異世界にお引越し! - 訳あり物件でした -

でもん

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第2章 フェロル村

<王国編> 3. 王族の陰謀

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「何故だ!」

 豪華なシャンデリアの下で、若い男が叫ぶ。
 王族の一人、コリーノ家の当主ファビオである。

「こんなに千載一遇のチャンスを、あんな小娘にくれてやらなければならない」

 そう問いかけられたのは、ファビオの前でひれ伏して知る、大きく膨らんだ腹を持つヒキガエルのような顔つきの男だった。

「ファビオ様、このマシアスの力が足りず、本当に申し訳ありません」

 マシアスと名乗った男は、聖ダビト王国の伯爵であり、マシアス商会を保有する大富豪であった。

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 つい先月までは二人の力関係は逆だった。

 ファビオとマシアスの関係は叔父甥の関係にある。その関係もあって、ファビオはマシアス商会から多額借り入れをしていた。借り入れ金は、ファビオの道楽と、道楽の延長とも思える無理な投資で消えてしまっており、その返済期限の延期のため、ファビオは王族であるプライドなど、かけらも持っていないと思う程、叔父であるマシアスに何度も頭を下げていた。

 それが、国内の各神殿に降りた神託によって、逆転する。

 ファビオの王位継承権は第9位。
 これは、現王の直系の子供達に次いで高い継承権であり、まだ成人しておらず、これから継承権を持つ予定の者も入れると100人以上いる王位継承者の中でも、相当な高位に位置する。それでも、今後のファビオが王位に付く可能性は限りなく低い。

 だが、92ある聖地に降臨した救世主を連れて戻った者が王位に就くという、とんでもない話により、ここに来てファビオが王位に就く可能性が出てきた。

 そこでマシアスは考える。

 ファビオを王位につけ、王の叔父として、王の後ろ盾として、今以上の権力を持つ事を。ただ、事はそう簡単では無い。まずは92ある聖地の正解へファビオを派遣しなければならない。合わせて距離的な問題、また、移動中に魔物と遭遇する可能性を考慮しなければならない。正解を引き当てても、その道中でファビオが死んでしまっては意味がないからだ。

 92も候補がある状態では、どこを選べば確実にファビオを王位に導く事ができるのかなど、解らない。

 マシアスの屋敷にファビオが、もう何度目になるか解らない借金返済期限の延期を頼みに、頭を下げ、その後頭部を見ながら、そんな事を考えていた時に、新たな情報を持った来訪者が来た。

「ファビオ様、オクシヘノ神殿の神官が御目通りを願っています」
「我々二人にか?」
「はい、お二人へ……お急ぎとの事です」
「わかった、通せ」

 陰鬱な雰囲気を持つ男がやってきた。

「オクシヘノ神殿の神官を務めておりますサレスと申します」

「神官が何の用だ? しかもファビオ様とわしが大切な会談をしている時に割り込んで来るとは」

「はい、お二人に重要なお知らせをさせていただきたいと考えて、急遽、無礼を承知でお邪魔させていただきました」

「話とは何だ。遠慮せずに申してみろ」

 ファビオが王族らしく、サレスを促す。

「此度の神託ですが、これまでの神託を補足するような新たな神託が我が神殿にあった事をお伝えに来ました」
「ふん、なんだ、そんな事か」

 その話を聞いて、ファビオが途端に興味を失った。
 王位継承権も含めて、自分に関係があるという意識が無いのであろう。

「何と、してそれはどんな情報か?」

 マシアスが続きを促す。

「申し訳ありません。神託の中身までは、一介の神官である私までは開示されておりません」
「それで……お前は何しに、ここへ来た?」

 ファビオを王位に就けるための一手になるかもという期待があったが、この一言で、途端、サレスの扱いもぞんざいになる。

「おや、気がつきませんか。この情報の価値が?」
「どういう事だ」

「追加の神託があったのは現段階で我が神殿だけになります」
「何だと!」

 マシアスは、この情報の重要性を理解した。
 その見込みがあったからこそ、サレスはこの情報をマシアスに持ってきたのだ。

 当然、将来的な見返りを期待しての事だ。

「サレス殿……といったな、必ず、わしの元にその情報を持ってきた、そなたの目が正しかったと、証明して見せよう」
「叔父上、どういう事でしょうか?」

「後で説明するから、ここは私に任せてください。ファビオ様、私があなたを必ず王にしましょう」

 マシアスはファビオに対して膝を付き、ファビオに従う臣下としての第一歩を踏み出した。

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 追加の神託があった神殿が一つしか無いのであれば、その神殿に関係する聖地が救世主が降臨する最有力候補、本命と言って間違い無いだろう。少し強引な手段を使って、その聖地へファビオを派遣しよう。

 そう考えていたマシアスだが、幾つかの誤算があった。

 実は別の内容で追加の神託が、他の幾つかの神殿にもあったという事だ。そして、そこでも同じように自ら「ここに」と思う貴族へ走った神官がいたのだ。

 喜劇のような、彼らの思惑が入り混じり、どの聖地へ誰を派遣するかは、水面下で大いに揉めた。

 マシアスも、ファビオを思惑通りの聖地に派遣すべく迎賓部隊を整え、強引に出発させようとした。

 いざ、出発という段になって、たまたま、別の聖地に同じような心算こころづもりで出発しようとしていた他の王族と鉢合わせてしまい、どこへ向かうのかとお互いが牽制し合う中、迎賓部隊がぶつかり合う寸前までの事態に陥ってしまったのだった。
 ちなみに、お互いの目的地は全く違う場所だったのだが……

 たまたま、現王の長女を乗せた馬車が近くを通ったため、王女の仲介により、その日はお互い出発を見合わせる事になった。その報は王の耳にすぐさま入り、最悪、内戦まで発展しかねない事態を重く見た王により、神官長や有力貴族を集めた会議が招集されたのである。

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 その結果、冒頭に戻る。

「何故だ!何故、ヒメノ家の小娘が、俺が行くはずだったフェロル村に行く事になったのだ!」

「申し訳ありません。私の力が足りなかったばかりに……」

 ダビト選王会議の結果、王の発案で、すべての聖地へ王族を派遣する事、派遣先の選定は公平にクジで抽選とする事となってしまったのだ。

「だが、ご安心ください。ヒメノ家の小娘が救世主を連れて戻って来る事が無いよう、準備をします」

「どうするんだ。ヒメノ家の騎士団が小娘を守っている所を、我が騎士団で襲うのか? 王にバレてしまうのでは無いか?」

「いえ、少し調べましたが、ヒメノ家には嫡子と当主の兄弟に当てる迎賓部隊を揃えるのも、ままならない状況です。そこで私の方から、融資を条件に、小娘の迎賓部隊には軍を使うよう働きかけます」

「それで?」
「軍にはツテがあるので、そのもの達を使って」

「殺すのか?」
「いえ、そこまでは現段階では……」

 どうしようもなければ、仕方が無い。事故はどこにでも転がっている。マシアスはそう考えていた。

「軍から部隊を派遣し、小娘が逃げ出すよう算段をします。根を上げて逃げ出せば、そこにファビオ様が……そうでなければ、無理矢理にでも救世主を我が屋敷に連れ帰り、ファビオ様のお手柄とさせていただきます」

「解った。任せる」

 その後、マシアスはサレスを呼び、幾つかの指示を与えた、

 ----------

 シエロ男爵家を出発したリリアナは、すぐさまオクシヘノ神殿に向かい、神官長より、救世主を迎える任務について指示と神託の内容を聞く。

「それでは、道中の無事をお祈りしています」
「ありがとうございます」

 神殿を出た後、軍部に向かうはずだったのだが、急遽、王宮からの呼び出しがかかった。王宮で通されたのは、10人程度が会議が出来る様な場所であった。
 そこで待たされ、数分後、所在無げに一人で待っていた、リリアナの前に女性が現れた。

「女王陛下」

 現王である女王テレサ・ダビト3世であった。
 慌てて膝まずく。
 孫がいる年齢には見えないくらい若々しい姿だ。

「楽にしてください」
「はっ」

 末端とは言えリリアナも王族ではあったが、女王と直接会うのは、今回が初めてだ。

「此度は遠方への派遣となったな。道中の無事を祈る」
「はっ、ありがとうございます」

 じっと女王がリリアナを見つめる。

「な、何か?」
「いや、何でも無い。それでは無事に帰って来たら、土産話でも頼むぞ」

 それだけを言い残し、短い謁見は終わった。

「緊張したー、何だったんだろう」

 命令されていたので、寄ってみたが、何か意味があったのだろうか……

「お帰りはこちらです」

 侍従に案内され外へ出る。
 そこで、一人の陰鬱な雰囲気を持つ神官が待っていた。

「リリアナ様、神官長よりご伝言があります。神託の具体的な内容については、救世主様が神殿についた後、神官長からご説明するとの事ですので、お迎えする事に集中して欲しい……との事です」

「わかりました」

 そこでそれまでの雰囲気とは打って変わって、神官がいたずらをする子供のような表情で、

「救世主様が神殿に到着された際、盛大なセレモニーを用意し、その中で神官長が神託を読み上げるとの事なので、事前に救世主様にバレないようにお願いします」

「あー、バッチリ、了解しました」

-- こっちが本性なのかな……

 そんな事を考えながら、リリアナも笑顔で応える。

「軍部へ向かうんですよね。それでは私はここで失礼させていただきます。道中の無事をお祈りしています」

「はい、ありがとうございます。それでは!」

 神官が頭を下げたので、リリアナは城壁のすぐそばにある軍部へ向かった。

-- あ、さっきの神官さんのお名前聞くのを忘れたけど……さっきみたいな雰囲気だったら、良い男なんだけどな。まぁ、いいか。

 リリアナは、頭を下げた神官の名がサレスと言うのも、頭を下げた神官の表情が全く雰囲気の違う妖しい笑顔を浮かべていた事も知らないまま、軍部へ向かうのであった。
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