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*第2章*
告白(3)
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「嘘じゃないよ。何でそんなこと、健にわかるの」
健は刺すような視線をこちらに向けたまま、飲んでいたコーラも教卓の上に置いて私の方へ近づいてくる。
「わかるよ、未夢のことなら。第一、復習なら、さっき未夢は黒板の文字をノートに書き写してるんだから、ノートの方を見るのが普通だろ?」
「そんなのわからないじゃん……」
「未夢……っ」
そのとき、健から顔をそらした私は、背後から思いっきり健に抱きしめられていた。
その反動で床に落としてしまったいちごみるくの缶が、コロコロと足元から遠ざかっていく音が聞こえる。
「何をそんなに悩んでるんだよ」
「健、急にどうしたの? 痛いってば。離して……」
「俺の質問にこたえるまでは離さない」
「何それ」
何をそんなに悩んでるかなんて、こたえられるわけがない。
健とも長い付き合いだけど、いつもと違う健の姿が少し怖く感じた。
この前、部屋で押し倒されたときもそうだった。
ギリギリと強まる健の腕の力、そらされることなく向けられる健の眼差しから、きっと私が何かをこたえるまで離してくれるつもりはないのだろう。
「最近の未夢、自分は笑ってると思ってるんだろうけど、全然笑えてない。作り笑いだっていうのがバレバレ」
「何でそんなのわかるの……」
何か適当な理由が思いつけばいいものの、口から出るのは苦し紛れに出た反発の言葉だけだ。
どうやってこの状況を切り抜けようか頭を悩ませていると、思いもかけない健の言葉が耳に届いた。
「好きだからだよ、未夢のことが。幼なじみとしてじゃなくて、一人の女の子として」
「え……?」
一瞬、耳を疑った。
健が、私のことを好き……?
幼なじみとしてじゃないということは、つまり、恋愛対象としてということだろう。
恋愛に頭を悩ませていた私の頭の中でそう結びつくのに、それほど時間はかからなかった。
途端にさっきまでどう健に言い訳しようか悩んでいたことも忘れて、急に恥ずかしくなる。
「う、うそ……っ」
「嘘じゃない。ずっと好きだった。小さい頃から、ずっと」
小さい頃から、ずっと……?
『ミユちゃん、だーい好き!』
幼い頃、確かに健にはよくそう言われてたけど、私自身は幼なじみとしての“好き”だと思ってた。
だから本当に、全然気づかなかった。
私自身の和人への想いと同じように、健の想いにも。
「あのね、健、私……」
「わかってる。未夢が俺のことをただの幼なじみとしてしか見てないってことくらい」
「ごめんね……」
健はどこまで私の気持ちに気づいているのだろう。
何も言ってないのにわかってると言って寂しそうに笑う健の姿に、胸が痛む。
「いいよ、別に。これから好きになってくれたら」
私の身体に回された腕が、少し緩む。
今度は私の両肩に健の両手を置いて、健は私の背中越しに言葉を続けた。
「未夢が何に悩んでるのかは知らない。言いたくないなら言わなくていいよ」
健の気持ちを知ってしまったら、余計に健には言えないから、しつこく問いただすようなことをされなくて助かった。
健には申し訳ないけれど、少しホッとしてしまった。
「でも、それさえも忘れさせてやれるくらいに未夢のこと、幸せにしてやるよ。だから……俺たち、付き合わねぇ? 俺のことは、これから男として好きにさせてみせるから」
消したとはいえ、目の前の黒板にうっすら面影の残る私たちの三角形の跡。
これを書いたとき、健の名前がないなんて、健を仲間外れにしてるみたいに思えた。
だけど、本当は違ったんだ。
健が本当に私のことを想ってくれているのなら、三角形ではなく、四角形にするのが正解だった。
そして、その想いの方向を示す矢印は、さらに複雑になるんだということに気づかされる。
「健、私……」
健のことは、幼なじみとして好きだ。
付き合うとかそういうのは考えられない。
けれど、まるで私に有無を言わせないように健は私に告げる。
「テスト期間終わってからでいいよ。何回も言うけど、今は俺のことそういう目で見てないことはわかってるから。だけど、それを断る理由にはしないで」
そして私から離れると、健はさっき私が落としてしまったいちごみるくの缶を拾って手渡してくれる。
「あ、ありがと……」
健は教卓の上に置いていたコーラを持って、さっきまで勉強していた席に戻った。
「未夢も、そろそろ元の位置に戻らないと、二人が帰って来ちゃうぞ?」
「あ、うん……」
健の予想通り、すぐに真理恵と和人は教室に戻って来た。
強引でどこか強気な健の言葉が、頭の片隅に張り付いて、離れてくれない。
“それさえも、忘れさせてやる”
“俺のことは、これから男として好きにさせてみせる”
だなんて、健ってそんなセリフ言うキャラだったっけ?
そう言われたから和人への想いが消えてしまうなんてことはないけれど、私の心は、確実に揺れ動いているのを感じていた。
健は刺すような視線をこちらに向けたまま、飲んでいたコーラも教卓の上に置いて私の方へ近づいてくる。
「わかるよ、未夢のことなら。第一、復習なら、さっき未夢は黒板の文字をノートに書き写してるんだから、ノートの方を見るのが普通だろ?」
「そんなのわからないじゃん……」
「未夢……っ」
そのとき、健から顔をそらした私は、背後から思いっきり健に抱きしめられていた。
その反動で床に落としてしまったいちごみるくの缶が、コロコロと足元から遠ざかっていく音が聞こえる。
「何をそんなに悩んでるんだよ」
「健、急にどうしたの? 痛いってば。離して……」
「俺の質問にこたえるまでは離さない」
「何それ」
何をそんなに悩んでるかなんて、こたえられるわけがない。
健とも長い付き合いだけど、いつもと違う健の姿が少し怖く感じた。
この前、部屋で押し倒されたときもそうだった。
ギリギリと強まる健の腕の力、そらされることなく向けられる健の眼差しから、きっと私が何かをこたえるまで離してくれるつもりはないのだろう。
「最近の未夢、自分は笑ってると思ってるんだろうけど、全然笑えてない。作り笑いだっていうのがバレバレ」
「何でそんなのわかるの……」
何か適当な理由が思いつけばいいものの、口から出るのは苦し紛れに出た反発の言葉だけだ。
どうやってこの状況を切り抜けようか頭を悩ませていると、思いもかけない健の言葉が耳に届いた。
「好きだからだよ、未夢のことが。幼なじみとしてじゃなくて、一人の女の子として」
「え……?」
一瞬、耳を疑った。
健が、私のことを好き……?
幼なじみとしてじゃないということは、つまり、恋愛対象としてということだろう。
恋愛に頭を悩ませていた私の頭の中でそう結びつくのに、それほど時間はかからなかった。
途端にさっきまでどう健に言い訳しようか悩んでいたことも忘れて、急に恥ずかしくなる。
「う、うそ……っ」
「嘘じゃない。ずっと好きだった。小さい頃から、ずっと」
小さい頃から、ずっと……?
『ミユちゃん、だーい好き!』
幼い頃、確かに健にはよくそう言われてたけど、私自身は幼なじみとしての“好き”だと思ってた。
だから本当に、全然気づかなかった。
私自身の和人への想いと同じように、健の想いにも。
「あのね、健、私……」
「わかってる。未夢が俺のことをただの幼なじみとしてしか見てないってことくらい」
「ごめんね……」
健はどこまで私の気持ちに気づいているのだろう。
何も言ってないのにわかってると言って寂しそうに笑う健の姿に、胸が痛む。
「いいよ、別に。これから好きになってくれたら」
私の身体に回された腕が、少し緩む。
今度は私の両肩に健の両手を置いて、健は私の背中越しに言葉を続けた。
「未夢が何に悩んでるのかは知らない。言いたくないなら言わなくていいよ」
健の気持ちを知ってしまったら、余計に健には言えないから、しつこく問いただすようなことをされなくて助かった。
健には申し訳ないけれど、少しホッとしてしまった。
「でも、それさえも忘れさせてやれるくらいに未夢のこと、幸せにしてやるよ。だから……俺たち、付き合わねぇ? 俺のことは、これから男として好きにさせてみせるから」
消したとはいえ、目の前の黒板にうっすら面影の残る私たちの三角形の跡。
これを書いたとき、健の名前がないなんて、健を仲間外れにしてるみたいに思えた。
だけど、本当は違ったんだ。
健が本当に私のことを想ってくれているのなら、三角形ではなく、四角形にするのが正解だった。
そして、その想いの方向を示す矢印は、さらに複雑になるんだということに気づかされる。
「健、私……」
健のことは、幼なじみとして好きだ。
付き合うとかそういうのは考えられない。
けれど、まるで私に有無を言わせないように健は私に告げる。
「テスト期間終わってからでいいよ。何回も言うけど、今は俺のことそういう目で見てないことはわかってるから。だけど、それを断る理由にはしないで」
そして私から離れると、健はさっき私が落としてしまったいちごみるくの缶を拾って手渡してくれる。
「あ、ありがと……」
健は教卓の上に置いていたコーラを持って、さっきまで勉強していた席に戻った。
「未夢も、そろそろ元の位置に戻らないと、二人が帰って来ちゃうぞ?」
「あ、うん……」
健の予想通り、すぐに真理恵と和人は教室に戻って来た。
強引でどこか強気な健の言葉が、頭の片隅に張り付いて、離れてくれない。
“それさえも、忘れさせてやる”
“俺のことは、これから男として好きにさせてみせる”
だなんて、健ってそんなセリフ言うキャラだったっけ?
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