子連れ同心捕物控

かじや みの

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一話 この子誰の子

 大和屋は日本橋にあったが、大通りではなく、奥まった場所にあった。
 通りには、まばらに人が歩いている。

 文四郎がお店の前を通り過ぎると、頭上からコツコツと微かに音がし、見上げると、仙次が仕舞屋の二階で手を振っていた。

「いいとこあったな」
「ちょうど空き家になってまして、助かりやした」
 二階から店の出入りが見える。
「主人はまだ若いが、評判はまずまずのようです。今、手の者に探らせているところで。明日になれば、もう少しわかるでしょう」
「おう」
「旦那がここにいてくださるなら、あっしももう少し探ってきます」
「頼んだ。しばらくここで見ているから、行ってくれ」


 三日ここで張り込んだ。
 主人は惣兵衛といい、婿に入って店を継いだという。
 武家への口入仕事を多く扱っていて、武家との付き合いも多いという。
 佐々木とは遊び仲間のようだった。
 よく遊ぶという料理屋にも行って、裏をとっている。
 店にも武家が出入りする姿がちらほらあった。
 女も男も、若者だけではなく中年も、仕事を求めてくる者はさまざまだ。
 が、赤子の姿はまったく見なかった。
 口入に赤子は関係ないから、当然ではあるが、見張りは夜通しだ。
 赤子の売り買いなど、そう頻繁にあるものでもないだろうから、長期戦を覚悟しなければならない。
 それとも、店の外で行われているか。
 文四郎は、大和屋を見張りながら思案していた。
「使うしかないか」

 仙次が戻ってきたとき、策を打ち明けると、
「旦那、そいつはいくらなんでも・・・」
 驚いて首を振っている。
「いけません、旦那、そいつだけは」
「いや、他に手はない」
「短気はいけません。じっくりやれば必ず尻尾は掴めますよ」
「それはそうだが。一月何もなかったらどうする。そんなに待てん」
「旦那って、のんびりしてんだか、せっかちなのか・・・あっしは知りませんよ」
 泣き笑いの表情になった。
「大丈夫だ。責任はおれがとる」
 手筈てはずを整えるために、仙次が出ていく。
 文四郎はそのまま夜になるのを待った。



「夜分に申し訳ありません」
 文四郎は、雪江に頭を下げていた。

「私からは、何も申しませぬ。凛さまには、あなたから説明しなさい」
 怒ったような顔で、赤子を文四郎に渡した。
「よその子を使うわけにはいきませんので」
 すやすやと気持ちよさそうに寝ている姉の子を腕に抱いた。
 おくるみにきっちり包まれている。
「な、大。お前は同心の子だ。乳兄弟を助けると思って、人肌脱ぐんだぞ」
 おきみの子とは、乳兄弟になる。
「まあ、文四郎さんったら・・・」
 さすがの雪江も不安そうにしていた。
 それでも何も言わないのは、やはり与力の妻だからだろう。
「くれぐれもお気をつけて」


 八丁堀と日本橋はそれほど遠くない。

 大和屋の前に、赤子を抱いた文四郎が立った。
 もう店は閉まっていたが、戸を軽く叩いた。

 さて、どう出るか。

 店の出入り口には、すべて見張りが付いている。


 潜戸が開いて、男が顔を出した。
「どちら様で?」
 手燭を掲げて文四郎の顔をじっと見た。
 四十半ばくらいか。
 昼間見かけない顔だった。
 そして、腕の中の赤子に目をやる。
 その顔に、訝しむ色はない。が、愛想笑いもない。
「主人に会いたいのだが」
「何用ですかな?」
「佐々木さまに聞いてきた」
「・・・」
 男の目から、探るような色が和らいだ。
「どうぞ、中へ」
 黒だな、と文四郎は気を引き締めた。
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