異世界にお引越し! - 訳あり物件でした -

でもん

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第2章 フェロル村

15. 逢魔

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===== Main =====

 子供達同士はすっかり仲良くなったが、いざ帰るという時、チコが一緒について来ると言い出した。

「スライムが出るかもしれないし、よそのお子さんなので、何かあっても責任は取れないのですが…」
「大丈夫ですよ。私が付いていますし、帰りは走って帰れば、すぐですよ」

 やっぱりこのくらいの子も走るのか。
 リリィが大丈夫というのなら、そこは任せよう。

「それでは林の入り口までは、自転車で移動しますが、チコ君は走る? それとも自転車の後ろに乗る?」
「走ります!」

 ここは人類最弱な世界だけど、その中でも俺たちの家族が最弱だったりしないか? 

「わかりました、それじゃ出発です。チコ君、無理だったら早めに言ってね」
「はい」

----------

 チコの走力は問題ありませんでした。
 なんの問題もなく林に差し掛かる。

「それじゃ、この後は行きと同じように傘をさして行くよ。ゴム手袋も忘れずに。お父さんが先頭を行くので、リリィさんが最後尾をお願いします。浩太とチコが俺の後ろ、お母さんは、ユイカとその後ろね」

 先頭でミントを自転車のカゴに乗せ、傘をさし、自転車を押しながら結界のある階段を目指す。

「パパさん、昨日より少し静かだよ」

 ミントが教えてくれるが、それは吉兆なのか凶兆なのか判断がつかないな。
 改めて振り返って、皆に指示を出す。

「何かあれば、すぐ大きな声を出すこと」
「「「はーい」」」

 往路は大丈夫だった。復路も大丈夫だと思いたい。

===== Kota =====

 お父さんの後ろを歩き出す。

 チコの事が心配だったので、傘に入れてあげる。
 大人用の大きな傘なので、すっぽりと入る。

「さすが救世主様だね。こんな凄い道具があるなんて」
「そんな凄い道具じゃないよ。普通にコンビニで売っているし」
「コンビニ?」
「夜中もずっとやっていて、いつ行っても、色んなものが売っているお店なんだ」
「へー」
「おにぎりとか、お弁当とか、パスタとか売っているよ」
「??」

 チコはあんまり常識を知らないのかな?
 お弁当は知っていたみたいだけど、おにぎりとパスタは知らなかった。

 どんなものなのか、教えながら歩くのに夢中になって、僕はこの時、傘を担ぐように頭の上からずらしてしまっていた。

 その時、ミントの叫び声がした。

===== Main =====

「コータ、上!!」

 ミントが叫んだ。

 振り返ると、浩太とチコが上を見る。

 ちゃんとさすように言っていた傘がずれている。

 上から影のような塊が落ちてくる。

===== Kota =====

 ミントの叫び声に僕はとっさに上を見る。
 何か黒いものが見えた瞬間、僕は傘を頭の上に戻して、踏ん張る。

 ドス!

 傘に何か重いものが乗っかって、跳ね返した。
 石畳の向こうに、「ドサ!」っと音がして、その何かが落ちたみたいだ。

「……」
「……」

 チコと顔を見合わせ、その後お父さんを見る。

「せ、セーフ」

 お父さんの顔は真っ青だった。

===== Main =====

 危ない!
 そう思った瞬間。
 浩太が傘を戻した。

 ギリギリ間に合った。

 上から落ちてきた塊は傘にあたり、跳ね返って石畳の外側に落ちた。

 50cmくらいのスライムだ。

 途端、全身から冷や汗が出てくる。

「せ、セーフ」

 浩太が引きつった笑いでこちらを見る。

 危なかった。ほんの一瞬でもタイミングが遅ければ、真上から襲われていた。

「危なかったー、お父さん僕すごくない、ほら、ここに当たった」

 浩太が傘のスライムが当たったと思しき部分をこちらに向けた。
 傘に隠れて視界からコウタが消える。

「コータ、ダメだ!」

 ミントの声がもう一度響く。

「浩太!!」
「ダメー!」

 浩太の後ろにいた妻と娘の悲痛な悲鳴がそれを追いかける。

===== Kota =====

 お父さんに、スライムが当たった場所を見せようとした瞬間、またミントの声がした。

「コータ、ダメだ!」

 その瞬間、僕は背中を強く押され一瞬宙に浮いたような気がした。
 お母さんとお姉ちゃんが、何を叫んでいる。

 誰かが僕を抱きしめると同時に、

 ドサ!

 後ろから音がする。

 少し遅れてリリィの絶叫が聞こえる。

「チコーー!」

===== Main =====

 ミントの叫び声と同時に傘がこちらに吹っ飛んできた。

 妻と娘の悲痛な声が響く。

 傘が上にずれ、その下に浩太が見える。

 傘の端が目の横を削るが、そのまま浩太を抱き寄せ、体を丸める。

 リリィがの絶叫が聞こえる。

「チコーー!」

 後ろを振り返ると、チコが倒れていた。
 ちょうど腰の上に、1m程度の大きさのスライムがのしかかっている。

「ユイカ!、近づくな!」

 娘が慌てて駆け寄ろうとするのを声で止める。妻が娘に追いつき抱きしめる。

 その時、浩太が俺の体の影から顔を出した。
 チコを見てしまったのだろう、俺の腕を振りほどこうと、暴れ出す。

「チコー、チコー、うわー」

 それを押さえつけながらリリィを見る。
 リリィは倒れているチコに駆け寄るが手を出せない。
 腰と接触している部分のスライムが少しずつ赤く染まっていく。

「ひとえ、ゴム手袋をリリィに!」

 妻が、ユイカを離し、自分のバックからゴム手袋をリリィに渡そうとする。
 その瞬間、鼻に猛烈な痛みが走り視界が真っ赤に染まった。

===== Kota =====

 何が起こったかよく解らないまま、後ろを振り返った。

 チコが倒れていた。

 その腰の上にはスライムが乗っかっている。

 真っ白な顔をしているチコと目が合う。

「だいじょうぶ? 良かった」

 そんな風に口が動いた気がした。
 チコが目を閉じる。

「チコー、チコー、うわー」

 チコが大変だ。
 チコが溶かされる!
 チコが死んじゃう!!

 頭の中が爆発したように、「恐れ」が駆け巡る。

 全身を滅茶苦茶に動かし、僕を押さえつけている腕から逃げようとする。

 ゴン!

 頭の後ろが何かに当たった瞬間、僕を押さえつけていた力が緩む。
 そのまま腕を振りほどき、チコに近づく。
 足がガクガクして、うまく進めない。

 スライムとチコが接触している部分はピンク色になっていた。
 少しずつ、その赤みが濃くなっている気がする。
 チコの身体がどうなっているのか、その部分だけ、スライムが濁っていて見えない。

「チコ、待っていて。すぐ助けるから」
「触っちゃダメ! 手が溶けちゃう」

 目を閉じていたチコが、掠れた声で僕を止める。

「だいじょうぶ、ゴム手袋をしているから。これですぐスライムをどかすから」

 スライムに対して怖さなんてなかった。
 せっかくできた友達を助けないと。
 すぐ助けないと、チコが溶かされちゃう。
 その方がずっと怖い。

 スライムに向けて手を伸ばす。

「バカー」

 お姉ちゃんが叫ぶ。
 でも、手を止めない。
 大丈夫、僕の手は溶けてない。

 もっと力を入れてスライムをつかむ。
 でも、スライムはゼリーみたいに柔らかくてつかんだ所だけ取れて、どかす事が出来ない。

「コータ!」

 お姉ちゃんが泣きながら僕を突き飛ばす。
 そして、お姉ちゃんは、自分の手でスライムを掬うように千切り始めた。

 僕もそれを見て、お姉ちゃんと同じように、スライムを千切る。
 お父さん、お母さん、リリィも来た。

 少しずつ削るようにスライムを減らす。
 チコの声がしなくなったけど、大丈夫、まだ間に合う。

 大丈夫。
 助けるから。

 チコを、

 助けるから。

===== Main =====

 スライムをあらかたどかし、傷口を露出できた。
 スライムに直接接触していた腰骨、大腿骨がほとんど露出してしまっている。
 多分、内臓にも達しているだろう。

「水で、傷口を洗うぞ」

 それでもリュックにあった、水を取り出し、もう手で取る事ほど残っていないスライムのかけらをチコから洗い流す。
 この傷の状態なのに、洗い流した後からの出血が少ない。

 リリィが、必死にチコに声をかける。

 その間、残った水で、念のため、みんなの体を洗い流す。
 スライムの一部が身体に触れたみたいで、誰もが火傷みたいな傷を負っている。

「タナカ様、意識が戻りません」

 リリィが悲痛な叫びを口にする。

「チコ、チコ」

 浩太が必死に呼びかける。

「家だ! 家に連れて行けば、治るかもしれない」
「はい!」

 リリィがそっと抱き上げ、その後、全速力で階段の方へ向かって駆け出した。

「俺たちも行くぞ」

 浩太もユイカも涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら自転車に飛び乗った。
 必死にリリィを自転車で追いかける。

「あの傷ではもう……」

 妻が青い顔をしながら、子供達を追う。

 少しだけ遅れて、俺も自転車を走らせる。

 それでも自分の子供じゃなくて良かった……と言う親としてのエゴから来る罪悪感に慄きながら。

 これ以上の被害が無い事を祈り、上方を警戒しつつ、俺も追いかける。
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