【短編集】いろいろな恋、集めました

美和優希

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「へっぽこ神様、召喚しちゃいました」

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 *


 次の日。

 私は浮き立つ気持ちで登校していた。

 なぜなら昨日のおまじないのおかげで、私の恋は成就しているはずだから。

 私の願いを叶えてやると神様が言っていたのだから間違いない。


 彼は私に会ったら、どんな反応をするのだろう?

 会ったらやっぱり声かけた方がいいよね?

 おはよう? これからよろしくね?

 想像するだけで頬が緩む。


「何だ、さっきからニヤニヤニヤニヤ気持ち悪い」


 だけど、そんなウキウキした気持ちに泥を塗る存在が一人……。


「もう、何よ。悪かったわね、気持ち悪くて。っていうか、何であんたまでついてきてるのよ」


 何だかんだで私が召喚してしまった神様は、あれから四六時中私のそばをついて回っている。

 神様のことは、私以外の人には見えていないみたいだから、外でこうやって話すときは極力気をつけて話さなければならない。

 下手すれば、不審者と見られてもおかしくないのだから。


「へぇ。お前の願いを叶えてやろうとしている神様にその口の聞き方?」

「……すみませんでしたー。何でもないですー」


 こういう態度はちょっと癪にさわるけど、彼との恋を成就させてもらったんだから、ここは我慢我慢……。


 そうしているうちに、学校の正門をくぐった私の目の前に、大好きな彼の後ろ姿が見える。


 い、いた……!

 ドキドキと心臓が早鐘をうつ。


 期待と不安が入り交じる中、おまじないですでにこの恋は成就してるという強みもあって、彼の背中に駆け寄ると、私は思いきって言葉をかけた。


「お、おは、おはよう……!」


 私の声に反応して、彼はこちらをふり返る。

 ふり返る姿までもがカッコいいんだから、本当に罪だ。


 ドキドキしながら彼の反応をうかがうけれど……。



「え? ああ。おはよう」


 彼は私を見て、少し驚いた様子でそう返してくるだけだった。


 あれ……?


 そのまま私に背を向けて、彼はスタスタと歩いていってしまう。


 どういうこと……?


 置き去りにされた私は、相も変わらず私のそばで浮遊している神様をにらみつけると、すぐさま人目のない校舎裏へとダッシュした。



 案の定、私がダッシュしようと、神様は隣を浮遊しながらついてくる。


「どういうこと!? 彼と両思いにしてくれたんじゃなかったの!?」

「はぁ? どうもこうもお前の願いを叶えてやるとは言ったけど、まだ叶えたとは一言も言ってねぇだろ?」


 攻め口調でそういう私を、神様は至ってクールに一蹴する。


「何よそれ。話が違うじゃない」

「勘違いしてるお前が悪い。だいたい祈っただけで願いを叶えようだなんて、考えが甘いんだよ」


 ムッキー!

 確かに祈っただけで願いを叶えようとした私は甘かったと思う。

 それは認めるけどさ、その結果目の前に神様が現れたんだよ?

 願いを叶えてやるとまで言われたんだから、おまじないは成功して、願いが叶って私の恋が成就したんじゃないかって思うでしょ。


 とりあえずさっきので、私は彼と両思いになれてるどころか、全くもって私の恋は以前と何も変わっていないことがわかったのだった。


 *


「……お前さ、本当にあいつと恋愛成就させる気あるの?」


 結局、おまじないをしたものの、私の恋は以前と何ら変化しなかった。

 唯一変化したことといえば、私の願いひとつ全く叶えてくれない神様を召喚してしまったことで、私のまわりにずっとこのへっぽこ神様がついて回るようになったくらいだ。


「あるよ。彼に対する想いは誰にも負けないんだから」


 数日後の昼休み、私の隣を浮遊するだけの神様の気だるげな声に、私は内心イラっとしながら小声でこたえる。

 恋愛成就させる気があるから、おまじないをしたというのに。

 そんな風に言うくらいなら、何かしてくれればいいのに、神様なんだから。


 私の視線の先には、片思い中の彼の姿。

 廊下で隣のクラスの男子と話す彼は、当然のことながら私の存在には気づいていない。


 話が終わったのか、彼は今まで話していた隣のクラスの男子に手をふって、教室に入ってくる。


 ドアから比較的近い、廊下側から三番目の一番後ろの席の私は、彼が近くを通るだけで背筋が伸びる。


「ほら、見てばっかりじゃ何も始まんねぇんだから行けよ」


 だけどそのとき、ドンと押されるような感覚と同時に私の身体は、思わぬ方向に飛び出した。


「え……っ?」


 気づいたときには、私は近くを通っていた彼の目の前にいて、彼の不思議そうな二つの瞳に、捉えられていた。


「……びっくりした。どうしたの?」


「え、っと。その、あの……っ」


 突然のことに、何ひとつ上手い言葉が出てこない。


「な、何でもないです……っ!」


 私は悲鳴のような声でそう告げると、その場を駆け出した。


 そのとき、思わず彼の腕に自分の肩が当たってしまって、さらに絶望の縁に立たされる。



「ご、ごめんなさいっ」


 最悪だ……!

 絶対に嫌われた……っ!


「おいっ、どこ行くんだよ」


 最後にそんな神様の声が聞こえたような気がするけれど、私はひたすら足を回転させて、今度こそその場から逃げ出した。
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