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2.仲直りの醤油めし
2ー12
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「だって、和樹くんの彼女って。和樹くんと私じゃ歳が違いすぎますよ!」
「俺は良いよ、ケイちゃんが彼女で。ケイちゃん童顔やけん、いけるって!」
和樹くんは、そんな風に軽く笑い飛ばす。
確かに童顔かもしれないけれど、まさか中学生の男子に指摘されるだなんて……。悪気はないのだろうけれど、さすがに内心ショックを受ける。
「心配せんでも大丈夫やで。兄ちゃんと恋愛の話とかしたことなかったけん、絶対怪しまれない自信あるし。もし歳を見抜かれたときは、俺が歳上好きやったことにしたらいいけん」
簡単に良いよというけれど、さすがに無理があるだろう。
けれど、口から出かけた言葉は、畳み掛けるような和樹くんの明るい声によって声にならなかった。
「それに明日なら、今日みっちり彼女のフリをする練習ができるやん」
明るい口調と裏腹に、まるで懇願するような瞳で和樹くんはこちらを見ていた。
和樹くんにとっては、唯一お兄さんに思いを伝えられるかもしれない方法なんだ。お兄さんの目に触れることができない和樹くんにとって、どんな形であっても伝えたいのだろう。
そう思うと、これ以上断ろうという気持ちは起きなかった。
*
翌日の夕方。太陽は西に傾きつつあるとはいえ、七月独特の蒸し暑さは顕在している。
昨日は彼女のフリの練習という名目で、和樹くんと二人、お兄さんに伝えたい想いの確認をしたけれど、本当に上手くいくのだろうか。
和樹くんのお兄さんが通っている高校の正門から車道を挟んで向かい側の歩道から、和樹くんと様子をうかがう。
正門からは次々と下校する生徒の姿が見られるが、お兄さんらしき姿はまだないようだった。
少し離れたところにグラウンドのフェンスが見えていて、部活動が始まったのかさっきから掛け声が聞こえている。
「今日は兄ちゃんの塾がある曜日やけん、多分こっちから出て来ると思うんよ」
朝と下校の時間帯は裏門が開いているらしく、真っ直ぐ家に帰るときは、お兄さんは裏門から出入りしているらしい。
だけど、塾のある日は正門から出た方が都合が良いらしく、正門から出てくるんだとか。
十分も経たないうちに、和樹くんが声を上げた。
「あっ、兄ちゃんだ……!」
と、自転車を押して正門から出てくる一人の男子生徒のそばへ浮遊していく。
「兄ちゃん……! ケイちゃん、この人が俺の兄ちゃんやけん!」
和樹くんがお兄さんに呼びかけようと、私に大きな声で紹介しようと、やっぱりその声はお兄さんには聞こえていないようで、正門から出ると自転車にまたがろうとするのが見える。
私は慌てて和樹くんの後を追うように車道を渡ると、お兄さんに駆け寄った。
「あの……っ」
ここで自転車に乗って行ってしまわれたら、ここまで来たこともお兄さんを見つけられたことも、水の泡になってしまう……!
「兵頭和樹くんのお兄さんですよね?」
「そうですけど、きみは……」
お兄さんに声をかけると、少し不審そうにこちらを見られる。
そりゃそうだよね。いきなり知らない人が学校まで押し掛けてきて和樹くんのことを口にして、何事かと思わせてしまうだろう。
「あの、私……和樹くんとお付き合いをさせていただいてた、江口と申します」
「え? 和樹の、彼女……?」
和樹くんのお兄さんはさらにまゆを寄せる。
わわわ。やっぱり私が彼女なんて、無理があったんだって!
逃げ出したくなる気持ちをグッとこらえながら、「……はい」と返す。
じっとこちらを見るお兄さんの目が耐えられなくて、でもそらすこともできない。
お兄さんの後ろで私たちの会話を見守ってくれている和樹くんでさえ緊張しているのか、そんな空気が伝わってくる。
「マジか……。あいつ、彼女いたんかよ」
すると、お兄さんはそんなことをポツリと呟いたかと思うと、
「ごめん。ちょっとびっくりして……。あいつのことで、何か話があるの……?」
少し動揺の色を見せたあとに、至極真面目な表情でそう聞き返してきてくれた。
良かった、何とかお兄さんとお話ができそう……!
「はい。少しお時間いいですか?」
*
和樹くんのお兄さんである兵頭 弘樹さんは、現在高校二年生で、春までバスケ部に所属していたそうだ。
今はすでにバスケ部は退部していて、早々来年度の受験に備えようと思うも勉強には身が入らない状態らしい。
西陽に向かって歩いて行くと、路面電車の通る大通りに出る。
見覚えがある通りだなと思ったら、先日土曜夜市に行くときに通った道だった。
「ファーストフード店でもいいかな」
弘樹さんは少し申し訳なさそうに言うと、大街道の中にあるファーストフード店に私を案内した。
「俺は良いよ、ケイちゃんが彼女で。ケイちゃん童顔やけん、いけるって!」
和樹くんは、そんな風に軽く笑い飛ばす。
確かに童顔かもしれないけれど、まさか中学生の男子に指摘されるだなんて……。悪気はないのだろうけれど、さすがに内心ショックを受ける。
「心配せんでも大丈夫やで。兄ちゃんと恋愛の話とかしたことなかったけん、絶対怪しまれない自信あるし。もし歳を見抜かれたときは、俺が歳上好きやったことにしたらいいけん」
簡単に良いよというけれど、さすがに無理があるだろう。
けれど、口から出かけた言葉は、畳み掛けるような和樹くんの明るい声によって声にならなかった。
「それに明日なら、今日みっちり彼女のフリをする練習ができるやん」
明るい口調と裏腹に、まるで懇願するような瞳で和樹くんはこちらを見ていた。
和樹くんにとっては、唯一お兄さんに思いを伝えられるかもしれない方法なんだ。お兄さんの目に触れることができない和樹くんにとって、どんな形であっても伝えたいのだろう。
そう思うと、これ以上断ろうという気持ちは起きなかった。
*
翌日の夕方。太陽は西に傾きつつあるとはいえ、七月独特の蒸し暑さは顕在している。
昨日は彼女のフリの練習という名目で、和樹くんと二人、お兄さんに伝えたい想いの確認をしたけれど、本当に上手くいくのだろうか。
和樹くんのお兄さんが通っている高校の正門から車道を挟んで向かい側の歩道から、和樹くんと様子をうかがう。
正門からは次々と下校する生徒の姿が見られるが、お兄さんらしき姿はまだないようだった。
少し離れたところにグラウンドのフェンスが見えていて、部活動が始まったのかさっきから掛け声が聞こえている。
「今日は兄ちゃんの塾がある曜日やけん、多分こっちから出て来ると思うんよ」
朝と下校の時間帯は裏門が開いているらしく、真っ直ぐ家に帰るときは、お兄さんは裏門から出入りしているらしい。
だけど、塾のある日は正門から出た方が都合が良いらしく、正門から出てくるんだとか。
十分も経たないうちに、和樹くんが声を上げた。
「あっ、兄ちゃんだ……!」
と、自転車を押して正門から出てくる一人の男子生徒のそばへ浮遊していく。
「兄ちゃん……! ケイちゃん、この人が俺の兄ちゃんやけん!」
和樹くんがお兄さんに呼びかけようと、私に大きな声で紹介しようと、やっぱりその声はお兄さんには聞こえていないようで、正門から出ると自転車にまたがろうとするのが見える。
私は慌てて和樹くんの後を追うように車道を渡ると、お兄さんに駆け寄った。
「あの……っ」
ここで自転車に乗って行ってしまわれたら、ここまで来たこともお兄さんを見つけられたことも、水の泡になってしまう……!
「兵頭和樹くんのお兄さんですよね?」
「そうですけど、きみは……」
お兄さんに声をかけると、少し不審そうにこちらを見られる。
そりゃそうだよね。いきなり知らない人が学校まで押し掛けてきて和樹くんのことを口にして、何事かと思わせてしまうだろう。
「あの、私……和樹くんとお付き合いをさせていただいてた、江口と申します」
「え? 和樹の、彼女……?」
和樹くんのお兄さんはさらにまゆを寄せる。
わわわ。やっぱり私が彼女なんて、無理があったんだって!
逃げ出したくなる気持ちをグッとこらえながら、「……はい」と返す。
じっとこちらを見るお兄さんの目が耐えられなくて、でもそらすこともできない。
お兄さんの後ろで私たちの会話を見守ってくれている和樹くんでさえ緊張しているのか、そんな空気が伝わってくる。
「マジか……。あいつ、彼女いたんかよ」
すると、お兄さんはそんなことをポツリと呟いたかと思うと、
「ごめん。ちょっとびっくりして……。あいつのことで、何か話があるの……?」
少し動揺の色を見せたあとに、至極真面目な表情でそう聞き返してきてくれた。
良かった、何とかお兄さんとお話ができそう……!
「はい。少しお時間いいですか?」
*
和樹くんのお兄さんである兵頭 弘樹さんは、現在高校二年生で、春までバスケ部に所属していたそうだ。
今はすでにバスケ部は退部していて、早々来年度の受験に備えようと思うも勉強には身が入らない状態らしい。
西陽に向かって歩いて行くと、路面電車の通る大通りに出る。
見覚えがある通りだなと思ったら、先日土曜夜市に行くときに通った道だった。
「ファーストフード店でもいいかな」
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