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11.もう俺の前から逃がさない。
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洗面所へ入ると、洗面台の隅にクレンジングと洗顔の試供品の束が置いてあった。
確か、ついこの前までキャンペーンをしてた、化粧品のメーカーのものだ。
私も、店舗で余った試供品を少しもらって帰った記憶がある。
一回分ずつ包装されたクレンジングを手に取り、メイクに馴染ませる。
少しずつ、梨緒の姿から奈緒の姿へと戻っていく。
泡立てた洗顔料で顔を覆って、その泡が流れ落ちたときには、まるで魔法が解けたようにいつもの私の姿がそこにあった。
これまでは、魔法が解けるこの瞬間が、とても寂しかった。
本郷店長と距離を縮めているのは、偽りの姿の自分だと思い知らされているようだったから。
だけど、今日は違う。
そのままの、素の姿でいいって言ってもらえたんだ。
梨緒の姿の私とは、今日でお別れ。
さっぱりした顔を洗面台の鏡に映せば、ウェーブのかかった栗色ロングがとても不釣り合いな、高倉奈緒の姿があった。
ウィッグを外すものの、なんだか髪が落ち着かない。
やっぱりシャワーだけでも借りようかな……。
軽くシャワーを浴びて、完全に見た目も高倉奈緒の姿に戻った私は、本郷店長の待つリビングへと移動した。
*
「うん。その方がお前っぽいな」
リビングに戻ってきた私を見て、本郷店長はうん、とうなずく。
「そう、ですか……?」
なんとなく素の姿でいいなんて言われたから、すっぴんで出てきてしまったけど、せめて出勤するときみたいにファンデーションだけでも塗っておくべきだったかな。
まじまじと私を見てくる本郷店長を目の前にして、思わずそんなことを思ってしまう。
「腹減ってるだろ。男料理で大したものは用意できねぇが、良かったら食え」
そういえば、洗面所から出たとき鼻腔を掠めた何かを炒めたような匂がしてたけど、これだったんだ。
この前、私が夕食を振る舞ったテーブルには、炒飯と中華スープが並んでいる。
「これ、本郷店長が作ったんですか?」
だって、確か本郷店長って料理が苦手って言ってたはずなのに……。
「そうだ。何かひとつくらいお前に食わせてやれたらと思って、少し勉強したんだ。文句あるか?」
「い、いえ。とても美味しそうです。ありがとうございます。いただきます」
わぁ、私のためだなんて、そんな風に言われると、なんだかドキドキするけどとても嬉しい……!
それに、奈緒の姿でこんな風に本郷店長とご飯を食べることも初めてだし、なんだか緊張するよ……!
「奈緒」
「は、はいぃっ!」
わわ、奈緒って呼ばれた!
まぁ、私の正体が高倉奈緒ってわかった今、それが普通なのかもしれないけれど。
高倉奈緒の姿では、“高倉さん”って呼ばれ慣れてただけに、なんだかその変化がくすぐったく感じる。
「口に、合うか?」
「は、はい。と、とっても美味しいでございます……っ!」
緊張のあまり、思わずそんな風に叫んでしまった。
そんな私を見て、本郷店長は吹き出すように笑った。
「お前、キョドり過ぎだろ。まぁ、普段からそんなところあったけどさ」
「キョ、キョドってなんてないですからっ!」
「そういうのをキョドってるって言うんだよ。いつまでもそんなロボットみたいな動きしてたら、俺が口移しで食わせてやるぞ」
「……け、けけけ結構です!」
もう!
絶対本郷店長、私の反応見て楽しんでるよね。
目の前で可笑しそうに笑う本郷店長を、悔しげに見て思う。
でも、そこに嫌だという感情はなく、あるのは温かい胸のドキドキ。
私と目が合うと、柔らかく目を細める本郷店長に、さらに胸が高鳴る。
まさか、私をこんな風にいとおしそうに見てくれる人が現れるなんて、思わなかったな……。
確か、ついこの前までキャンペーンをしてた、化粧品のメーカーのものだ。
私も、店舗で余った試供品を少しもらって帰った記憶がある。
一回分ずつ包装されたクレンジングを手に取り、メイクに馴染ませる。
少しずつ、梨緒の姿から奈緒の姿へと戻っていく。
泡立てた洗顔料で顔を覆って、その泡が流れ落ちたときには、まるで魔法が解けたようにいつもの私の姿がそこにあった。
これまでは、魔法が解けるこの瞬間が、とても寂しかった。
本郷店長と距離を縮めているのは、偽りの姿の自分だと思い知らされているようだったから。
だけど、今日は違う。
そのままの、素の姿でいいって言ってもらえたんだ。
梨緒の姿の私とは、今日でお別れ。
さっぱりした顔を洗面台の鏡に映せば、ウェーブのかかった栗色ロングがとても不釣り合いな、高倉奈緒の姿があった。
ウィッグを外すものの、なんだか髪が落ち着かない。
やっぱりシャワーだけでも借りようかな……。
軽くシャワーを浴びて、完全に見た目も高倉奈緒の姿に戻った私は、本郷店長の待つリビングへと移動した。
*
「うん。その方がお前っぽいな」
リビングに戻ってきた私を見て、本郷店長はうん、とうなずく。
「そう、ですか……?」
なんとなく素の姿でいいなんて言われたから、すっぴんで出てきてしまったけど、せめて出勤するときみたいにファンデーションだけでも塗っておくべきだったかな。
まじまじと私を見てくる本郷店長を目の前にして、思わずそんなことを思ってしまう。
「腹減ってるだろ。男料理で大したものは用意できねぇが、良かったら食え」
そういえば、洗面所から出たとき鼻腔を掠めた何かを炒めたような匂がしてたけど、これだったんだ。
この前、私が夕食を振る舞ったテーブルには、炒飯と中華スープが並んでいる。
「これ、本郷店長が作ったんですか?」
だって、確か本郷店長って料理が苦手って言ってたはずなのに……。
「そうだ。何かひとつくらいお前に食わせてやれたらと思って、少し勉強したんだ。文句あるか?」
「い、いえ。とても美味しそうです。ありがとうございます。いただきます」
わぁ、私のためだなんて、そんな風に言われると、なんだかドキドキするけどとても嬉しい……!
それに、奈緒の姿でこんな風に本郷店長とご飯を食べることも初めてだし、なんだか緊張するよ……!
「奈緒」
「は、はいぃっ!」
わわ、奈緒って呼ばれた!
まぁ、私の正体が高倉奈緒ってわかった今、それが普通なのかもしれないけれど。
高倉奈緒の姿では、“高倉さん”って呼ばれ慣れてただけに、なんだかその変化がくすぐったく感じる。
「口に、合うか?」
「は、はい。と、とっても美味しいでございます……っ!」
緊張のあまり、思わずそんな風に叫んでしまった。
そんな私を見て、本郷店長は吹き出すように笑った。
「お前、キョドり過ぎだろ。まぁ、普段からそんなところあったけどさ」
「キョ、キョドってなんてないですからっ!」
「そういうのをキョドってるって言うんだよ。いつまでもそんなロボットみたいな動きしてたら、俺が口移しで食わせてやるぞ」
「……け、けけけ結構です!」
もう!
絶対本郷店長、私の反応見て楽しんでるよね。
目の前で可笑しそうに笑う本郷店長を、悔しげに見て思う。
でも、そこに嫌だという感情はなく、あるのは温かい胸のドキドキ。
私と目が合うと、柔らかく目を細める本郷店長に、さらに胸が高鳴る。
まさか、私をこんな風にいとおしそうに見てくれる人が現れるなんて、思わなかったな……。
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