15 / 95
第2章
再会
しおりを挟む
心地好い秋の気候は、次第に肌寒ささえも感じるようになっていた。
意外にもマメに桃華の部屋に足を運んでくれる拓人のおかげか、最近の桃華は体調もかなり安定してきていた。
今日も体調が良かった桃華は、毛糸のカーディガンを羽織り、病院の中庭で本を読んでいた。
「……あれ? もしかして桃華ちゃんじゃない?」
頭上から聞こえた声に、桃華は顔を上げる。
そこには桃華と同じくらいの歳の男の子が立っていた。
「僕のこと、分かる? 昔よく病院に入院してたとき一緒にお話したよね?」
「……ジュンくん?」
男の子はにっこりと微笑んで首を縦に振った。
「嬉しいなぁ~桃華ちゃんとまた会えるなんて! 久しぶりだね」
ジュンは桃華が小さい頃、桃華と同じ病気でこの病院に入院していた。
以前は入院の時期が重なることも多く、桃華とジュンはよく顔を合わせていたが、最近は桃華が入院してもジュンと会うことは全くなかった。
ジュンの方が病状が桃華より軽いので、調子良くやっているんだろうなと桃華は感じていた。
「本当、久しぶり。最近全く見かけなかったけど、元気にやってたの?」
「うん! 体調も安定してたから、ここ数年は家の近くの病院にかかってたんだ! でもちょっと無理しすぎちゃって……この有様だよ。桃華ちゃんは?」
「私は相変わらず入院してる時の方が多いかな。でも最近調子良いし、そろそろ退院出来るといいなって感じ」
「そっかぁ、桃華ちゃんも頑張ってるんだね」
ジュンは空を見上げた。
「私のこと、覚えててくれたんだね!」
「当たり前じゃん!」
ジュンはニコッと微笑んだ。
桃華が小さい頃、病室が近くになることの多かったジュンとは、お互いの病室を行き来して一緒に時間を過ごすことも多かった。
ジュンにはいつも優しくしてもらった記憶がある。
「そういえば、昔ジュンくんとよく病室抜け出して怒られたっけ……?」
「そうそう! 検査が恐くて2人で逃げ出したんだったよね!」
「あの後相当怒られたの今でも覚えてるよ。恐かったぁ」
「僕もだよ! なんか懐かしいなぁ。そうだ! あの時のことも覚えてる?」
「何々?」
しばらく2人は昔の思い出話に花を咲かせた。
あのお医者さん恐かったとか、あの看護師さん苦手だったとか、あの検査嫌いだったとか。
桃華もジュンも幼い頃に戻ったかのように仲良く楽しい時間を過ごした。
時間が過ぎるのを感じることもなく──。
「あれ……桃華ちゃん?」
しばらくして、また別の男性の声が響いた。
桃華が声が聞こえた方向を見ると、今となっては見慣れた人影があった。
「拓人さん!? あ、この前はすみません……その、可愛いお土産ありがとう」
「えっ!? ……桃華ちゃんの知り合い?」
ジュンが驚きの声を上げると、桃華はジュンににっこりと頷いた。
その様子を見て、拓人はためらいがちに口を開く。
「看護師さんにここに居るって聞いたから来てみたんだけど、なんだか邪魔しちゃたみたいだね……。その子、友達?」
「うん、この人はジュンくん。ジュンくんは私と同じ病気でね、昔病院に入院してた時に仲良くしてもらってたの。さっき偶然再会したんだ」
「そっか、良かったね」
拓人は素っ気なく返事を返すと、桃華の隣にいたジュンに軽く頭を下げた。
ジュンはスッと立って拓人の方へやって来てジ~っと拓人の顔を見つめた。
「何かな……? ジュンくん……?」
ジュンがあまりに拓人の顔を見つめるので、拓人は思わず口を開く。
「……もしかして、NEVERのTAKUさんですか?」
「え……」
拓人は仕事の時以外で外に出る時は、TAKUだと気づかれないように帽子を深く被り、淡い色のレンズのサングラスをかけている。
それを一瞬で見抜かれたので戸惑った。
拓人は仕方なく頷き、口の前で人差し指を立てて言った。
「良く分かったね。でも、俺がTAKUだってことは内緒にしてね!」
「本当に!? うん! 絶対内緒にします! 僕もファンだったんです! 桃華ちゃん、知り合いだったんだ! すごいね!!」
「えへへ」
桃華は嬉しそうに笑った。
楽しそうに話を弾ませる桃華とジュンを見て、拓人は自然と胸に沸き上がる切ない気持ちに耐え切れず、軽く挨拶をして2人に背を向けた。
それからも拓人は、時間を見つけては病院に立ち寄ったが、桃華はジュンと話していたり、ジュンが居なくても桃華が寝ていたり、診察中だったりで結局会えず仕舞いなことが続いた。
診察やらで会えなかったのは仕方ないにしても、桃華とジュンが2人で笑っている姿を見ると胸が締め付けられるような気持ちになった。
そんな時は、誰にも気づかれないようにそっと病院に背を向けるのだった。
(──今日もダメ、か……)
そして、拓人は今まで感じたことのない気持ちに包まれる。
腹立たしい気持ちと寂しいと思う気持ちとやり場のない不安。
(なんだよ、あのジュンって男……)
拓人は道端に転がっていた空き缶を思いっ切り蹴り飛ばす。
(でも、最近の俺がどうかしてるんだろうな……。桃華ちゃんの寂しさを紛らわしてくれる奴が現れたんだから、桃華ちゃんにとっては良いことのはずなのに……)
「訳わかんねぇ……」
拓人は小さく呟くと、蹴り飛ばした空き缶を拾い、近くにあったごみ箱に捨てた。
意外にもマメに桃華の部屋に足を運んでくれる拓人のおかげか、最近の桃華は体調もかなり安定してきていた。
今日も体調が良かった桃華は、毛糸のカーディガンを羽織り、病院の中庭で本を読んでいた。
「……あれ? もしかして桃華ちゃんじゃない?」
頭上から聞こえた声に、桃華は顔を上げる。
そこには桃華と同じくらいの歳の男の子が立っていた。
「僕のこと、分かる? 昔よく病院に入院してたとき一緒にお話したよね?」
「……ジュンくん?」
男の子はにっこりと微笑んで首を縦に振った。
「嬉しいなぁ~桃華ちゃんとまた会えるなんて! 久しぶりだね」
ジュンは桃華が小さい頃、桃華と同じ病気でこの病院に入院していた。
以前は入院の時期が重なることも多く、桃華とジュンはよく顔を合わせていたが、最近は桃華が入院してもジュンと会うことは全くなかった。
ジュンの方が病状が桃華より軽いので、調子良くやっているんだろうなと桃華は感じていた。
「本当、久しぶり。最近全く見かけなかったけど、元気にやってたの?」
「うん! 体調も安定してたから、ここ数年は家の近くの病院にかかってたんだ! でもちょっと無理しすぎちゃって……この有様だよ。桃華ちゃんは?」
「私は相変わらず入院してる時の方が多いかな。でも最近調子良いし、そろそろ退院出来るといいなって感じ」
「そっかぁ、桃華ちゃんも頑張ってるんだね」
ジュンは空を見上げた。
「私のこと、覚えててくれたんだね!」
「当たり前じゃん!」
ジュンはニコッと微笑んだ。
桃華が小さい頃、病室が近くになることの多かったジュンとは、お互いの病室を行き来して一緒に時間を過ごすことも多かった。
ジュンにはいつも優しくしてもらった記憶がある。
「そういえば、昔ジュンくんとよく病室抜け出して怒られたっけ……?」
「そうそう! 検査が恐くて2人で逃げ出したんだったよね!」
「あの後相当怒られたの今でも覚えてるよ。恐かったぁ」
「僕もだよ! なんか懐かしいなぁ。そうだ! あの時のことも覚えてる?」
「何々?」
しばらく2人は昔の思い出話に花を咲かせた。
あのお医者さん恐かったとか、あの看護師さん苦手だったとか、あの検査嫌いだったとか。
桃華もジュンも幼い頃に戻ったかのように仲良く楽しい時間を過ごした。
時間が過ぎるのを感じることもなく──。
「あれ……桃華ちゃん?」
しばらくして、また別の男性の声が響いた。
桃華が声が聞こえた方向を見ると、今となっては見慣れた人影があった。
「拓人さん!? あ、この前はすみません……その、可愛いお土産ありがとう」
「えっ!? ……桃華ちゃんの知り合い?」
ジュンが驚きの声を上げると、桃華はジュンににっこりと頷いた。
その様子を見て、拓人はためらいがちに口を開く。
「看護師さんにここに居るって聞いたから来てみたんだけど、なんだか邪魔しちゃたみたいだね……。その子、友達?」
「うん、この人はジュンくん。ジュンくんは私と同じ病気でね、昔病院に入院してた時に仲良くしてもらってたの。さっき偶然再会したんだ」
「そっか、良かったね」
拓人は素っ気なく返事を返すと、桃華の隣にいたジュンに軽く頭を下げた。
ジュンはスッと立って拓人の方へやって来てジ~っと拓人の顔を見つめた。
「何かな……? ジュンくん……?」
ジュンがあまりに拓人の顔を見つめるので、拓人は思わず口を開く。
「……もしかして、NEVERのTAKUさんですか?」
「え……」
拓人は仕事の時以外で外に出る時は、TAKUだと気づかれないように帽子を深く被り、淡い色のレンズのサングラスをかけている。
それを一瞬で見抜かれたので戸惑った。
拓人は仕方なく頷き、口の前で人差し指を立てて言った。
「良く分かったね。でも、俺がTAKUだってことは内緒にしてね!」
「本当に!? うん! 絶対内緒にします! 僕もファンだったんです! 桃華ちゃん、知り合いだったんだ! すごいね!!」
「えへへ」
桃華は嬉しそうに笑った。
楽しそうに話を弾ませる桃華とジュンを見て、拓人は自然と胸に沸き上がる切ない気持ちに耐え切れず、軽く挨拶をして2人に背を向けた。
それからも拓人は、時間を見つけては病院に立ち寄ったが、桃華はジュンと話していたり、ジュンが居なくても桃華が寝ていたり、診察中だったりで結局会えず仕舞いなことが続いた。
診察やらで会えなかったのは仕方ないにしても、桃華とジュンが2人で笑っている姿を見ると胸が締め付けられるような気持ちになった。
そんな時は、誰にも気づかれないようにそっと病院に背を向けるのだった。
(──今日もダメ、か……)
そして、拓人は今まで感じたことのない気持ちに包まれる。
腹立たしい気持ちと寂しいと思う気持ちとやり場のない不安。
(なんだよ、あのジュンって男……)
拓人は道端に転がっていた空き缶を思いっ切り蹴り飛ばす。
(でも、最近の俺がどうかしてるんだろうな……。桃華ちゃんの寂しさを紛らわしてくれる奴が現れたんだから、桃華ちゃんにとっては良いことのはずなのに……)
「訳わかんねぇ……」
拓人は小さく呟くと、蹴り飛ばした空き缶を拾い、近くにあったごみ箱に捨てた。
0
あなたにおすすめの小説
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する
ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。
夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。
社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。
ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。
「私たち、離婚しましょう」
アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。
どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。
彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。
アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。
こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
白椿の咲く日~ひそかな恋、遠い日の思いは
紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに異母姉の稚子(わかこ)と会う。
真由子の母の雪江は、大学教授であり著名な歌人の水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。
婚約者の諒人(りょうと)のことなど、真由子は稚子と色々語り合ううち、庭の白椿の木は真由子がなついていた異母兄、靖之が植えたものだと知る。
白椿の木をめぐっての、ひそかな大人の恋物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる