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一話 この子誰の子
七
つけられている気配がした。
同心をつけるなんざ、いい度胸だと思ったが、油断はできない。
姉の赤子に関係していれば、危険だ。
だが、感じるのは殺気ではない。
町人かもしれなかった。
では、おきみに関わりがあるのか。
いずれにしても、八丁堀にこのまま入れるわけにはいかなかった。
こっちも町人のなりだから、あくまでも町人で押し通すことにした。
立ち止まって、振り返る。
町人地から、武家地に入ったところである。
もうすぐに八丁堀だ。
「誰でい、おれをつけやがるのは」
大声ではないが、低く脅すように言い、周囲に目を配る。
道を行く人が、何事かと見てくるが、つけてくるやつも見ているはずだった。
見たことのない若い男が、向かってきた。
職人か、と文四郎が見ていると、胸ぐらを掴まれた。
「あんたは何もんだ。おきみをどこへやった! 言え!」
「おめえさんこそ誰だよ。おきみの男か」
「そっちこそ、拐かしたんじゃねえのか」
ものすごい力で首を絞めてきた。
絞めてくる手を掴み、腹に膝蹴りをくらわす。
緩んだ手を捻って後ろ手にし、足をはらって倒した。
男の背中に腕を押し付けて動けなくする。
「勘違いするな。おれはおきみの身内だ」
「嘘つけ! おきみにあんたのような身内はいない」
荒い息を吐いてもがきながら男が言った。
おきみのことをよく知っているようだ。
「なぜおれをつける」
「佐々木と揉み合っているところを見た。おきみのことを話していたんだろ? あいつは許せねえが、あんたも何か知っているはずだ。だからつけた。おきみはどこにいるんだ。教えてくれ」
「何も聞いていないのか」
おきみが駒井家で奉公するようになって、一月たつかたたないかといったところだが、詳しい事情を誰かに話すわけにもいかないだろうから、知らないのも仕方がない。
が、ほったらかしというのも気の毒な気がした。
何も言わずに姿が消えれば、探すだろうし、拐かしにあったと心配するだろう。
「佐々木には当たったのか」
「そんな女は知らんと突っぱねられた」
「そうか。おきみが赤子を産んだことは」
「知ってる。あの野郎が連れて行ったのも知ってる。佐々木家で育てられると言ってた」
「佐々木家で?」
そう言って、佐々木は赤子を連れ去ったのだろうか。
じゃあ、なんで、おきみは赤子を連れ戻そうとしているのだろう。
「もしかして、赤子はおめえさんの子だな?」
「・・・」
急に泣き出した。
「わからねえ」
文四郎は、男を立たせると、名前を聞いた。
男の名は竹蔵といい、桶職人だという。
「おきみの居場所を突きとめて、どうするつもりだ?」
涙を袖で拭った竹蔵に尋ねた。
その先は考えていなかったらしく、目が泳いだ。
「無事なら、それでいいんだ」
さっきのあの気迫はどこへ行ったのかと思うほど大人しくなった。
本来は、気の優しい男なのだろう。
「じゃあ、行くか」
「え?」
竹蔵が不安そうな顔になる。
「会わせてやる。ただし、おきみがうんと言えばだが」
なぜおきみが赤子の父親かもしれない男にも何も言わずに来たのか気になった。
その気になれば、居場所を教えないまでも、仕事だとか理由をつけて留守にすることを告げられるはずだと思った。
「ついてこい。ただし、このことは誰にも漏らすんじゃねえぞ」
同心をつけるなんざ、いい度胸だと思ったが、油断はできない。
姉の赤子に関係していれば、危険だ。
だが、感じるのは殺気ではない。
町人かもしれなかった。
では、おきみに関わりがあるのか。
いずれにしても、八丁堀にこのまま入れるわけにはいかなかった。
こっちも町人のなりだから、あくまでも町人で押し通すことにした。
立ち止まって、振り返る。
町人地から、武家地に入ったところである。
もうすぐに八丁堀だ。
「誰でい、おれをつけやがるのは」
大声ではないが、低く脅すように言い、周囲に目を配る。
道を行く人が、何事かと見てくるが、つけてくるやつも見ているはずだった。
見たことのない若い男が、向かってきた。
職人か、と文四郎が見ていると、胸ぐらを掴まれた。
「あんたは何もんだ。おきみをどこへやった! 言え!」
「おめえさんこそ誰だよ。おきみの男か」
「そっちこそ、拐かしたんじゃねえのか」
ものすごい力で首を絞めてきた。
絞めてくる手を掴み、腹に膝蹴りをくらわす。
緩んだ手を捻って後ろ手にし、足をはらって倒した。
男の背中に腕を押し付けて動けなくする。
「勘違いするな。おれはおきみの身内だ」
「嘘つけ! おきみにあんたのような身内はいない」
荒い息を吐いてもがきながら男が言った。
おきみのことをよく知っているようだ。
「なぜおれをつける」
「佐々木と揉み合っているところを見た。おきみのことを話していたんだろ? あいつは許せねえが、あんたも何か知っているはずだ。だからつけた。おきみはどこにいるんだ。教えてくれ」
「何も聞いていないのか」
おきみが駒井家で奉公するようになって、一月たつかたたないかといったところだが、詳しい事情を誰かに話すわけにもいかないだろうから、知らないのも仕方がない。
が、ほったらかしというのも気の毒な気がした。
何も言わずに姿が消えれば、探すだろうし、拐かしにあったと心配するだろう。
「佐々木には当たったのか」
「そんな女は知らんと突っぱねられた」
「そうか。おきみが赤子を産んだことは」
「知ってる。あの野郎が連れて行ったのも知ってる。佐々木家で育てられると言ってた」
「佐々木家で?」
そう言って、佐々木は赤子を連れ去ったのだろうか。
じゃあ、なんで、おきみは赤子を連れ戻そうとしているのだろう。
「もしかして、赤子はおめえさんの子だな?」
「・・・」
急に泣き出した。
「わからねえ」
文四郎は、男を立たせると、名前を聞いた。
男の名は竹蔵といい、桶職人だという。
「おきみの居場所を突きとめて、どうするつもりだ?」
涙を袖で拭った竹蔵に尋ねた。
その先は考えていなかったらしく、目が泳いだ。
「無事なら、それでいいんだ」
さっきのあの気迫はどこへ行ったのかと思うほど大人しくなった。
本来は、気の優しい男なのだろう。
「じゃあ、行くか」
「え?」
竹蔵が不安そうな顔になる。
「会わせてやる。ただし、おきみがうんと言えばだが」
なぜおきみが赤子の父親かもしれない男にも何も言わずに来たのか気になった。
その気になれば、居場所を教えないまでも、仕事だとか理由をつけて留守にすることを告げられるはずだと思った。
「ついてこい。ただし、このことは誰にも漏らすんじゃねえぞ」
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