君が奏でる部屋

K

文字の大きさ
90 / 151
講師時代の想い出

1 相談

しおりを挟む

 その日、僕はターミナル駅の近くにある大型書店にいた。調べたいことがあったからだ。
 この件に関してはあまり人に見られたくなくて、講師をしている大学の図書館や、近くの図書館は利用したくなかった。近くに人はいなかった。立ち読みするだけだ。知っていたこともあるが、知らないこともあり、僕は大切なことだけを知識として頭に入れた。

 そういう時に限って誰かに見つかってしまうのは何故だろう。

「槇君?」

 明らかに僕を知っているような女性の声に、僕は慌てた様子を出さないように顔をそちらに向けた。若い女性だ。顔を見ても、誰だかわからなかった。

「突然すみません。大学院二年の如月慧子と申します」
「あぁ」

 僕は静かに本を戻した。急いでいるわけではない。思い出そうとしても、やはり知らない人だったが先輩か……わからないな。

「すみません。『槇先生』とお呼びするべきでした。失礼いたしました」
「いや、そんな。先輩にあたる方からそのような……」

 僕は手で制した。

「ふふっ、じゃ槇君で。私は他の大学からこちらの院に来たの。私の相方があなたのファンらしくて、本当に突然ごめんなさい。でも、ご相談したいことがあるんです。もしよろしければ聞いていただけますか?」

 他大学からの院生か。尚更わからない訳だ。相談ね……。

「駅に向かう間に伺えるような用件なら」
「ありがとうございます」

 真面目な人みたいだな……。僕達は駅に向かった。

「まさかお会いできると思っていなかったし、ご相談に応じていただけるとも思っていなかったです。ありがとうございます」
「お応えできるかわかりませんが」
 僕は淡々と答えた。

 如月さん……は意を決したように言った。

「今度、学内のコンチェルトオーディションに出るつもりなんです。去年は進学したばかりで準備不足でしたから出られなくて。今年は、オケパートの担当者を先生が紹介してくださったので」
「それが相方?誰?知っているかな」

「大学院一年の小林さんです」
「知らないな」

「ふふっ」

 如月さんは明らかに笑った。不愉快ではなかったが、何が可笑しかったのだろう。

「だって、大学の女子の名前とお顔を何人ご存知ですか?」

 あ、成る程ね。

「本当だ。全然知らないや」
「素直なんだ!イメージとは全然違うわ?ごめんなさい。何しろいろいろな方があなたの噂を……勝手に信じた私の方が失礼でした。ごめんなさい」

「如月さんこそ素直な方で。それで?」
「あ、はい。すみません。コンチェルトオーディションの前に、どなたかと試演会をセッティングしていただけないかと思いまして。あと、槇先生からもアドバイスいただけたらと……」

 真面目な表情だった。そういうことなら、頼られるのは構わない。

「わかった。人選は僕でいいの?」
「はい。友達同士ではない方が有難いので」

「僕でよければ。そうだな。カフェでも行く?」
「ありがとうございます!お時間がありましたら是非!」

「大丈夫。最低五人の予定を合わせるんだ。すぐに決まるかはわからないけど、お互いに良い機会になるといいね」
「ありがとうございます」


 僕達は駅の構内にあるカフェに入って、双方のスケジュールを確認した。

 それから、オーディションに参加する知り合いの中から試演会に適した人物を思い浮かべた。

















しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく… なお、スピンオフもございます。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...