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3.恋する特製カレーオムライス
3ー11
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*
「……そっか、史也さんもずっと苦しんできとったんやな」
いつも明るい拓也さんの表情が曇る。
「はい。何とか二人に前を向いてもらいたいと思うのですが……」
和樹くんのときもそうだったけれど、一方が死んでしまえば、会うことも話すこともできない。それこそ、むすび屋の人間のように“見える”体質でない限り。
そんなことわかっているけれど、仕方ないと簡単に諦められないくらいには二人との関わりができてしまった。
「何とか二人を会わせることができたら……。それで、清美さんから直接気持ちを伝えてもらえたら、また何か変わるかもしれないのに……。結局はそう思ってしまうんです」
史也さんが清美さんの気持ちを知れば、状況は変わるだろう。少なくとも清美さんに対して抱いている罪悪感は払拭できるのではないかと思うし、身動きの取れない今よりはいい未来へと進んでいけるはずだ。
「一般の人間に幽霊を見えるようにする方法ってないんですか?」
「ないな。俺らみたいに元々“見える”人じゃない限り無理だ」
「……そう、ですよね」
答えは予想できたものの、晃さんに即答されて私は肩を落とした。
死んだあとも会いたい人に会って話すことができるのなら、未練を残してしまう幽霊はもっと減るだろう。
だけどそれができないから、先に亡くなった人も、あとに残された人も苦しんでいる。
だから生きている時間は悔いないように生きないといけない。死んでしまったら想いを伝えることもできなくなってしまうのだから。
本来ならお互いの気持ちを知る術のない二人はずっとこのままだ。
でも二人それぞれの真意も、今抱いている気持ちも知ってしまった。だからこそ余計にそれを見過ごして、なかったことにするなんてできそうにない。
「私を仲介して二人が話す……のは可能ですか?」
それには私が霊が見えることを史也さんに打ち明ける必要が出てくるだろう。霊が見えることで嫌な思いをしたことがあることから、決して自ら打ち明けたいことではない。
けれど、二人のわだかまりが消えてお互いを縛りつけている未練が解消できるならと、思いきって提案した。
晃さんはしばし思案するように視線を巡らせ、首を横にふった。
「不可能ではないと思うが、史也さんの立場に立って考えてみろ。いきなり民宿の人間に、元恋人の霊が見えるって言われたらどうだ? 信じて受け入れてくれる人なら手っ取り早いが、下手すれば幽霊民宿扱いされるぞ」
幽霊民宿という呼び名はあながち間違ってはないと思うけど……。
でも、晃さんの言っている意味はわかる。
大半の人にとって幽霊は目に見えないものだから仕方ない。私だって、突然見たことのない何かの存在を主張されたら、きっと信じられないし、逆に不信感を覚えるだろう。
そうなれば、私が下手に仲介に入ることで、かえって状況が悪くなってしまう可能性もある。
民宿の人間がお客様に不快な思いをさせてしまうのは避けたい。
「本人はどう思っとんやろうな」
私たちのそばで話を聞いていた拓也さんが、首をかしげる。
「え?」
「清美さんは、今日ずっと史也さんのそばにいたいと言って出ていったんやろ? それなら史也さんが告白される現場も見とったと思うんやけど」
拓也さんの言葉に、晃さんも同意を示すように「確かに、そうだな」と口にする。
「でも、清美さんは告白現場だったむすび屋の裏庭にはいませんでしたよ? 聞いていたとは思えませんけど……」
史也さんと話しているとき、私は何度もさりげなく辺りを見回していたものの、清美さんの姿は見えなかった。
「本当に最初から居なかったのかどうかは、途中から現場に遭遇したおまえにはわからないだろ?」
晃さんの言葉に、私の考えは甘かったんだと知らされる。
「あ……」
確かにそうだ。私が居合わせたのは、ちょうど史也さんが静さんの告白を断るところで、最初から見ていたわけではない。
朝の言葉通り今日は史也さんのそばにずっといたのだとしたら、清美さんは史也さんが告白されるところを見ていたのではないだろうか。
もしそうだとしたら、清美さんはどう思うだろう。
史也さんにアタックする静さんを、羨望と嫉妬の眼差しで見ていた清美さんを思い出す。
彼女は、史也さんは静さんに惹かれてるのだと切なげに話していた。
清美さんが、心配だ。
拓也さんの美味しい料理を掻き込んで食べるなんて、勿体ない食べ方はできない。
だけど心配が大きくて、気持ち急ぎ気味で味わいながら天丼を完食すると、私は清美さんを探しに食堂を飛び出した。
「……そっか、史也さんもずっと苦しんできとったんやな」
いつも明るい拓也さんの表情が曇る。
「はい。何とか二人に前を向いてもらいたいと思うのですが……」
和樹くんのときもそうだったけれど、一方が死んでしまえば、会うことも話すこともできない。それこそ、むすび屋の人間のように“見える”体質でない限り。
そんなことわかっているけれど、仕方ないと簡単に諦められないくらいには二人との関わりができてしまった。
「何とか二人を会わせることができたら……。それで、清美さんから直接気持ちを伝えてもらえたら、また何か変わるかもしれないのに……。結局はそう思ってしまうんです」
史也さんが清美さんの気持ちを知れば、状況は変わるだろう。少なくとも清美さんに対して抱いている罪悪感は払拭できるのではないかと思うし、身動きの取れない今よりはいい未来へと進んでいけるはずだ。
「一般の人間に幽霊を見えるようにする方法ってないんですか?」
「ないな。俺らみたいに元々“見える”人じゃない限り無理だ」
「……そう、ですよね」
答えは予想できたものの、晃さんに即答されて私は肩を落とした。
死んだあとも会いたい人に会って話すことができるのなら、未練を残してしまう幽霊はもっと減るだろう。
だけどそれができないから、先に亡くなった人も、あとに残された人も苦しんでいる。
だから生きている時間は悔いないように生きないといけない。死んでしまったら想いを伝えることもできなくなってしまうのだから。
本来ならお互いの気持ちを知る術のない二人はずっとこのままだ。
でも二人それぞれの真意も、今抱いている気持ちも知ってしまった。だからこそ余計にそれを見過ごして、なかったことにするなんてできそうにない。
「私を仲介して二人が話す……のは可能ですか?」
それには私が霊が見えることを史也さんに打ち明ける必要が出てくるだろう。霊が見えることで嫌な思いをしたことがあることから、決して自ら打ち明けたいことではない。
けれど、二人のわだかまりが消えてお互いを縛りつけている未練が解消できるならと、思いきって提案した。
晃さんはしばし思案するように視線を巡らせ、首を横にふった。
「不可能ではないと思うが、史也さんの立場に立って考えてみろ。いきなり民宿の人間に、元恋人の霊が見えるって言われたらどうだ? 信じて受け入れてくれる人なら手っ取り早いが、下手すれば幽霊民宿扱いされるぞ」
幽霊民宿という呼び名はあながち間違ってはないと思うけど……。
でも、晃さんの言っている意味はわかる。
大半の人にとって幽霊は目に見えないものだから仕方ない。私だって、突然見たことのない何かの存在を主張されたら、きっと信じられないし、逆に不信感を覚えるだろう。
そうなれば、私が下手に仲介に入ることで、かえって状況が悪くなってしまう可能性もある。
民宿の人間がお客様に不快な思いをさせてしまうのは避けたい。
「本人はどう思っとんやろうな」
私たちのそばで話を聞いていた拓也さんが、首をかしげる。
「え?」
「清美さんは、今日ずっと史也さんのそばにいたいと言って出ていったんやろ? それなら史也さんが告白される現場も見とったと思うんやけど」
拓也さんの言葉に、晃さんも同意を示すように「確かに、そうだな」と口にする。
「でも、清美さんは告白現場だったむすび屋の裏庭にはいませんでしたよ? 聞いていたとは思えませんけど……」
史也さんと話しているとき、私は何度もさりげなく辺りを見回していたものの、清美さんの姿は見えなかった。
「本当に最初から居なかったのかどうかは、途中から現場に遭遇したおまえにはわからないだろ?」
晃さんの言葉に、私の考えは甘かったんだと知らされる。
「あ……」
確かにそうだ。私が居合わせたのは、ちょうど史也さんが静さんの告白を断るところで、最初から見ていたわけではない。
朝の言葉通り今日は史也さんのそばにずっといたのだとしたら、清美さんは史也さんが告白されるところを見ていたのではないだろうか。
もしそうだとしたら、清美さんはどう思うだろう。
史也さんにアタックする静さんを、羨望と嫉妬の眼差しで見ていた清美さんを思い出す。
彼女は、史也さんは静さんに惹かれてるのだと切なげに話していた。
清美さんが、心配だ。
拓也さんの美味しい料理を掻き込んで食べるなんて、勿体ない食べ方はできない。
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