初恋*幼なじみ~歪に絡み合う想いの四重奏~

美和優希

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*第3章*

踏み外した道-和人Side-(4)

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 ドキン、と強く胸が跳ねてヤバイと思った。

 ドクドクと速まる鼓動は、紛れもない俺の消しきれていない本心を表しているのかわからない。

 これまで、未夢のことを意識しないように、真理恵のことを恋愛対象として好きになろうとしてきた。

 未夢は眠っているにも関わらず、俺の身体に回される彼女の細い腕に、俺のそんな努力を一瞬で崩されてしまうような気がした。


 このままじゃいけないと思って、未夢の腕をそっと外して起き上がると、ほんの少し未夢が顔をしかめた。


 まさか、起こした……?

 一瞬ビクリとしたけれど、とりあえず未夢が健の方へ寝返りを打ったのをよしとして、俺はまるで逃げるように一旦部屋を出た。


 少し頭を冷やしたかったからだ。



 とりあえず一階のリビングでお水を飲んで再び部屋に戻る。するとさっき寝返りを打った先で、未夢は健のすぐそばで寝ていた。

 何となく、眠る未夢の隣に腰を下ろす。


 未夢は、小さく口を開けてぐっすり眠っているようだった。

 俺は、みんな寝静まっている空間の中、自然と未夢の頭を撫でていた。


 以前はこうやってよく未夢の頭を撫でていたのに、最近は全くこういうことはなくなっちゃったな……。


「かず、と……」


 そのとき、突如未夢に名前を呼ばれて、パッと手を引っ込めた。


「あ、ごめ……っ」


 思わず小声で謝るけれど、未夢は無反応だ。

 未夢の表情を見ようと、顔を近づける。すると、さっきと変わらずすやすやと眠る未夢の寝顔が暗がりの中うっすらと見えた。


 どうやらさっきのは、寝言だったみたいだな。

 小さく息を吐き出して、今度こそ未夢に背を向けて布団の中に潜り込もうとした。


「か、ずと……」


 そのとき、未夢に呼ばれて思わず彼女の方を向き直った。

 見ると、やっぱり未夢はさっきと同じ位置で寝ていた。寝言だったのだろう。

 だけど、先程の気持ち良さそうだった寝顔は少し悲しげに眉を寄せている。そして艶のある唇が再び小さく動いた。


「好き、……かずと」


 憂いを帯びた声で呟かれた言葉に、俺は頭が真っ白になった。


 何で……。何で好きだなんて言うんだよ……。

 所詮、寝言だってわかってる。
 未夢が好きなのは健だってことも知っている。

 だけど突如告げられた“好き”という言葉に、俺はこれまで築き上げてきたものを一瞬で壊された。

 ほぼ衝動的に、俺は未夢の唇に自分の唇を重ねていた。


 真理恵とはまた違う唇の感触に、一気に心が満たされる。


「……んっ」


 未夢が苦しそうに漏らした声に我に返って、俺は慌てて唇を離した。


 俺、何やってんだよ。

 少なくとも今の“好き”に深い意味はなくて、嘘ではなかったとしても、冷静に考えて幼なじみとしての“好き”でしかないだろうことはわかりきっている。

 それに、俺は真理恵のことを好きになっていたんじゃなかったのか。


 自分のやったことに、俺自身困惑していた。

 上手く保っていた自分の中のいろんな気持ちが、一気にぐじゃぐじゃになって、おかしくなりそうだった。


 綺麗な寝顔を見ていると、何とも言えない罪悪感とともにもう一度未夢にキスをしたいと思ってしまう俺がいて、最低だと自分を罵倒したくなった。


「ん……、未夢、もう食べられないよ……」


 不意に健の声が聞こえて、尋常じゃないくらいにビクリと身体を跳ねさせた。


 未夢の身体をよく見てみると、どうやら未夢は健に背後から抱きしめられているようだった。

 キスのことがバレたら、あとで面倒なことになりかねない。


 俺はそそくさと布団に潜り込むと、心の中で未夢と健に謝っておいた。



 翌日、最初に未夢と顔を会わせたときはドギマギしたけれど、とにかく平然を装って何とか切り抜けた。

 だけど、俺は本当はまだ未夢のことが好きなんだと思わせるのに充分だった。



 どうして未夢のことを好きな気持ちを変えられないのだろう。

 大切な幼なじみだからというのもあるだろう。でも、それなら幼なじみとして好きになりたかった。

 真理恵のことだって、一人の女の子として自然な形で好きだと言えるようになりたいと思っているのに、どうして俺の中では努力しないと幼なじみ止まりの感情になってしまうのだろう。

 せめて未夢や真理恵に対する“好き”のカタチを変えられたら良いのに、それが出来ない。


 俺の選択は、間違っていたのだろうか。

 思うようにいかない自分の気持ちに、罪悪感さえ覚える。


 だけど、俺の気持ちさえ何とかすれば、俺ら四人はハッピーエンドなんだ。

 自分の中で消えずにいる本心は、絶対に誰にも気づかれてはいけないと強く誓ったのだった。
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