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「きみのために。」
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「……な、んで?」
だって、彼は確かにさっき私から離れて去っていったはずなのに……。
「俺を騙そうなんて百年、いや一億年早いんだよ」
「え?」
「……全部嘘なのはわかってんだよ」
ただでさえ彼が戻ってきて私を抱きしめているという事実に混乱しているというのに、彼の言葉に私の頭は完全にフリーズした。
そして、彼は私から身を離すと、まっすぐ私を見つめて再び口を開く。
「お前、俺に隠してることあるだろ」
彼の言うことは間違ってない。
その通り、なのだ。
私は近いうちに今通っている高校に通えなくなる。恐らくそこには嘘はない。
だけど、引っ越すわけではなかったんだ。
「前から言ってた頭痛。そんなに悪い病気が原因だったのか?」
「どうして……」
「そりゃあんだけ酷い頭痛を持ってて、病院で診てもらおうかと散々話してたくせに、ある日を境にまるっきり話題に出さなくなった。それと同時にお前の俺に対する態度が変わったんだ。何か悪い病気だったんじゃないかって考えることもできるだろ?」
そう。その通りなのだ。
高校に入学した頃から頭痛持ちだった私。
最初は慣れない高校生活からくる疲れで頭が痛くなってるんだと思ってた。
だけど、学校生活に慣れても、どんなに休日に身体を休めても、頭痛は酷くなるばかりで……。
市販の痛み止めも効かなくて、さすがに耐えられなくなった私は、悩んだ末、病院で診てもらうことにしたのだ。
すると、検査を受けるようにすすめられて、その検査の結果が出たのが、つい先週のことだ。
確かに彼に病院に行こうか迷ってると話したことはあったけれど、そこまで彼が私の言葉から憶測で考えてくれていたなんて思いもしなかった。
「お前のことだから、病気だとわかって俺に遠慮してるんじゃないのか? だって俺たち、そもそも遠距離だからダメになるっていうような仲じゃないじゃん」
彼はまるで言い聞かせるように優しい口調で言って、私の目を見つめてくる。
気まずくて、だけど彼から視線をそらすこともできない。
「もしそうなら、別れるなんて言うなよ。俺は何があってもお前を支えていきたいんだ」
「勝手なこと言わないで!」
彼の気持ちは嬉しいけれど、このままじゃ、せっかく彼から離れる決心をしたのにそれが無駄になってしまう。
「あなたは何も知らないから、そんなこと言えるんだよ……」
本当のことは話さないつもりだった。だけど、私に病気が見つかったことまで彼に勘づかれていたなら仕方ない。
「……脳腫瘍なの。私の頭痛はそのせいだったみたい」
彼が息を呑むのがわかった。目を見開いて固まっている。
それも無理ない。私も同じ立場なら、どう反応していいかわからない。
だけど、彼がそんな様子を見せたのも一瞬。
すぐに戸惑いの表情を引っ込めた彼は、まっすぐな口調でわたしに告げる。
「……だからって、俺から離れて一人で抱えこもうとするなよ。本当は病気がわかって、すごく心細くて辛くて不安なんだろ?」
「やめて!」
やめて、やめて、やめて!
これ以上、私の決意を揺らがすようなことを言わないでほしかった。
ただ病気なだけなら、まだよかった。
これ以上一緒にいたら、確実に近い未来、今以上に彼のことを傷つけてしまう。
「あなたのこと、これ以上傷つけたくないの」
どのみち傷つけてしまうのなら、一番彼が傷つかない方法で別れたい。
だから、本当の理由は黙って彼から離れるつもりだったのに……。
「……まさか本気でそう思ってる? それなら、お前は勘違いしてる」
だけど彼はそんな私の頬を両手で挟むように彼の手を添えると、まっすぐに私を見つめる。
「俺は、俺に嘘をついてまで何もかもを隠して、お前に消えられる方がよっぽど辛いよ。辛いなら俺に頼れよ。俺はどんな状態のお前も受け入れる自信があるから」
「そんなこと、言われても……」
「何だよ、まだ何かあるのか?」
目をそらそうとしても、あまりに真剣な彼の瞳に、それを許してもらえない。
だって、彼は確かにさっき私から離れて去っていったはずなのに……。
「俺を騙そうなんて百年、いや一億年早いんだよ」
「え?」
「……全部嘘なのはわかってんだよ」
ただでさえ彼が戻ってきて私を抱きしめているという事実に混乱しているというのに、彼の言葉に私の頭は完全にフリーズした。
そして、彼は私から身を離すと、まっすぐ私を見つめて再び口を開く。
「お前、俺に隠してることあるだろ」
彼の言うことは間違ってない。
その通り、なのだ。
私は近いうちに今通っている高校に通えなくなる。恐らくそこには嘘はない。
だけど、引っ越すわけではなかったんだ。
「前から言ってた頭痛。そんなに悪い病気が原因だったのか?」
「どうして……」
「そりゃあんだけ酷い頭痛を持ってて、病院で診てもらおうかと散々話してたくせに、ある日を境にまるっきり話題に出さなくなった。それと同時にお前の俺に対する態度が変わったんだ。何か悪い病気だったんじゃないかって考えることもできるだろ?」
そう。その通りなのだ。
高校に入学した頃から頭痛持ちだった私。
最初は慣れない高校生活からくる疲れで頭が痛くなってるんだと思ってた。
だけど、学校生活に慣れても、どんなに休日に身体を休めても、頭痛は酷くなるばかりで……。
市販の痛み止めも効かなくて、さすがに耐えられなくなった私は、悩んだ末、病院で診てもらうことにしたのだ。
すると、検査を受けるようにすすめられて、その検査の結果が出たのが、つい先週のことだ。
確かに彼に病院に行こうか迷ってると話したことはあったけれど、そこまで彼が私の言葉から憶測で考えてくれていたなんて思いもしなかった。
「お前のことだから、病気だとわかって俺に遠慮してるんじゃないのか? だって俺たち、そもそも遠距離だからダメになるっていうような仲じゃないじゃん」
彼はまるで言い聞かせるように優しい口調で言って、私の目を見つめてくる。
気まずくて、だけど彼から視線をそらすこともできない。
「もしそうなら、別れるなんて言うなよ。俺は何があってもお前を支えていきたいんだ」
「勝手なこと言わないで!」
彼の気持ちは嬉しいけれど、このままじゃ、せっかく彼から離れる決心をしたのにそれが無駄になってしまう。
「あなたは何も知らないから、そんなこと言えるんだよ……」
本当のことは話さないつもりだった。だけど、私に病気が見つかったことまで彼に勘づかれていたなら仕方ない。
「……脳腫瘍なの。私の頭痛はそのせいだったみたい」
彼が息を呑むのがわかった。目を見開いて固まっている。
それも無理ない。私も同じ立場なら、どう反応していいかわからない。
だけど、彼がそんな様子を見せたのも一瞬。
すぐに戸惑いの表情を引っ込めた彼は、まっすぐな口調でわたしに告げる。
「……だからって、俺から離れて一人で抱えこもうとするなよ。本当は病気がわかって、すごく心細くて辛くて不安なんだろ?」
「やめて!」
やめて、やめて、やめて!
これ以上、私の決意を揺らがすようなことを言わないでほしかった。
ただ病気なだけなら、まだよかった。
これ以上一緒にいたら、確実に近い未来、今以上に彼のことを傷つけてしまう。
「あなたのこと、これ以上傷つけたくないの」
どのみち傷つけてしまうのなら、一番彼が傷つかない方法で別れたい。
だから、本当の理由は黙って彼から離れるつもりだったのに……。
「……まさか本気でそう思ってる? それなら、お前は勘違いしてる」
だけど彼はそんな私の頬を両手で挟むように彼の手を添えると、まっすぐに私を見つめる。
「俺は、俺に嘘をついてまで何もかもを隠して、お前に消えられる方がよっぽど辛いよ。辛いなら俺に頼れよ。俺はどんな状態のお前も受け入れる自信があるから」
「そんなこと、言われても……」
「何だよ、まだ何かあるのか?」
目をそらそうとしても、あまりに真剣な彼の瞳に、それを許してもらえない。
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