子連れ同心捕物控

かじや みの

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一話 この子誰の子

十六

 奉行所へ行き、駒井に報告する。

 佐々木外記は、目付によって外出を禁じられていて、屋敷にいた。
 斬られていたのは、佐々木と、手向かった家臣たちで、奥方や他の奉公人たちは無事だった。
 斬り口を見たが、大和屋とは違って薙ぎ払うような袈裟斬りで、骨まで断つ凄まじい太刀筋に背筋が凍るようだった。
 無論即死だ。
 息があればと急いで来たのだが、やはり手遅れだった。

 門番の中間ちゅうげんに話を聞いた。
 見たことのない侍だったが、目付を名乗ったので、中に入れたという。

(人斬りを楽しんでやがる)
 もう斬れないと言った、侍の笑いを思い出していた。

「近藤さまに話をお聞ききしたいのですが」
 文四郎は言った。
「わかった。つなぎをつけておこう。・・・下手人は、目付ではあるまい」
 駒井が眉をひそめた。
「はい。それは、門を開けさせるための方便でしょう。でも、確かめなければなりません」
 文四郎は、徒目付が来るまで佐々木家にいて、仔細を話してきたが、近藤と話したわけではなかった。
 目付が佐々木を葬る理由がない。
 殺したければ、手を下さなくとも、罪を着せて切腹させればすむことだ。
 目付に探られたくない者が、先手を打ったに違いなかった。
 近藤に聞きたいのは、町方が知り得ない情報を持っているかもしれないからだ。
 旗本を斬った者を、目付が許すはずはない。
 下手人を調べるだろう。
 話してくれるかどうかはわからないが、ここは手を組むべきだと文四郎は思う。
 勝手に旗本屋敷に入ったことを咎められ、町方の出る幕ではないと、突っぱねられる可能性の方が大きいが、こっちはその侍に会っている。
 話を聞きに来るはずだ。


 奉行所を出たが、屋敷に帰る気にならず、仙次の店に向かった。

 酒も出す仙次の店は、夕飯どきには客が多かった。
 こんな日は、一人になりたくない。
「おや、旦那」
 およねが笑顔で迎えた。
「空いているか?」
 客と話していた仙次が、奥を示す。
 席につくと、いつも何も言わなくてもおよねが適当に見繕って持ってきてくれた。
「一本つけてくれるかい?」
「あいよ」
 酒はそれほど好きでもなく、強くも弱くもないが、たまらなく飲みたくなる時がある。
 関わった人が、立て続けに命を落とした今日は、飲まずにいられない。

 それだけでも辛いが、消したくても消せないある場面と重なってしまうのだ。

 斬られた父の遺体を前に、どうしようもなく立ち尽くすしかなかったあの時と。

 斬ったのは侍だということしかわからず、捜査することもできずに放置された。

 泣き寝入りするしかなかった、あの無念さがよみがえってきてしまう。

 病がちだった母は、後を追うように亡くなり、姉は奉公に出た。

 文四郎は、父を斬った侍と対決できるように、剣術に励んだ。
 いつか必ず仇を討とうと誓った。
 その誓いはまだ果たせていない。

 だしのしみた大根と、とろとろのネギがうまくて酒が進む。
 客たちの話も酒の肴になる。
 苦い酒も、どうにか腹の中におさまってくれる。


「旦那、起きてくだせえ。木戸がしまっちまいやすよ」
 仙次にゆすられた。
「ん?・・・ああ」
 いつの間にか眠ってしまっていた。
 神経が昂って、眠れそうにないと思っていたが、飲みすぎたのか、酒の力は絶大だった。
 だが、帰りたくなくて、寝たふりを決め込む。

 姉が家に寄り付かないのも、わかる気がした。
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