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*第2章*
告白(1)
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真理恵と和人の初デートは、上手くいったらしい。
どう上手くいったのかまでは詳しくは聞かなかったけれど、真理恵が次の日嬉しそうに報告してくれた。
それからあまり期間を開けずに、私たちの高校は二学期の期末テスト期間へと突入していた。
「ここは、Xの値が2だな。途中式はこんな感じに……」
テスト直前の放課後。
私たち四人は、教室に残ってテスト勉強に励んでいた。
テスト前は基本的に大半の人は早々下校して家で勉強するか、学校の図書室に設置された自習室を利用する人が多い。
そのため、今日もだけれど、放課後の教室はほぼ私たちの貸切状態になっている。
カカカっと和人が黒板の上にチョークを走らせる。
「で、このこたえに行きつくってわけ」
和人は教えるのが上手で、いつもテスト前はこうして私たちにテストに出そうな問題を授業形式で教えてくれる。
黒板の前に立って前の方の席に座る私たちに教える和人の姿は、まるで先生みたいだ。
「なるほどな~。やっと理解できたわ! 今回から彼女と勉強するからって、俺ら二人切り捨てられたらどうしようかって心配してたんだよな」
「うん、本当に」
健の言葉に、私もうなずく。
「未夢は真面目だから大丈夫だとしても、健は和人や未夢や私の力が必要でしょ?」
「真理恵、その言い方はないだろ?」
「事実を述べたまでよ」
「はぁ!? 何だよ、それ」
確かに真理恵の言う通り、健はあまり真面目に授業を受けていた試しがないもんね。
ノート系は私、問題の解説は和人、テストの山掛けは真理恵が担当して、健はうまい具合にそれらを吸収していくって感じだ。
よく言えば、健は飲み込みが早いんだと思う。
「そうそう、和人。この問題、わかる?」
そこで、真理恵が思い出したように数学の教科書を開いて、和人の立っていた教卓のところへ持っていく。
今までなら、全くもって気にしたことのない光景だった。
それなのに、ほんの少し真理恵と同じ教科書を見る和人の肩と肩が触れ合うのを見ただけで、胸を痛めてしまう。
「ああ、この章の最後の発展問題か。あの先生の傾向だと、実力問題で似たような問題が出されてもおかしくないけど、俺もまだイマイチよくわかってないんだよな」
特別、二人が私の前でイチャイチャしているわけでもない。
少し前までは、それさえも当たり前で、全くもって意識したことのないような、ほんの些細なことだ。
それさえ許せないだなんて、私はいつからこんなに我が儘になってしまったんだろう。
ズキズキと痛む胸を悟られないように、なるべく二人を見ないように、手元の教科書に視線を落としていた。
「──ゆっ、未夢」
「え?」
「大丈夫? すごく難しい顔してうつむいてたからさ。もしかして、調子悪い?」
「ううん、大丈夫」
いつの間にか、周りから聞こえてくる音さえシャットアウトしていたから、真理恵がそばに来ていたことに気づかなかった。
「私と和人なんだけどね、これからこの発展問題の質問に職員室に行こうかって話になってるの。未夢も来る?」
「え……?」
真理恵が指し示しているページは、きっとさっき真理恵が和人に聞きに行った問題のかかれたページなのだろう。
どうしよう……。
でも、二人で質問に行くつもりだったのなら、ここで私が行ったら完全に二人の邪魔だよね?
「ちなみに俺はここに残って、戻ってきた和人に教えてもらう予定~」
調子よく言った健の声に背中を押されたわけではないけれど、それなら私の出すべきこたえはほぼ決まってるようなものだ。
「じゃあ、私も教室に残るよ」
「本当!? じゃあ、私たち行ってくるね」
「二人でまだ終わってないところを適当に進めておいてくれたらいいからな」
私がこたえるなり、真理恵と和人はそう言って教室を出ていってしまった。
真理恵と和人の足音が遠ざかる。
そのとき、ガタッと健が席を立った。
「飲み物買ってくる。未夢も行くか?」
「ううん。一人で自習してる」
「そっか」
健も教室を出ていく。
一人残された教室は異様に広くて、いつもは感じない埃っぽいにおいが鼻についた。
窓際からはオレンジ色の夕焼けが差し込んで、悲しいくらいに煌めいて見える。
黒板には、さっき和人が解説していた問題の解答が、丁寧な文字で書かれている。
目に見えるもの、感じるもの全てがとても切なく感じた。
私一人残された教室。何だか自分だけ置いてきぼりを食らったみたいだ。
私は静かに席を立って、黒板の文字に手を触れる。
でも実際に、私だけ置いていかれているのかもしれない。
誰にも悟られてはいけない気持ちを持ち続ける限り、私はみんなと同じ場所で以前のように自然に振る舞うことさえ難しいのだから。
──好き、和人のことが。
黒板に書かれた和人の白い文字さえもいとおしく感じてしまう。
黒板のチョーク置き場には、さっき和人が使っていた白いチョークが置かれている。
筆圧の高い和人はすぐにチョークを折ってしまう。短くなって変な形になっているチョークを見て、思わず笑みがこぼれた。
どう上手くいったのかまでは詳しくは聞かなかったけれど、真理恵が次の日嬉しそうに報告してくれた。
それからあまり期間を開けずに、私たちの高校は二学期の期末テスト期間へと突入していた。
「ここは、Xの値が2だな。途中式はこんな感じに……」
テスト直前の放課後。
私たち四人は、教室に残ってテスト勉強に励んでいた。
テスト前は基本的に大半の人は早々下校して家で勉強するか、学校の図書室に設置された自習室を利用する人が多い。
そのため、今日もだけれど、放課後の教室はほぼ私たちの貸切状態になっている。
カカカっと和人が黒板の上にチョークを走らせる。
「で、このこたえに行きつくってわけ」
和人は教えるのが上手で、いつもテスト前はこうして私たちにテストに出そうな問題を授業形式で教えてくれる。
黒板の前に立って前の方の席に座る私たちに教える和人の姿は、まるで先生みたいだ。
「なるほどな~。やっと理解できたわ! 今回から彼女と勉強するからって、俺ら二人切り捨てられたらどうしようかって心配してたんだよな」
「うん、本当に」
健の言葉に、私もうなずく。
「未夢は真面目だから大丈夫だとしても、健は和人や未夢や私の力が必要でしょ?」
「真理恵、その言い方はないだろ?」
「事実を述べたまでよ」
「はぁ!? 何だよ、それ」
確かに真理恵の言う通り、健はあまり真面目に授業を受けていた試しがないもんね。
ノート系は私、問題の解説は和人、テストの山掛けは真理恵が担当して、健はうまい具合にそれらを吸収していくって感じだ。
よく言えば、健は飲み込みが早いんだと思う。
「そうそう、和人。この問題、わかる?」
そこで、真理恵が思い出したように数学の教科書を開いて、和人の立っていた教卓のところへ持っていく。
今までなら、全くもって気にしたことのない光景だった。
それなのに、ほんの少し真理恵と同じ教科書を見る和人の肩と肩が触れ合うのを見ただけで、胸を痛めてしまう。
「ああ、この章の最後の発展問題か。あの先生の傾向だと、実力問題で似たような問題が出されてもおかしくないけど、俺もまだイマイチよくわかってないんだよな」
特別、二人が私の前でイチャイチャしているわけでもない。
少し前までは、それさえも当たり前で、全くもって意識したことのないような、ほんの些細なことだ。
それさえ許せないだなんて、私はいつからこんなに我が儘になってしまったんだろう。
ズキズキと痛む胸を悟られないように、なるべく二人を見ないように、手元の教科書に視線を落としていた。
「──ゆっ、未夢」
「え?」
「大丈夫? すごく難しい顔してうつむいてたからさ。もしかして、調子悪い?」
「ううん、大丈夫」
いつの間にか、周りから聞こえてくる音さえシャットアウトしていたから、真理恵がそばに来ていたことに気づかなかった。
「私と和人なんだけどね、これからこの発展問題の質問に職員室に行こうかって話になってるの。未夢も来る?」
「え……?」
真理恵が指し示しているページは、きっとさっき真理恵が和人に聞きに行った問題のかかれたページなのだろう。
どうしよう……。
でも、二人で質問に行くつもりだったのなら、ここで私が行ったら完全に二人の邪魔だよね?
「ちなみに俺はここに残って、戻ってきた和人に教えてもらう予定~」
調子よく言った健の声に背中を押されたわけではないけれど、それなら私の出すべきこたえはほぼ決まってるようなものだ。
「じゃあ、私も教室に残るよ」
「本当!? じゃあ、私たち行ってくるね」
「二人でまだ終わってないところを適当に進めておいてくれたらいいからな」
私がこたえるなり、真理恵と和人はそう言って教室を出ていってしまった。
真理恵と和人の足音が遠ざかる。
そのとき、ガタッと健が席を立った。
「飲み物買ってくる。未夢も行くか?」
「ううん。一人で自習してる」
「そっか」
健も教室を出ていく。
一人残された教室は異様に広くて、いつもは感じない埃っぽいにおいが鼻についた。
窓際からはオレンジ色の夕焼けが差し込んで、悲しいくらいに煌めいて見える。
黒板には、さっき和人が解説していた問題の解答が、丁寧な文字で書かれている。
目に見えるもの、感じるもの全てがとても切なく感じた。
私一人残された教室。何だか自分だけ置いてきぼりを食らったみたいだ。
私は静かに席を立って、黒板の文字に手を触れる。
でも実際に、私だけ置いていかれているのかもしれない。
誰にも悟られてはいけない気持ちを持ち続ける限り、私はみんなと同じ場所で以前のように自然に振る舞うことさえ難しいのだから。
──好き、和人のことが。
黒板に書かれた和人の白い文字さえもいとおしく感じてしまう。
黒板のチョーク置き場には、さっき和人が使っていた白いチョークが置かれている。
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