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「愛することをやめるのは、拷問にも等しくて。」
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-結弦Side-
家に帰ると、電気もつけずになずながリビングのソファーに横になっていた。
なずなの顔が見えるようにソファーの前にしゃがむと、なずなの閉じた瞳の両端に涙の粒が浮かんでいるのが見える。
泣いたのか……?
涙を拭おうと、指でなずなの目元に触れたとき、
「おにぃ、ちゃん……」
なずなが掠れた小さな声で呟くので、俺は思わず勢いよく身を離した。
だけど、それはどうやらただの寝言だったようで、ホッと胸を撫で下ろす。
いつからか、なずなが俺に向ける瞳が違うことには気づいてた。
なずなは、良くも悪くもわかりやすいからな。
かくいう俺も、実はなずなのことが好きだ。一人の女の子として。
今日、母さんが間違えて包んでいた弁当をなずなの教室に持っていったとき、そこでなずなと話していた男子生徒に妬いてしまうくらいに、俺のこの気持ちは生半可なものではない。
最初はなずなが無意識に出してるのであろう好き好きオーラに戸惑っていたものの、いつの間にか俺も彼女に落ちていた。
だけどだからって、俺は彼女の気持ちに応えることはできない。
やっぱりそこには越えてはいけない一線があるから。俺は今日も“いいお兄ちゃん”を演じる。
でも……。
俺は思わずなずなが寝ていることをいいことに、ほんの一瞬、目の前の彼女と唇を重ねた。
そして、自己嫌悪。
“好き”の気持ちはどんどん大きくなって、ちょっと気を緩めるとダメだ。
俺らの気持ちは一方通行。
決して交わることはあってはならない。
何事もなかったようにその場を立ち、リビングの電気をつける。
すると、その明かりで目が覚めたのか、ムクッとなずながソファーの上で身を起こした。
「あれ? お兄ちゃん、今帰ったの?」
「ああ、ただいま。寝てたのか?」
「うん、寝ちゃってたみたい……」
今にもまた眠ってしまいそうななずなの頭をくしゃりと撫でると、少し怒ったようににらまれる。
「きゃっ! もう!」
「そんなところで寝てたら風邪ひくよ?」
「わかってるもん」
「そんなに怒らないでよ。帰りになずなの好きなクッキー買ってきたからさ」
「本当!?」
プイッとそっぽ向いたと思えば、明るい笑顔の花を咲かせる。
そんななずなが好きだっていう俺の気持ちは、きっと目の前の本人は知らないのだろう。
「お兄ちゃん、大好き」
「はいはい」
だから、そんなきみとの平和な日々を守るため、俺は今日も何でもないように返事する。
きみの、たった一人の兄として。
きみにはちゃんとした幸せをつかんでほしいから──。
*愛することをやめるのは、拷問にも等しくて。*
*END*
家に帰ると、電気もつけずになずながリビングのソファーに横になっていた。
なずなの顔が見えるようにソファーの前にしゃがむと、なずなの閉じた瞳の両端に涙の粒が浮かんでいるのが見える。
泣いたのか……?
涙を拭おうと、指でなずなの目元に触れたとき、
「おにぃ、ちゃん……」
なずなが掠れた小さな声で呟くので、俺は思わず勢いよく身を離した。
だけど、それはどうやらただの寝言だったようで、ホッと胸を撫で下ろす。
いつからか、なずなが俺に向ける瞳が違うことには気づいてた。
なずなは、良くも悪くもわかりやすいからな。
かくいう俺も、実はなずなのことが好きだ。一人の女の子として。
今日、母さんが間違えて包んでいた弁当をなずなの教室に持っていったとき、そこでなずなと話していた男子生徒に妬いてしまうくらいに、俺のこの気持ちは生半可なものではない。
最初はなずなが無意識に出してるのであろう好き好きオーラに戸惑っていたものの、いつの間にか俺も彼女に落ちていた。
だけどだからって、俺は彼女の気持ちに応えることはできない。
やっぱりそこには越えてはいけない一線があるから。俺は今日も“いいお兄ちゃん”を演じる。
でも……。
俺は思わずなずなが寝ていることをいいことに、ほんの一瞬、目の前の彼女と唇を重ねた。
そして、自己嫌悪。
“好き”の気持ちはどんどん大きくなって、ちょっと気を緩めるとダメだ。
俺らの気持ちは一方通行。
決して交わることはあってはならない。
何事もなかったようにその場を立ち、リビングの電気をつける。
すると、その明かりで目が覚めたのか、ムクッとなずながソファーの上で身を起こした。
「あれ? お兄ちゃん、今帰ったの?」
「ああ、ただいま。寝てたのか?」
「うん、寝ちゃってたみたい……」
今にもまた眠ってしまいそうななずなの頭をくしゃりと撫でると、少し怒ったようににらまれる。
「きゃっ! もう!」
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だから、そんなきみとの平和な日々を守るため、俺は今日も何でもないように返事する。
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