異世界にお引越し! - 訳あり物件でした -

でもん

文字の大きさ
8 / 78
第1章 引越先は訳ありでした

8.ダメージ

しおりを挟む
「こんな事になってしまい、本当に申し訳ありません」

 村長達が出立の準備をしている間、リリィは謝罪を繰り返していた。

「本当であれば、国を挙げての歓迎式典となるはずが、お出迎えの部隊はなく、村の人たちも、神殿の神託を全然信じていなかったし、ルカスまでも私の事を残念扱いするし……」

 最後は俺、関係ないよね?
 問題無い、余計な騒ぎになるよりは、この方がいいのだとリリィに説明すると、ようやく落ち着いたらしく、

「そう言っていただけると……あ、私の方も、早馬を出す手配をしてきます。ちょっとお待ち下さい」

 そう言って、リリィは村の中心に向かって走り出した。

 10分ほど、一人で門の前で待っていたら、村長達3人とリリィが戻ってきた。

「お待たせしました。改めてご挨拶いたします。フェロル村の村長で、マルコと申します。こちらは、リリアナ殿がご滞在されている家の長男ルカスです」

 リリィのお婿さん候補かな?

「そして、この村には神殿はないのですが神の社を管理する僧侶のカサル様です」
「カサルです。神殿とは仲が良いとは言えない関係ですが、今回は救世主様のご案内を務めさせていただきます」

 禿頭の老人が続いて紹介された。

「それでは出発しましょう! 走ります?」

 リリィの言葉は、きっぱりと断った。

----------

 リリィを先頭に、村長、禿頭、俺、ルカスの順で早足で歩く。ミントは結局、俺の腕の中だ。

「村長、今日、この先でスライム2体に襲われました」
「なんだと、こちら側でスライムとは珍しい……」
「1時間以上経っているので、もういないとは思いますが、念のため注意していきましょう」

 林に差し掛かったところでリリィは皆に警告を発した。
 その言葉に少し引っかかる所があったので、後ろを歩くルカスに聞いてみる。

「スライムと遭遇するのって珍しい事なのか?」
「そうですね。スライムは湿地帯を好みますので、この辺では聞いたことがありません」

 胸に抱えたミントが小声で伝えてきた。

「パパさん、ちょっと離れてはいるけど、なんか動いている気配はあるよ」
「そうか……近づいてきたら教えてくれ」

 ミントの言葉もあってか、俺は、特に上方を警戒しつつ林の中の道を歩き続ける。
 林の切れ目が見え、石畳の階段が見えてきた頃に、それは来た。

「パパさん、後ろ!」

 ミントの叫びに後ろを振り返る。
 ルカスがキョトンとこちらを見る。その上方から影が落ちてきた。
 とっさに振り返った勢いのまま右手を伸ばしルカスの服をつかみ石畳の外へ投げ出す。左手に抱えていたミントが池面に飛び降りる。

 ルカスを投げたところで、上から落ちて来た冷たくてブヨブヨしたものが俺の腕に当たった。
 
「スライムです!」
「パパさん、足元!」

 リリィとミントが同時に叫ぶ。

 そこには先程よりははるかに小さい50cm程度の楕円のスライムが上下に伸び縮みしていた。咄嗟に足を引き回避する。

「ルカス!」

 村長が道から外れたルカスの手を引き、道へ戻し

「急いで聖地の入り口まで! すぐそこです」

 禿頭の号令で、そのまま、聖地の入り口まで全力で走りだす。
 あんな小さいなスライムでも勝てないものなのか?

----------

 階段まで、ほんの30m程度。
 そのまま聖地の階段を数段駆け上がった所でリリィが止まる。
 今度は置いて行かれなかった。

「ここならもう大丈夫です。ルカス、怪我は無い?」
「ちょっと擦り剥いたくらいだから、大丈夫。救世主様、命を助けていただき、ありがとうございます」

 涙目でお礼を言うルカスに

「大丈夫ですよ。それにあんな小さなスライムに大げさな、少し当たりましたが、ほとんど重さも無かったですし……」
「タナカ様!」

 当たった場所を見せようと右腕を上げた瞬間、リリィが右腕に飛びついてきた。

「カサル! ポーションは持っていないか?」

 村長が禿老人に声をかける。

「村用の効き目の薄いものしかない!」
「それでいい、救世主様に飲ませろ」
「ああああ、救世主様が、私をかばって……」

 ルカスが本格的にうずくまって泣き出す。

 自分を取り囲む突然の騒ぎに驚きつつ、リリィが抑えている右腕を見る。

「大丈夫です。タナカ様、大丈夫です」

 うわ言の様に繰り返すリリィが抑えている部分。
 肘から先の外側の部分を見る。

「う、うわー、なんだじゃこれはーーー!!」

 ちょうどスライムが当たった場所。服は破け、中に見える腕の肉の一部に穴が空いていた。
 少し白いものが見えるのは骨か?  思わずその間にへたり込む。

「う、腕が……そんなかすっただけなのに……」
「パパさん、しっかり、大丈夫」

 こんな状態なのに痛みが全くないのが不思議だ。そのためか、驚きつつも、どこか冷静な自分がいる。リリィの体から出るふんわりとした良い香りに、あんなに汗をかいたはずなのにいい匂いがするなぁ……なんて事を考えていた。

 だが、事態はそんな生易しい状態ではなかったらしい。
 リリィが悲鳴をあげる。

「カサル様! まだ浸食しています。傷が広がっていく」

「水、水だ!水は無いか? ポーションは1本しか無いから、かける訳にはいかない!」
「あ、水ならあります。リュックに入ってます」

 自分の身体の事なのに、現実感が無い。つい呑気な声で答えてしまう。

「ルカス、出して!」

 リリィの指示にルカスが、涙を流しならが這い寄り、俺の背中のリュックを弄りペットボトルを出す。

「ど、どうやって開けるんだ? どうやって開けるんだよー」

 どうやら回すキャップタイプの蓋は、こちらには無いものだったらしい。ペットボトルなんてあるわけ無いか。どうにかキャップを上げ、ルカスが水を傷口にかける。流れ出る水をぼおっと眺める。

 その瞬間……

「い、痛い! 痛い! 痛い!」

 腕から初めて激痛が走る。

「我慢してください。スライムが痛みを麻痺させながら溶かしていたんです。痛むのはスライムが水で流せている証拠です」

 我慢できるような痛さでは無い。リリィが強く体を押さえつけていなければ、階段から転げ落ちていただろう。
 痛みで叫び続ける。

「これを飲んでください」

 カサルが口の中に小いさな瓶らしきものを押し込む。ポーションなのか? 飲めば痛みから解放されるのか? 痛みで考えがまとまらないが、必死にビンの中の液体を嚥下する。

「治療効果は薄いですが、痛みはマシになると思います。もう少しだけ我慢してください」

 痛みで震えが止まらない。全身に力を入れ痛みを堪えている体をリリィが強く抱きしめてくれる。その身体の温かさだけが、今の自分の頼りだった……
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

処理中です...