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15 美桜に合う、よい進路って?
しおりを挟む僕としては、やりたいことをやった充実した夏休みになった。
シンイチと遊べたのは本当に楽しかったし、音楽鑑賞という新たな趣味ができた。
それなのに…………。
あと数日で夏休みが終わりだっていうのに、宿題をやっていない奴が同じ家にいるなんて!
僕は朝から晩までどこかに出掛けたくなった。
妹の美桜は僕とは違い、物事の見通しを立てずに、やりたいことからやるし、やりたくないことはやらない。好き勝手にして、羨ましいくらいだ。いや、決して真似したいわけではない。断じてない。
夏休みの宿題をやっていなかったことを、僕の友達に指摘されて思い出すとか、恥ずかしいし、ヤバすぎる。
お父さんには内緒で、美桜と僕とお母さんとで分担した。ピーマンも無事に育っていたので、僕は新しいノートに、同じ観察記録をもう一度書くはめになった。兄妹だし、同じものを育てていたって不思議じゃないが、もやもやするなんて表現では物足りない。ぶつぶつ小言を言う気にもなれない。書くのに余計な時間がかかる。こういう時は、ひたすら集中するに限るのだ。いい加減、美桜も気づいてもらいたいところだ。
モーツァルトを聴かせて育てたピーマンは、何故か今までで一番苦味を感じなくて、何だかよかった。モーツァルトのおかげかどうかはわからないから、『聴かせたピーマン』と、『聴かせないピーマン』の二種類育てて観察するべきだったと後でシンイチに報告したら、笑っていた。爽やかな奴だ。
そんなこんなで忙しさの中でいつの間にか新学期が始まり、夏休み明けのテストも終わった。
僕の小学校では、総合20番までの名前が掲示板に張り出される。名前が載ると、ちょっとしたヒーローになれる。僕はいつも10番以内で、シンイチの順位は僕よりちょっと下で、たまに抜かされることもあったが、掲示板には必ずいた。今回のテストでも、二人とも特に変わらなかった。
中学になると、難しい試験を受けて新たに入学する生徒がたくさん入ってくる。僕もシンイチも気を抜くなんてこともなく、新しい友達ができることを楽しみに、普通に真面目に授業を受けて勉強していた。
同じ小学校である美桜は、夏休み明けのテストで成績を少し落としたらしい。まあ、少しだ。もともと掲示板には載っていない。
けれど、年に何回かある学内テストで、美桜は更に成績と順位を落としていった。
美桜は、僕にもお母さんにもそれを見せていたが、皆でお父さんには言わなかった。日頃の信頼感があるからか、お父さんは僕の成績を聞くことはなかった。僕が自分で言わなくても、どのみちお母さんから筒抜けだ。美桜は、お父さんにバレないうちに挽回しようと思ってくれているといいのだが………。
自分の部屋で勉強しているのかどうかわからないが、またピアノを弾かなくなってしまった。お母さんは残念がったが、成績がこれではと、ピアノの練習を促すこともなく、ただ見守っていた。
もともと、私立に比べると地味で真面目な家庭が集まると言われる校風の、都内の国立小学校だ。中学までは無試験でそのまま上がれる。しかし系列の附属高校には一定の人数しか上がれない。当然、成績順だ。僕もシンイチも全く問題ない。
僕より一つ年下の美桜は、僕達が中学生になる時に六年生になる。
美桜が五年生最後の試験の後、ついにお母さんが担任の先生に呼ばれた。
東京近郊には学校はたくさんある。だが、ほとんどが中高一貫校で、特に女子が高校から入学できる学校があまりない。ほとんどない。高校受験をするとなると、中学の成績が必要になる。このレベルの高い中学で成績が悪いとなると、公立はもちろん私立高校の入試も不利になるらしい。それを見越して、中学には上がれるけれど、敢えて私立中学を受験する子もいる。ご家庭の判断で、よく考えて……そんな話をされたらしい。
本当は僕には関係ない……けれど、お母さんは不安なのか、お父さんに言う前に僕にそれを言ってきた。
「タケル、どうしよう?」
「僕にはどうにもできない。お父さんとちゃんと話して、美桜に合う、よい進路を考えてやって」
かくしてお母さんは、美桜のことをお父さんに言うことになった。
驚いたことに、美桜はその場で、
「私、音大に行くために違う中学に行く!」
と言った。
お父さんは、美桜が言い出せない成績だったこと、黙っていたこと、音大に進むこと言ったことをだろうか……全部か。静かに何かを怒っていたが、高校受験の大変さを少し知っているからか、一先ず私立中学の受験を認めてくれた。
僕は終業式の後でシンイチをつかまえて、そんなことを話した。シンイチとピアノの話をするのは久しぶりだった。美桜がピアノを練習していなかったからだ。シンイチからは聞いてこなかったし……。シンイチに、何かをお願いするなんて考えていなかった。なんと言うか、報告したいだけだった。
シンイチは、4月に行われる、シンイチのお母さんの発表会を聴きに来たらどうかと提案してくれた。現役の学生の他に、音楽大学や音楽高校の受験生もいるらしい。シンイチとかおちゃんも最初に弾くという。日にちと時間と場所を教えてもらった。
僕は、美桜とお母さんに話して、発表会を聴きに行くことにした。僕は、久しぶりにシンイチのピアノが聴けることを楽しみにしていた。
それから、シンイチがピアノを教えたという、かおちゃんのピアノも聴いてみたかった。
去年は『キラキラ星変奏曲』を弾いたそうだ。
あの小さいかおちゃんの『キラキラ星』は、きっと可愛かっただろうな。
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