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8.まさか気づいてないですよね?
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翌週の桜木店への応援の日。
出勤直後の開店前、紗枝子さんにつかまった私は、早速本郷店長の“今の彼女”について聞き出されていた。
いくら“梨緒の姿で本郷店長と会ってる私”のことを聞かれているとはいえ、身の回りの社員の誰も知らないことを私の口から話すのは明らかにおかしい。
だから私は、次長の田中さんから聞いた“どんな人かはわからないけど彼女にゾッコンだ”ということのみ伝えた。
今は高倉奈緒の姿で紗枝子さんの前に立っているのに、ビクビクしながら彼女の反応を待った。
「そっかぁ、それだけしかわからなかったんだね~……」
だけど、意外にも紗枝子さんはあっさりとそう返してきただけだった。
「……はい。すみません」
「いいのよいいのよ。何となく想像ついたから」
ビューティー担当の人が着用する、黒いスーツの襟元を整えると、紗枝子さんはロッカーの扉の内側にある鏡でメイク直しをする。
私も今日のタイムスケジュールを確認しようと、事務室の机の上に置いてあるタイムスケジュール表を手に取った。
すると、すぐに私の後ろから紗枝子さんの声が聞こえた。
「ラッキー。また高倉さんと休憩一緒ね」
さっきまでメイク直しをしていたのに、いつの間に私の横から顔を出していたのだろう?
気づいたときには、紗枝子さんは私の手にあるタイムスケジュール表を覗き込んでいた。
「ちょっと、高倉さんに付き合ってほしいことがあるのよ」
「な、なんでしょう?」
本郷店長の今カノの探索の次は、何を言われるのだろう?
内心ビクビクしながら、紗枝子さんの次の言葉を待つ。
「メイクの練習?」
すると、にこりと笑いながら紗枝子さんはそう言った。
そうしてやって来た、お昼休憩の時間。
私と紗枝子さんが各々昼食を食べ終えると、私は事務室の隅に置いてあった姿見の前に座らされてしまった。
「来月発売予定の新作の見本が届いたのよ。大丈夫、可愛く仕上げるから。嫌だったら、すぐに落とすし。ちょっと試させてね」
紗枝子さんは、してるのかしてないのかわからないくらいに薄い私のメイクをサッと落とすと、下地を塗っていく。
ふわふわと鼻をくすぐるファンデーションの香り。
メイクブラシの穂先が、赤みのある淡い色を乗せながら頬を撫でる。
「少し目を閉じててもらえる?」
紗枝子さんの手により、細部まで丁寧に施されていくメイク。
なんだか、梨緒にメイクしてもらったときのことを思い出す。
「つけまつ毛もつけちゃうね~」
「……え? あ、はい」
「高倉さん、ほぼすっぴんに近いんだもん。すっぴんも悪くないけど、メイク映えのする顔立ちっていうのかな? メイクの仕方によったら、もっと可愛くなると思うのよ」
「は、はぁ……」
「私がいいって言うまで、目を閉じててよね?」
フンフンと鼻歌を歌いながら、紗枝子さんは私の目元を仕上げていく。
そして、口許には新作の淡いベージュの口紅を塗ってもらった。
目元が終わっても、目を開けていいとは一言も言われず、私は目を閉じたままだ。
「はい、できたわよ」
その声とともに、ポンポンと両肩を叩かれて、私はまぶたを開けて目の前の鏡に映る自分の姿を目にした。
「……ぃえっ!?」
ちょ、ちょちょちょちょっと待って!
これは、マズいって……!
「あら? でもこの顔、どこかで見たことが……」
紗枝子さんも、まだはっきりとは気づいてないにせよ、何かしら感じてるようだ。
それも無理もない。
だって、目の前の姿見に映る私の顔は、かなり梨緒の顔に近かったのだから。
出勤直後の開店前、紗枝子さんにつかまった私は、早速本郷店長の“今の彼女”について聞き出されていた。
いくら“梨緒の姿で本郷店長と会ってる私”のことを聞かれているとはいえ、身の回りの社員の誰も知らないことを私の口から話すのは明らかにおかしい。
だから私は、次長の田中さんから聞いた“どんな人かはわからないけど彼女にゾッコンだ”ということのみ伝えた。
今は高倉奈緒の姿で紗枝子さんの前に立っているのに、ビクビクしながら彼女の反応を待った。
「そっかぁ、それだけしかわからなかったんだね~……」
だけど、意外にも紗枝子さんはあっさりとそう返してきただけだった。
「……はい。すみません」
「いいのよいいのよ。何となく想像ついたから」
ビューティー担当の人が着用する、黒いスーツの襟元を整えると、紗枝子さんはロッカーの扉の内側にある鏡でメイク直しをする。
私も今日のタイムスケジュールを確認しようと、事務室の机の上に置いてあるタイムスケジュール表を手に取った。
すると、すぐに私の後ろから紗枝子さんの声が聞こえた。
「ラッキー。また高倉さんと休憩一緒ね」
さっきまでメイク直しをしていたのに、いつの間に私の横から顔を出していたのだろう?
気づいたときには、紗枝子さんは私の手にあるタイムスケジュール表を覗き込んでいた。
「ちょっと、高倉さんに付き合ってほしいことがあるのよ」
「な、なんでしょう?」
本郷店長の今カノの探索の次は、何を言われるのだろう?
内心ビクビクしながら、紗枝子さんの次の言葉を待つ。
「メイクの練習?」
すると、にこりと笑いながら紗枝子さんはそう言った。
そうしてやって来た、お昼休憩の時間。
私と紗枝子さんが各々昼食を食べ終えると、私は事務室の隅に置いてあった姿見の前に座らされてしまった。
「来月発売予定の新作の見本が届いたのよ。大丈夫、可愛く仕上げるから。嫌だったら、すぐに落とすし。ちょっと試させてね」
紗枝子さんは、してるのかしてないのかわからないくらいに薄い私のメイクをサッと落とすと、下地を塗っていく。
ふわふわと鼻をくすぐるファンデーションの香り。
メイクブラシの穂先が、赤みのある淡い色を乗せながら頬を撫でる。
「少し目を閉じててもらえる?」
紗枝子さんの手により、細部まで丁寧に施されていくメイク。
なんだか、梨緒にメイクしてもらったときのことを思い出す。
「つけまつ毛もつけちゃうね~」
「……え? あ、はい」
「高倉さん、ほぼすっぴんに近いんだもん。すっぴんも悪くないけど、メイク映えのする顔立ちっていうのかな? メイクの仕方によったら、もっと可愛くなると思うのよ」
「は、はぁ……」
「私がいいって言うまで、目を閉じててよね?」
フンフンと鼻歌を歌いながら、紗枝子さんは私の目元を仕上げていく。
そして、口許には新作の淡いベージュの口紅を塗ってもらった。
目元が終わっても、目を開けていいとは一言も言われず、私は目を閉じたままだ。
「はい、できたわよ」
その声とともに、ポンポンと両肩を叩かれて、私はまぶたを開けて目の前の鏡に映る自分の姿を目にした。
「……ぃえっ!?」
ちょ、ちょちょちょちょっと待って!
これは、マズいって……!
「あら? でもこの顔、どこかで見たことが……」
紗枝子さんも、まだはっきりとは気づいてないにせよ、何かしら感じてるようだ。
それも無理もない。
だって、目の前の姿見に映る私の顔は、かなり梨緒の顔に近かったのだから。
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