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6.敵意を向けられても困るのですが。

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「おい、どうした?」

「い、いえ! 大丈夫、です」

 本郷店長は、私の様子を見て心配そうに聞いてくる。

 ふり返ると、本郷店長の整った顔までもが幻想的に映し出されてるようで、直視できなかった。


 もう、何で私、こんなにドキドキしてるのよ……!

 本郷店長だって、私の様子に気づくくらいだから、よっぽどなんだ。

 幻想的なこの空間に、早くも酔ってしまったのかな……?


「……あそこに泳いでるのは、イルカですか?」


 この変な空気から抜け出すように視線を向けた先の水槽。

 その中で泳ぐシルエットが、なんとなくイルカのように見えた。


「あぁ、そうだな。イルカは好きか?」

「はい、大好きです」

「そうか。なら、ちょうどいい。ちょうど季節限定で夜のイルカショーをやってるらしいから、それも行ってみるか」

「はいっ!」


 あまりにテンション高く喜んだ私にフッと笑うと、本郷店長は再び私の手を取って、イルカショーの行われるプールへと連れていってくれた。


 ライトアップが施されたプール。

 夜の水族館は、屋内の水槽を見ていたときから思っていたけど、カップル率が高い。


 華やかに花火が上がる中、イルカショーは開催された。

 イルカが跳ねる度に飛び散る水しぶきが、ライトで反射してキラキラと煌めく。

 目の前で繰り出されるイルカの技の数々に、デート中の緊張もどこかへ消え去り、夢中で拍手を送っていた。


「では、ラストです。今回頑張ってくれた、イルカのウミくんとナミちゃんによく頑張ったねのタッチをしてくれる方を、皆さんの中から選ばせていただきたいと思います!」


 わっ! イルカにタッチって!
 それって、イルカに触れるってことだよね……?

 どうしよう。
 一人で来てるならまだしも、本郷店長もいるからな……。


 右手を頭上に上げようか上げまいかと、頭を悩ませる。

 周囲をキョロキョロと見回すと、すでに何人もの人が、パラパラと手を上げているようだった。


「お前、イルカにタッチとか興味あるのか?」

「え!? は、はい……」

 唐突に本郷店長にそんなことを聞かれて、思わず“はい”ってこたえてしまう。

 すると、本郷店長は、私の両手首を片方ずつ両手でつかむと、思いっきり私の頭上に引っ張り上げた。


「え、っと、ほ、本郷さん……っ!?」

 私が驚きの声を上げたのと同時。


「あらあらあら! 元気に両手を上げてくれたカップルさん発見~! じゃあ、そこの二人、お願いします。そうそう、あなたよ、今席を立った」

 思わずその場に立ってしまった私を見て、丁寧に指名してくれる、イルカトレーナーのお姉さん。

 私は本郷店長に背中を押されるがまま、プールの傍へと歩いていった。


 イルカトレーナーのお姉さんに簡単に説明を受けて、本郷店長はウミくん、私はナミちゃんの頭に軽くタッチをさせてもらった。


 *


「よかったじゃねぇか。念願のイルカタッチのイベントに選んでもらえて。ありゃかなりの倍率だったぞ?」

 イルカショーを終えて、私たちは残りの館内を見て回る。


「そうですね。本郷さんのおかげです」

「俺……? 俺は大したことはしてないが」

「いえ、本郷さんがあのとき、私の手を上げてくれたからトレーナーさんの目について、選んでもらえたんだと思います」


 本郷店長が私の手を引っ張り上げてくれてなかったら、きっと私は手を上げることすらできなかったと思うもん。
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