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第5章
忍び寄る影(2)
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奏ちゃん、咲姉……。
声だけでも予想はついたけど、確実に誰が前から来たかわかってしまう。
「あ、委員長……」
来るってわかってたのに、目をそらすことも背中を向けることもできなくて。こちらに歩いてきた奏ちゃんと、しっかり目が合ってしまった。
奏ちゃんの両手には、一つずつ種類の違うパフェが握られている。
「お疲れさま」
「ん。お疲れ。塾帰り?」
「そんなところ」
「寒いから、気をつけてな」
奏ちゃんは、軽くパフェごと片手を上げて通り過ぎていく。
その後ろを歩いていた両手にそれぞれ違う種類のパフェを持った新島先輩と目が合って、私は軽く頭を下げた。
きっとパフェの数から考えて、Wild Wolfのみんなで食べるんだろうな……。
再び仲良さげに話しながら出口の方へと歩いていく二人に、ちくんと小さく胸が痛んだ。
「……花梨、大丈夫?」
「え!? ああ、うん。大丈夫大丈夫」
思わず感傷に浸っていたけれど、今は美波といるんだから笑顔笑顔!
よっぽど私が変な表情をしていたのか美波は相変わらず心配そうな表情を浮かべていたけれど、そんな美波に私はニッと笑って見せた。
実は奏ちゃんとこんな風に話したのは、別れたとき以来。
あれ以来、全くと言っていいほど奏ちゃんと話すことはなかった。
……意外と普通に話せるじゃん。
だけどあまりに他人行儀な会話に、何だか付き合ってたという事実が、私の見ていた儚い幻だったかのような錯覚にとらわれた。
*
「パフェ美味しかったね~! 花梨、このあと家でパーティーなんでしょ? クリスマスのご馳走入るスペースある?」
「多分?」
お持ち帰りのパフェを購入した私たちは、寒い寒いと言いながらも、店舗の周りに設置されたベンチでにぎやかにパフェを食べた。
パフェは値段のわりにボリュームがあって、しっかり満腹になってしまった。
私がハハっと笑うのを見て、一緒になって笑う美波。
「じゃあ、ご両親と奈穂ちゃんと、素敵なクリスマスを過ごしてね」
「ありがとう。美波もね」
美波と別れて、狭い住宅街へと入っていく。
さすがクリスマスの夜なだけあって、あちこちの家の庭木や壁がイルミネーションで光っている。
どこからともなく漂うごはんの香りに、さっき満腹を感じたばかりなのに食欲がそそられて、そんな自分がおかしいなと思っていたとき──。
──カツ。
「……?」
どこからともなく聞こえた物音に、思わず辺りを見回した。
誰もいない、よね……?
だけど、次に歩き出したとき、妙な違和感を覚えた。
──カツカツカツ。
私の足音に合わさるように聞こえる、靴の音。
──カッカカッ。
自意識過剰かもしれないけれど、何となく怖くなって、少しだけ小走りになると、同じように足音も早まった。
おかしい……。
だって、私が今履いてるのは学校指定の革靴。
私が履いてる靴は全く足音がしないわけではないけれど、こんなに大きく靴の音が響いた経験がない。
試しにその場で小さく足踏みしてみるけれど、やっぱり私のものと、さっき聞こえた足音は別物だということがわかった。
やっぱり、誰かいるの……?
恐る恐る後ろをふり返ってみるも、誰もいない。
ぶるりと身震いしながら家の方へと歩くと、再びさっきの靴音も響き出す。
……私の歩調と微妙にずれたタイミングで。
やっぱり誰かいるんだ……!
怖くなった私は、とっさに走り出した。
だけど、家まで着いて来られたらどうしよう……?
これじゃあ、家に帰れないよ……!
そう思っていたとき。
「……花梨?」
ちょうど住宅街にしてはやや太めの道路の、バス道と交差する十字路に差し掛かったとき、バス道の方から呼び止められた。
「お父さん……っ!」
その瞬間、ピタリと止んだ靴音。
声だけでも予想はついたけど、確実に誰が前から来たかわかってしまう。
「あ、委員長……」
来るってわかってたのに、目をそらすことも背中を向けることもできなくて。こちらに歩いてきた奏ちゃんと、しっかり目が合ってしまった。
奏ちゃんの両手には、一つずつ種類の違うパフェが握られている。
「お疲れさま」
「ん。お疲れ。塾帰り?」
「そんなところ」
「寒いから、気をつけてな」
奏ちゃんは、軽くパフェごと片手を上げて通り過ぎていく。
その後ろを歩いていた両手にそれぞれ違う種類のパフェを持った新島先輩と目が合って、私は軽く頭を下げた。
きっとパフェの数から考えて、Wild Wolfのみんなで食べるんだろうな……。
再び仲良さげに話しながら出口の方へと歩いていく二人に、ちくんと小さく胸が痛んだ。
「……花梨、大丈夫?」
「え!? ああ、うん。大丈夫大丈夫」
思わず感傷に浸っていたけれど、今は美波といるんだから笑顔笑顔!
よっぽど私が変な表情をしていたのか美波は相変わらず心配そうな表情を浮かべていたけれど、そんな美波に私はニッと笑って見せた。
実は奏ちゃんとこんな風に話したのは、別れたとき以来。
あれ以来、全くと言っていいほど奏ちゃんと話すことはなかった。
……意外と普通に話せるじゃん。
だけどあまりに他人行儀な会話に、何だか付き合ってたという事実が、私の見ていた儚い幻だったかのような錯覚にとらわれた。
*
「パフェ美味しかったね~! 花梨、このあと家でパーティーなんでしょ? クリスマスのご馳走入るスペースある?」
「多分?」
お持ち帰りのパフェを購入した私たちは、寒い寒いと言いながらも、店舗の周りに設置されたベンチでにぎやかにパフェを食べた。
パフェは値段のわりにボリュームがあって、しっかり満腹になってしまった。
私がハハっと笑うのを見て、一緒になって笑う美波。
「じゃあ、ご両親と奈穂ちゃんと、素敵なクリスマスを過ごしてね」
「ありがとう。美波もね」
美波と別れて、狭い住宅街へと入っていく。
さすがクリスマスの夜なだけあって、あちこちの家の庭木や壁がイルミネーションで光っている。
どこからともなく漂うごはんの香りに、さっき満腹を感じたばかりなのに食欲がそそられて、そんな自分がおかしいなと思っていたとき──。
──カツ。
「……?」
どこからともなく聞こえた物音に、思わず辺りを見回した。
誰もいない、よね……?
だけど、次に歩き出したとき、妙な違和感を覚えた。
──カツカツカツ。
私の足音に合わさるように聞こえる、靴の音。
──カッカカッ。
自意識過剰かもしれないけれど、何となく怖くなって、少しだけ小走りになると、同じように足音も早まった。
おかしい……。
だって、私が今履いてるのは学校指定の革靴。
私が履いてる靴は全く足音がしないわけではないけれど、こんなに大きく靴の音が響いた経験がない。
試しにその場で小さく足踏みしてみるけれど、やっぱり私のものと、さっき聞こえた足音は別物だということがわかった。
やっぱり、誰かいるの……?
恐る恐る後ろをふり返ってみるも、誰もいない。
ぶるりと身震いしながら家の方へと歩くと、再びさっきの靴音も響き出す。
……私の歩調と微妙にずれたタイミングで。
やっぱり誰かいるんだ……!
怖くなった私は、とっさに走り出した。
だけど、家まで着いて来られたらどうしよう……?
これじゃあ、家に帰れないよ……!
そう思っていたとき。
「……花梨?」
ちょうど住宅街にしてはやや太めの道路の、バス道と交差する十字路に差し掛かったとき、バス道の方から呼び止められた。
「お父さん……っ!」
その瞬間、ピタリと止んだ靴音。
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