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「愛することをやめるのは、拷問にも等しくて。」
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「お兄ちゃん!?」
「ほら、弁当。母さんがミスってたからさ、今ごろ困ってるんじゃないかと思って」
「ありがとう」
お兄ちゃん、走ってきてくれたんだ。私のために。
そう思うだけで幸せで、胸が一杯になる。
お兄ちゃんは私の手元にあった黒いケースに入ったご飯を持って、「じゃあ」と再び教室を出ていった。
「顔、緩んでるぞ」
「そ、そんなことないもん」
お兄ちゃんが出ていった方を見ていると、市川くんにそう指摘されて思わずギクリとする。
そんな私たちのやり取りを見て、冬子は不思議そうな顔をしている。
やめてよね、冬子の前でそんな話するの。
そう目で訴えると、市川くんは小さく舌打ちして前を向いた。
市川くんは、私のお兄ちゃんに対する気持ちを知ってる。
『お前、あの兄貴のこと好きなんだろ、恋愛対象として』
市川くんにそう言われて、私の気持ちを見抜かれてしまったのは、数ヶ月前のことだ。
何度も否定したけれど、市川くんには完全にお見通しのようで、最近はそれさえも無駄な抵抗だと悟った。
それからは誰にも言わないでと市川くんに口止めして、今に至る。
市川くんは私の気持ちを言いふらすようなことはしてないみたいだけど、時々こうしてお兄ちゃんが教室に現れたり、一緒にいるところを見られたりする度に他人が聞けば意味深なことを平気で言ってくるから、気が気じゃなかった。
*
その日の放課後。委員の仕事で遅くなった私は、放課後の廊下で市川くんと出くわした。
サッカー部のユニフォームを着ている市川くんは、何らかの理由で校舎内に入ってきていたのだろう。
とりあえずお疲れさまとだけ言ってすれ違おうとするけれど、市川くんに私の腕をつかまれて、それは阻止された。
「お前さ、まだあいつのこと好きなの?」
それは私がお兄ちゃんのことを好きだということに対する非難めいたものなのだろう。
私とお兄ちゃんが、兄妹だから。
「……市川くんには関係ないじゃん」
だけど、そんなこと市川くんに言われなくても痛いくらいにわかってる。
下校時間からは時間が経っていることもあり、教室や廊下を見渡す限り、この空間にいるのは私たちのみだ。
「関係ある」
「ない」
「ある。だって俺、お前が好きだから」
「……え?」
突然言われた言葉に、一瞬頭が真っ白になる。
そうしているうちに、私は市川くんの腕にぎゅっと抱きしめられた。
「あんなやつやめて、俺にしろよ。俺なら、お前にそんな顔させない」
「ごめん……」
市川くんから身を離しながらそう伝えるけれど、市川くんは不満そうな表情を浮かべている。
「お前の返事なんてわかってる。でも、何であいつなんだよ。お前がどんなに想ったって、お前はあいつにとってただの妹だろ?」
「そんなの、わかってる」
わかってるから、他の人の口から言われると余計に辛い。
「だったら」
「でも、それでも好きなの、どうしようもないくらいに」
不毛な恋だってわかってる。
この恋が叶うことがないことも。
「好きでいられるだけでいいの。むしろ、兄妹だから無条件でそばにいられるし、それだけで本当に幸せ……」
幸せだっていつも思ってるのに、この気持ちに嘘はないのに、涙が出てきてしまうのはどうしてなのだろう?
「幸せそうに見えないから言ってんだろ? お前が誰を想ってるかわかるくらい、お前のことを見てきた俺をナメるな」
「……そうかもしれないけど」
どういうわけか市川くんには私の気持ちなんてお見通しだったけど、それは私のことをよく見てたということなんだ。
「好きでいることを否定される方がよっぽど辛いよ。想うのは自由なんだから、私のことは放っておいてほしい」
愛することをやめるのは、簡単じゃない。
それをやめるように強要されるのは、私にとっては拷問と同じだ。
「やだね。だって想うのは自由なんだろ? 俺だってお前と同じだ。お前が好きだから、放っておいてやれない」
市川くんの言い分や気持ちがわかるからこそ、私はそんな市川くんに対して何も言えなかった。
私が市川くんを好きになれたら、いわゆる普通の恋人同士になれるのに……。
どうして私たちの心は都合よく動いてはくれないのだろう?
それがわかっていても、どんなに辛くてもこの想いが揺らぐことはない。
そう簡単に忘れられたら、わざわざこんな不毛な恋はしてない。
だからきっと私は、これから先も、誰に何を言われても、ひっそりお兄ちゃんのことを想うんだ──。
「ほら、弁当。母さんがミスってたからさ、今ごろ困ってるんじゃないかと思って」
「ありがとう」
お兄ちゃん、走ってきてくれたんだ。私のために。
そう思うだけで幸せで、胸が一杯になる。
お兄ちゃんは私の手元にあった黒いケースに入ったご飯を持って、「じゃあ」と再び教室を出ていった。
「顔、緩んでるぞ」
「そ、そんなことないもん」
お兄ちゃんが出ていった方を見ていると、市川くんにそう指摘されて思わずギクリとする。
そんな私たちのやり取りを見て、冬子は不思議そうな顔をしている。
やめてよね、冬子の前でそんな話するの。
そう目で訴えると、市川くんは小さく舌打ちして前を向いた。
市川くんは、私のお兄ちゃんに対する気持ちを知ってる。
『お前、あの兄貴のこと好きなんだろ、恋愛対象として』
市川くんにそう言われて、私の気持ちを見抜かれてしまったのは、数ヶ月前のことだ。
何度も否定したけれど、市川くんには完全にお見通しのようで、最近はそれさえも無駄な抵抗だと悟った。
それからは誰にも言わないでと市川くんに口止めして、今に至る。
市川くんは私の気持ちを言いふらすようなことはしてないみたいだけど、時々こうしてお兄ちゃんが教室に現れたり、一緒にいるところを見られたりする度に他人が聞けば意味深なことを平気で言ってくるから、気が気じゃなかった。
*
その日の放課後。委員の仕事で遅くなった私は、放課後の廊下で市川くんと出くわした。
サッカー部のユニフォームを着ている市川くんは、何らかの理由で校舎内に入ってきていたのだろう。
とりあえずお疲れさまとだけ言ってすれ違おうとするけれど、市川くんに私の腕をつかまれて、それは阻止された。
「お前さ、まだあいつのこと好きなの?」
それは私がお兄ちゃんのことを好きだということに対する非難めいたものなのだろう。
私とお兄ちゃんが、兄妹だから。
「……市川くんには関係ないじゃん」
だけど、そんなこと市川くんに言われなくても痛いくらいにわかってる。
下校時間からは時間が経っていることもあり、教室や廊下を見渡す限り、この空間にいるのは私たちのみだ。
「関係ある」
「ない」
「ある。だって俺、お前が好きだから」
「……え?」
突然言われた言葉に、一瞬頭が真っ白になる。
そうしているうちに、私は市川くんの腕にぎゅっと抱きしめられた。
「あんなやつやめて、俺にしろよ。俺なら、お前にそんな顔させない」
「ごめん……」
市川くんから身を離しながらそう伝えるけれど、市川くんは不満そうな表情を浮かべている。
「お前の返事なんてわかってる。でも、何であいつなんだよ。お前がどんなに想ったって、お前はあいつにとってただの妹だろ?」
「そんなの、わかってる」
わかってるから、他の人の口から言われると余計に辛い。
「だったら」
「でも、それでも好きなの、どうしようもないくらいに」
不毛な恋だってわかってる。
この恋が叶うことがないことも。
「好きでいられるだけでいいの。むしろ、兄妹だから無条件でそばにいられるし、それだけで本当に幸せ……」
幸せだっていつも思ってるのに、この気持ちに嘘はないのに、涙が出てきてしまうのはどうしてなのだろう?
「幸せそうに見えないから言ってんだろ? お前が誰を想ってるかわかるくらい、お前のことを見てきた俺をナメるな」
「……そうかもしれないけど」
どういうわけか市川くんには私の気持ちなんてお見通しだったけど、それは私のことをよく見てたということなんだ。
「好きでいることを否定される方がよっぽど辛いよ。想うのは自由なんだから、私のことは放っておいてほしい」
愛することをやめるのは、簡単じゃない。
それをやめるように強要されるのは、私にとっては拷問と同じだ。
「やだね。だって想うのは自由なんだろ? 俺だってお前と同じだ。お前が好きだから、放っておいてやれない」
市川くんの言い分や気持ちがわかるからこそ、私はそんな市川くんに対して何も言えなかった。
私が市川くんを好きになれたら、いわゆる普通の恋人同士になれるのに……。
どうして私たちの心は都合よく動いてはくれないのだろう?
それがわかっていても、どんなに辛くてもこの想いが揺らぐことはない。
そう簡単に忘れられたら、わざわざこんな不毛な恋はしてない。
だからきっと私は、これから先も、誰に何を言われても、ひっそりお兄ちゃんのことを想うんだ──。
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