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一話 この子誰の子
十四
駒井から呼び出しがあったのは、その夜のことだった。
調べがついたのだろうか。
気が急いて、急いで向かった。
駒井の屋敷には、客が来ていた。
「目付の近藤陽之介どのだ」
駒井が紹介した。
「朝倉文四郎と申します」
文四郎は頭を下げた。
近藤は、駒井と同じくらいの歳に見えた。
色が白く、鷲のように尖った鼻が、異様に目立っていた。
かといって彫りが深いわけでもなく、細い目におちょぼ口ゆえにかえって目立つのだ。
「近藤どのは、ありがたいことに、此度の件で我らに協力してくださる」
「ありがとうございます」
文四郎がもう一度平伏する。
駒井が近藤に目配せした。
これが、と近藤が懐から書き付けを取り出し、広げて見せた。
「同じ頃に、届があった家にござる」
文四郎が受け取ろうとすると、近藤がそれを咎めるように手を出した。
「おっと。それは渡すわけにはいかぬ」
「・・・」
駒井を見ると、難しい顔で頷いていた。
「ここからは、我々に一任いただきたい。目付の仕事でござる」
そう言って、書き付けを懐にしまった。
町方が手を出すなということだ。
「この中に、大和屋が出入りしている家があれば、その子が探している子供です」
文四郎は言ったが、近藤は、そんなことはわかっていると言うように、文四郎を見た。
やはり、町方は嫌われているんだろう。
目付は旗本だから、見下されて当然かもしれなかったが、気分が悪かった。
「その子だけでよろしいか?」
「いえ、できれば、奉行所に訴えが出ている子も、調べていただければ」
「斯波家も・・・」
駒井が言い添えた。
「斯波家?」
近藤が怪訝な顔をして駒井を見た。
「この朝倉が、囮にした子供が持ち込まれた家にて」
「なるほど・・・」
と、文四郎を見た目が冷たかった。
「わかり申した」
そう言って、立ちあがろうとした。
「あの・・・」
文四郎が言いかけたが、止まらずに、そのまま立ち上がる。
「何か?」
見下ろされて、詰まりかけたが、頭を下げながら口にした。
「なにとぞ穏便な処置を、お願い申し上げます」
「穏便だと?」
そう返した声音の冷たさに、はっとして見上げた視線がぶつかった。
近藤が初めて口元を歪めて笑った。
「何か勘違いをしておるのか。目付に穏便などありえん。我らの手に委ねるとは、そういうことにござる」
「・・・」
「子供は必ず届けるゆえ、しばし待たれよ」
去っていく近藤を、駒井が送りに出ていった。
文四郎は、拳を畳に叩きつけた。
「あらあら、文四郎さんが珍しいこと」
雪江が代わりに入ってきて、苦笑した。
「雪江さま・・・申し訳ございませぬ」
「お目付衆は昔からそんなものです。動いてくださるだけありがたいと思わなければ」
「そうですが・・・胸くそわるい」
鼻息が荒くなる。
なぜか、ありがたいと思えなかった。
事態が悪い方へ向かっていきそうな胸騒ぎがする。
だから、穏便に、と口に出してしまったのだ。
「文四郎さん。早く赤子を取り返してもらわないと、おきみさんの乳が、出なくなってしまいます」
「出なくなる?」
雪江が恐ろしいことを言った。
「今は絞ってどうにか耐えていますが、それも長くは持たないでしょう」
「しかし・・・」
「そうだったわね。お目付さまを待つしかないのでしたね」
沈黙するしかなかった。
「文四郎」
駒井が戻ってきて、声をかけた。
「聞いての通りだ。我々にできることは何もない」
「大和屋は、放っておくのですか?」
「お目付どのが申されるには、今は刺激せぬ方が良いと」
「・・・」
「いかがした」
「大和屋に会いました」
「なに?」
「会って、子供を返せと揺さぶりをかけました。何か動きがあるやもしれませぬ」
駒井が唸り、腕を組んだ。
しばらく間があって、ため息まじりに言った。
「仕方がない。目付は大和屋までは手出しせぬはずだ。引き続き目を離すな」
だが、張り込みの目を掻い潜って、事件は起きた。
「旦那ああっ!」
町廻りの最中、文四郎を見つけて、仙次が血相を変えて駆けつけて来た。
「大和屋が大変です!」
仙次の後について走り出した。
調べがついたのだろうか。
気が急いて、急いで向かった。
駒井の屋敷には、客が来ていた。
「目付の近藤陽之介どのだ」
駒井が紹介した。
「朝倉文四郎と申します」
文四郎は頭を下げた。
近藤は、駒井と同じくらいの歳に見えた。
色が白く、鷲のように尖った鼻が、異様に目立っていた。
かといって彫りが深いわけでもなく、細い目におちょぼ口ゆえにかえって目立つのだ。
「近藤どのは、ありがたいことに、此度の件で我らに協力してくださる」
「ありがとうございます」
文四郎がもう一度平伏する。
駒井が近藤に目配せした。
これが、と近藤が懐から書き付けを取り出し、広げて見せた。
「同じ頃に、届があった家にござる」
文四郎が受け取ろうとすると、近藤がそれを咎めるように手を出した。
「おっと。それは渡すわけにはいかぬ」
「・・・」
駒井を見ると、難しい顔で頷いていた。
「ここからは、我々に一任いただきたい。目付の仕事でござる」
そう言って、書き付けを懐にしまった。
町方が手を出すなということだ。
「この中に、大和屋が出入りしている家があれば、その子が探している子供です」
文四郎は言ったが、近藤は、そんなことはわかっていると言うように、文四郎を見た。
やはり、町方は嫌われているんだろう。
目付は旗本だから、見下されて当然かもしれなかったが、気分が悪かった。
「その子だけでよろしいか?」
「いえ、できれば、奉行所に訴えが出ている子も、調べていただければ」
「斯波家も・・・」
駒井が言い添えた。
「斯波家?」
近藤が怪訝な顔をして駒井を見た。
「この朝倉が、囮にした子供が持ち込まれた家にて」
「なるほど・・・」
と、文四郎を見た目が冷たかった。
「わかり申した」
そう言って、立ちあがろうとした。
「あの・・・」
文四郎が言いかけたが、止まらずに、そのまま立ち上がる。
「何か?」
見下ろされて、詰まりかけたが、頭を下げながら口にした。
「なにとぞ穏便な処置を、お願い申し上げます」
「穏便だと?」
そう返した声音の冷たさに、はっとして見上げた視線がぶつかった。
近藤が初めて口元を歪めて笑った。
「何か勘違いをしておるのか。目付に穏便などありえん。我らの手に委ねるとは、そういうことにござる」
「・・・」
「子供は必ず届けるゆえ、しばし待たれよ」
去っていく近藤を、駒井が送りに出ていった。
文四郎は、拳を畳に叩きつけた。
「あらあら、文四郎さんが珍しいこと」
雪江が代わりに入ってきて、苦笑した。
「雪江さま・・・申し訳ございませぬ」
「お目付衆は昔からそんなものです。動いてくださるだけありがたいと思わなければ」
「そうですが・・・胸くそわるい」
鼻息が荒くなる。
なぜか、ありがたいと思えなかった。
事態が悪い方へ向かっていきそうな胸騒ぎがする。
だから、穏便に、と口に出してしまったのだ。
「文四郎さん。早く赤子を取り返してもらわないと、おきみさんの乳が、出なくなってしまいます」
「出なくなる?」
雪江が恐ろしいことを言った。
「今は絞ってどうにか耐えていますが、それも長くは持たないでしょう」
「しかし・・・」
「そうだったわね。お目付さまを待つしかないのでしたね」
沈黙するしかなかった。
「文四郎」
駒井が戻ってきて、声をかけた。
「聞いての通りだ。我々にできることは何もない」
「大和屋は、放っておくのですか?」
「お目付どのが申されるには、今は刺激せぬ方が良いと」
「・・・」
「いかがした」
「大和屋に会いました」
「なに?」
「会って、子供を返せと揺さぶりをかけました。何か動きがあるやもしれませぬ」
駒井が唸り、腕を組んだ。
しばらく間があって、ため息まじりに言った。
「仕方がない。目付は大和屋までは手出しせぬはずだ。引き続き目を離すな」
だが、張り込みの目を掻い潜って、事件は起きた。
「旦那ああっ!」
町廻りの最中、文四郎を見つけて、仙次が血相を変えて駆けつけて来た。
「大和屋が大変です!」
仙次の後について走り出した。
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