのは「生き延びた」瞬間だけだった。
 
 シャナは領主夫人となっても、故郷の村を好み、領地も良く回った。
 薬師の領分を離れず、時に驚くような知恵で災厄を退け、領土の発展に貢献した。
 その反面、ソルには表情豊かに絡んで甘え、派手に機嫌を損ねると、フイッと姿を消す事もあった。
 しょせんは風である。領館の中におとなしくとどまれる質ではない。
 必ずルヴァを連れて消えるので、ソルもさほど心配せず好きにさせていた。

 それに、どれほど怒っていようと、領地に災厄の兆しがあれば、シャナは疾風のように舞い戻りソルを助ける。
 ふふんと鼻で笑い「ソルには私が必要だろう?」と迫れば、指先でひと房の髪をすくい取り「言うまでもなく」と口付けるような仲の良さだった。

 結局のところ、窮地に際したとき限定の甘い情景だが、それが彼らの夫婦としての在り方だった。
 淡々と語り合いながら、男同士のように早足で、肩を並べて歩む姿が通常運航である。
 その様子を見た領民や騎士たちは「我が領主殿は、風と狼にたいそう愛されている」と酒のつまみにするのだった。

 風のように現れ、風のように姿を消す。
 つかみどころのない奥方だったが、領主同様に、領民からも慕われていた。
 ソルはシャナを愛し、生涯、政治の表舞台に立たせることはなかった。

 後世の記録には、ソルという領主の名前と、その子供の名前しか残されていない。
 婚姻の儀も領地で密やかに行い、妻は名すら貴族社会には秘匿されていた。

 だが、災禍が起こるたび。 
 剣を掲げて号令を放つ領主の傍らには、黒髪と金の瞳をした乙女と白銀の巨狼の姿が、常にあったという。
 
 その情景は「風と狼」と名付けられ、絵画にも残っている。
 




Fin


***あとがき***

最後までお付き合いありがとうございました。
最近はフワフワした甘いお話を書いていたので、ちょっぴり違うものを書きたくなりました。
自称・ブラックペッパー風味のお肉みたいにガツンとした物語になったかと(違うかな?

余談ですが、狼のルヴァさん。
オババの旦那様が、最愛の人を一人残したことが心残りでしかたなく、気合で生まれ変わってみたら、なぜか狼で。
しかも、すでにオババはこの世にいなかったりしたのかもしれない。
でも、オババの弟子なら、俺の子供と一緒だね! みたいな気持ちで見守っていたのならいいな……なんてことを妄想しながら書きました。

流行りから遠い物語なので、目を止めていただけて幸いです。
最後まで楽しんでいただけたことにも、感謝しています。
ありがとうございました。

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