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5.お前が無事ならそれでいい。
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「お疲れさまです。あれ? 高倉さん、どうされたんですか?」
よっぽど思い詰めた顔をしていたのだろう。
ちょうど事務室に入ってきた小梅ちゃんが、私を見て心配そうに尋ねてくる。
「あ、小梅ちゃん、お疲れさま。いや、今日早上がりの予定だったのに残業することになって……。スマホを探してたんだけど、忘れちゃったみたいで……」
「どなたかに電話ですか? 私ので良ければ使われますか?」
そう言って、小梅ちゃんは白衣のポケットからロッカーの鍵を取り出す。きっと小梅ちゃんの携帯電話を貸してくれるつもりなのだろう。
「いや、いいよいいよ。さすがにそれは、申し訳ないし」
「そうですか? 遠慮しなくても大丈夫ですよ」
「うん、でも大したことじゃないから、大丈夫。ごめんね」
「わかりました。もし必要なら声かけてください。今日は私は閉店までいますので」
「ありがとう、小梅ちゃん」
何らかの資料を持って、パタパタと事務室を出ていく小梅ちゃんを見送りながら、ひっそりと肩を落とす。
気持ちはありがたいけど、小梅ちゃんのスマホから電話するなんて、できないよ……。
小梅ちゃんのスマホにも、本郷店長のスマホにも履歴が残ってしまうから。
履歴……?
そこで、ハッとひらめいた。
公衆電話からかければいいんだっていうことを……!
なんで今まで気づかなかったんだろう?
公衆電話からかければ、“公衆”としか本郷店長のスマホの履歴には残らないはず……!
公衆電話なら、この店舗の駐車場の隅にある。
私は次長に許可をもらって、公衆電話に電話をかけに外に出た。
公衆電話なんて使うの、何年ぶりだろう……?
そう思いながら受話器を手に取り、十円玉を何枚か入れる。
番号を入力したあと、数回の呼び出し音のあとに、本郷店長の声が聞こえた。
『はい。もしもし』
「もしもし、梨緒です」
『ああ、梨緒か。まさかお前から電話をくれる日が来るなんてな。どうした、まだ早いけど会いたくなったか?』
仕事で高倉奈緒と話すときとは違う甘い声が耳元を掠める。
「い、いえ、そういうわけではないんですけど……」
『……どうした?』
心配げな本郷店長の声に胸が痛む。
さっきの本郷店長の声からも、今日会うのを楽しみにしてもらえてたことは、何となく伝わってきていたから……。
「すみません。急用が入って、待ち合わせ時間には間に合いそうにないんです……っ!」
とりあえず用件だけを一気に言い切った。
バクバクと鳴る心臓の音が、一瞬の沈黙の間に、いやに大きく響く。
『……わかった。何時なら来れそうなんだ?』
「……え?」
『来れないわけではないんだろ?』
「そう、ですけど……」
結局、あまり待たせるのも悪いので、待ち合わせ時間は、一時間遅らせてもらって、十九時にしてもらった。
一時間もあれば、なんとか梨緒の姿になって、待ち合わせの駅にも行ける。
急げば少しは余裕をもって着けると思うし、小谷くんが来たら即上がらせてもらうことにしよう。
受話器を置いて、これからのシュミレーションを頭の中で描くと、私は店舗へと駆け足で戻った。
よっぽど思い詰めた顔をしていたのだろう。
ちょうど事務室に入ってきた小梅ちゃんが、私を見て心配そうに尋ねてくる。
「あ、小梅ちゃん、お疲れさま。いや、今日早上がりの予定だったのに残業することになって……。スマホを探してたんだけど、忘れちゃったみたいで……」
「どなたかに電話ですか? 私ので良ければ使われますか?」
そう言って、小梅ちゃんは白衣のポケットからロッカーの鍵を取り出す。きっと小梅ちゃんの携帯電話を貸してくれるつもりなのだろう。
「いや、いいよいいよ。さすがにそれは、申し訳ないし」
「そうですか? 遠慮しなくても大丈夫ですよ」
「うん、でも大したことじゃないから、大丈夫。ごめんね」
「わかりました。もし必要なら声かけてください。今日は私は閉店までいますので」
「ありがとう、小梅ちゃん」
何らかの資料を持って、パタパタと事務室を出ていく小梅ちゃんを見送りながら、ひっそりと肩を落とす。
気持ちはありがたいけど、小梅ちゃんのスマホから電話するなんて、できないよ……。
小梅ちゃんのスマホにも、本郷店長のスマホにも履歴が残ってしまうから。
履歴……?
そこで、ハッとひらめいた。
公衆電話からかければいいんだっていうことを……!
なんで今まで気づかなかったんだろう?
公衆電話からかければ、“公衆”としか本郷店長のスマホの履歴には残らないはず……!
公衆電話なら、この店舗の駐車場の隅にある。
私は次長に許可をもらって、公衆電話に電話をかけに外に出た。
公衆電話なんて使うの、何年ぶりだろう……?
そう思いながら受話器を手に取り、十円玉を何枚か入れる。
番号を入力したあと、数回の呼び出し音のあとに、本郷店長の声が聞こえた。
『はい。もしもし』
「もしもし、梨緒です」
『ああ、梨緒か。まさかお前から電話をくれる日が来るなんてな。どうした、まだ早いけど会いたくなったか?』
仕事で高倉奈緒と話すときとは違う甘い声が耳元を掠める。
「い、いえ、そういうわけではないんですけど……」
『……どうした?』
心配げな本郷店長の声に胸が痛む。
さっきの本郷店長の声からも、今日会うのを楽しみにしてもらえてたことは、何となく伝わってきていたから……。
「すみません。急用が入って、待ち合わせ時間には間に合いそうにないんです……っ!」
とりあえず用件だけを一気に言い切った。
バクバクと鳴る心臓の音が、一瞬の沈黙の間に、いやに大きく響く。
『……わかった。何時なら来れそうなんだ?』
「……え?」
『来れないわけではないんだろ?』
「そう、ですけど……」
結局、あまり待たせるのも悪いので、待ち合わせ時間は、一時間遅らせてもらって、十九時にしてもらった。
一時間もあれば、なんとか梨緒の姿になって、待ち合わせの駅にも行ける。
急げば少しは余裕をもって着けると思うし、小谷くんが来たら即上がらせてもらうことにしよう。
受話器を置いて、これからのシュミレーションを頭の中で描くと、私は店舗へと駆け足で戻った。
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