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4話 天女の行方
三 対決への序章(二)
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「おや。どなたかと思いましたよ」
客間で先に座っていた牧が、細い目を細めて新一郎を見た。
「お家再興でもなさったのですかな」
「いえ、そのようなことはありません。すぐに元に戻りますよ」
「そのままの方が良いのでは? もったいない」
新一郎が席につき、落ち着いたところで、牧は、さて、と穏やかな笑みを引っ込めて、腕を組んだ。
「役宅ではなく、こちらであなたに会うのは、・・・もうお察しですかな?」
「はい。旦那は、こちらにお味方くださる、ということでしょうか」
「お奉行の息のかかった者の目を逃れるには、これしかない。と申して、公言しているわけではありませんぞ。あちらに都合の良いように動くかもしれません。同心として、己が正しいと思うところに従うつもりです。・・・いかがかな?」
どっちつかずのように思えるが、牧には牧なりに筋を通しているのだろう。
「それがしに、何も言うことはございません。旦那の思うようになさってください」
「では、お聞きしますが、浪人を斬ったのは、あなたですな?」
牧の目が射抜くように鋭くなる。
「荘次郎と洋三郎を襲った者の一味です」
「さよう。その浪人は、的場市蔵という名で、居合の使い手です」
「・・・」
「まあ、的場を斬ったことでお縄にはならんでしょう。敵討ちのようなものですからな。それを盾に、あなたに縄はかけられない。他には、以前お縄にかかったことのあるならず者どもが数名、挙がっていて、突きとめるのにそうときはかからないと思います」
「旦那。かたじけない」
と新一郎は手をついた。
牧は、なあに、と手をあげてまんざらでもなさそうに笑った。
「己の仕事をしたまでです」
ですが、と表情を曇らせる。
「突きとめて、解決するものではありません。揉み消されるでしょうな」
「そうですね」
「肝心の相州伝の行方が・・・」
「お奉行ではないのですか? 相州伝を持っていれば・・・」
「探りようがありませんな」
即座に牧が言った。
「でしょうね」
そんな権限は同心にはない。
「向こうがどう出るか、待つしかないのでしょうか」
「狙いが花ふぶきなら、仕掛けてくるでしょう」
「浪人が、あの方がそれがしを消したがっていると言いました」
「ほう、それはそれは・・・」
気の毒そうに眉を顰める。
「危険ですな」
「ですが、もう花ふぶきは、立花家にはありません」
「なんですと?」
「もう立花に用はないはずです」
「・・・」
牧は、顎に手を当てて考えている。
「まだ、そのことを知らないのでしょうが」
「いずれは、知れるでしょう。・・・花ふぶきはどちらにやられたのです?」
「それは・・・」
言ってもいいものかどうか、迷った。
「大目付の鳥居さまです」
迷ったのは一瞬で、隠すこともないと、告げた。
「おお・・・」
細い目を見張って驚いている。
「なるほど」
口元が歪んだ。
「だとすると、焦りますな。焦って何かしけてくるでしょう」
「なぜそう思うのです?」
「刀剣好きの間では、有名な話ですよ。鳥居さまと土岐さまの仲の悪さは」
「そうなのですね」
「以前に、お話ししたことがありましたな。刀好きにはふた通りあると。刀そのものが好きで、見るのを楽しみにしている者と、刀を献上することによって、立身したい者。その両方の者もおりますが、鳥居さまは前者、土岐さまは後者、ということになりますな」
「・・・」
「新一郎どの」
牧が体を前に倒すようにして顔を近づけた。
「これは、とんでもないことになるやもしれませんぞ」
客間で先に座っていた牧が、細い目を細めて新一郎を見た。
「お家再興でもなさったのですかな」
「いえ、そのようなことはありません。すぐに元に戻りますよ」
「そのままの方が良いのでは? もったいない」
新一郎が席につき、落ち着いたところで、牧は、さて、と穏やかな笑みを引っ込めて、腕を組んだ。
「役宅ではなく、こちらであなたに会うのは、・・・もうお察しですかな?」
「はい。旦那は、こちらにお味方くださる、ということでしょうか」
「お奉行の息のかかった者の目を逃れるには、これしかない。と申して、公言しているわけではありませんぞ。あちらに都合の良いように動くかもしれません。同心として、己が正しいと思うところに従うつもりです。・・・いかがかな?」
どっちつかずのように思えるが、牧には牧なりに筋を通しているのだろう。
「それがしに、何も言うことはございません。旦那の思うようになさってください」
「では、お聞きしますが、浪人を斬ったのは、あなたですな?」
牧の目が射抜くように鋭くなる。
「荘次郎と洋三郎を襲った者の一味です」
「さよう。その浪人は、的場市蔵という名で、居合の使い手です」
「・・・」
「まあ、的場を斬ったことでお縄にはならんでしょう。敵討ちのようなものですからな。それを盾に、あなたに縄はかけられない。他には、以前お縄にかかったことのあるならず者どもが数名、挙がっていて、突きとめるのにそうときはかからないと思います」
「旦那。かたじけない」
と新一郎は手をついた。
牧は、なあに、と手をあげてまんざらでもなさそうに笑った。
「己の仕事をしたまでです」
ですが、と表情を曇らせる。
「突きとめて、解決するものではありません。揉み消されるでしょうな」
「そうですね」
「肝心の相州伝の行方が・・・」
「お奉行ではないのですか? 相州伝を持っていれば・・・」
「探りようがありませんな」
即座に牧が言った。
「でしょうね」
そんな権限は同心にはない。
「向こうがどう出るか、待つしかないのでしょうか」
「狙いが花ふぶきなら、仕掛けてくるでしょう」
「浪人が、あの方がそれがしを消したがっていると言いました」
「ほう、それはそれは・・・」
気の毒そうに眉を顰める。
「危険ですな」
「ですが、もう花ふぶきは、立花家にはありません」
「なんですと?」
「もう立花に用はないはずです」
「・・・」
牧は、顎に手を当てて考えている。
「まだ、そのことを知らないのでしょうが」
「いずれは、知れるでしょう。・・・花ふぶきはどちらにやられたのです?」
「それは・・・」
言ってもいいものかどうか、迷った。
「大目付の鳥居さまです」
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「おお・・・」
細い目を見張って驚いている。
「なるほど」
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「だとすると、焦りますな。焦って何かしけてくるでしょう」
「なぜそう思うのです?」
「刀剣好きの間では、有名な話ですよ。鳥居さまと土岐さまの仲の悪さは」
「そうなのですね」
「以前に、お話ししたことがありましたな。刀好きにはふた通りあると。刀そのものが好きで、見るのを楽しみにしている者と、刀を献上することによって、立身したい者。その両方の者もおりますが、鳥居さまは前者、土岐さまは後者、ということになりますな」
「・・・」
「新一郎どの」
牧が体を前に倒すようにして顔を近づけた。
「これは、とんでもないことになるやもしれませんぞ」
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