ショートショート 恋重ね

真朱マロ

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星恋 もしくは 蛍恋

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星のない夜でした
月のない夜でした

暑い雲が空を覆い隠し
圧迫されそうなほど 閉ざされた夜でした

うだるような暑さの中で
今夜はちょうどいいと言う 
不思議なあなたに手をひかれ
真っ暗なあぜ道を歩きました

小さな懐中電灯だけが
心もとない希望のように見えました

おぼつかない足元で
慎重に歩を進めるだけで
玉になった汗がツウッと流れ落ちました

どこまでいくの?

不安になって聞いてみたけど
あなたは何も言いませんでした
もとより口数の少ない人ですけど
今夜ばかりは恨み言を言いそうでした

押し迫ってくるような闇が怖くて
汗ばむ手のひらを気にしながら
唯一の希望のように指をからめ
ただひたすら握りしめていました

どこまでいくの?

不安がふくれあがってしまい
同じことを問いかけてしまいました

あなたはようやく立ち止まり
ここでいいかとつぶやきました

言葉の意味を聞き返す前に
あなたは懐中電灯をカチカチと点滅させました

その瞬間
無数の光がわきあがりました

蛍でした

草陰から淡い緑色の奔流が
銀河のように空へと散って行きました

一定のリズムで光を刻みながら
星屑のように闇を彩りました

綺麗 と思わずつぶやいた私に
あなたは淡く笑ったようでした

蛍は死肉をくらって星になるんだよ

相変わらずのことを言うので
私は苦笑するばかりでした

それでも 
私のために蛍のいる場所を探してくれたのです

ありがとうと手を強く握ると
あなたも強く握り返してくれました

見飽きることはなかったけれど
そろそろ帰る頃合いに
あなたはぽつりと言いました

今度は本物の
星降る夜に 君と歩きたい

うなずいたけど
ほんの少し先に行く
あなたには見えなかったはず

きっと涼しい風の中
月のある夜でしょう
星のある夜でしょう

言葉がなくてもいいのです
想いがあればいいのです

星降る夜に手をつなぎ
ただ あなたと歩きたいのです

生まれたばかりの約束に 
今夜からは指折り数えて 空を見るでしょう

次に会える 星の夜まで
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