子連れ同心捕物控

かじや みの

文字の大きさ
23 / 27
二話 父親の顔

「何をするつもりだ」
 殺気立つ辰吉をこのまま行かせていいわけはない。
「あいつ、ぶっ飛ばさねえと、おさまりがつかねえ」
 やっぱりだ。
「待て。お前が行っては騒ぎになるだけだ。おれが先に行く」
 すぐにでも乗り込んでいきそうな辰吉を引っ張って、路地に隠れた。

「いや、八丁堀の旦那が行ったって、本当のことは言わねえさ」
「なんでそう思うんだ。まずは、お前さんの話を聞いてからだな」

 腕っぷしの強そうな辰吉の腕を押さえて、路地を抜けていく。

「痛ってえな! 話すことなんざ、何もねえよ!」
 文四郎の手を解こうとするが、急所を押さえているため、びくともしない。
 二人の後ろには仙次がついて来ている。
 逃げられないと悟ったらしく、舌打ちしてついてきた。

 どこに連れて行こうか迷ったが、ふと思いついて、仙次を振り返った。

「仙次、仏さんが見つかった場所はどこだい?」
 文四郎が着いたときには、もう自身番に移された後だったので、現場を見ていなかった。
「それは・・・こちらです」
 路地を抜けたところで前に出て、足早に歩き出した。
 仙次の後についていく。

 辰吉は急に大人しくなり、黙ってついてきた。



 大川のほとり。
 川面がキラキラと輝いて、殺しがあったとは思えないほどのどかな風景だ。

「あのあたりでさあ」
 仙次が示したあたりは、岸が少し内側に湾曲し、上流から流れが少し緩やかになる。
「室田の旦那は、岸から投げ入れられたせいで、ここに止まったんだろうっておっしゃっていやした。橋の上からなら海に流れていっちまったかもって」
「姉ちゃん・・・」
 辰吉が不意に泣き出した。
 桔梗屋から離れたせいで、持って行き場がなくなった憤りがあふれたのだろう。
「姉ちゃんは人から恨みを買うような人じゃねえ。あいつがきっと、邪魔になった姉ちゃんを殺したに違いねえんだ」
「なんで、そう思うんだ」
 さっきと同じ問いを投げかける。
「あいつは姉ちゃんを捨てたんだ」
「あいつってのは?」
「桔梗屋の若旦那だよ」
「おさよは、桔梗屋の奉公人って言ったな」
「ああ、住み込みで奉公してた」
「捨てたのなら、殺す必要はねえだろう」
「正確には、捨てたのは姉ちゃんの方だが、そう仕向けたのはあいつなんだ」
「どういうことだ」

 文四郎は、地面を注意深く見ながら、上流へと歩いていた。
 何か痕跡が残っていないか、探しながら聞いている。

「あいつは近々嫁をもらうことになってて、姉ちゃんが邪魔になったんだ」
「・・・」
 辰吉の思い込みではないかと思ったが、本人にあたってみる必要がある。
 奉公人と主人の恋のもつれが引き起こしたことなのか。
 辰吉の話では、何も詳しいことがわからない。

「血は綺麗に洗い流されてた。岸から投げ入れられたとしても、もっと上の方かもしれないな」
 と、独り言のように言って、文四郎の後ろについてくる辰吉を見た。
「心当たりは他にないか」
「他? 他には何もねえよ」
「最後に会った時、何か変わったことは?」
「最後に会ったって・・・半年も前だけどな」
「半年前? じゃあわからねえじゃねえか」
 文四郎が言うと、辰吉はムッと口を尖らせた。
「お互い住み込みなんだ。滅多に会えねえさ」
「家は?」
「だから奉公先しかねえんだよ。親はいねえし。さっぱりとしていいだろ」
「兄弟は?」
「たった一人の姉ちゃんだった」
「姉一人か。おれと同じだな」
「旦那も?」
 辰吉が少し笑った。

「一人になっちまった」
「仇を討とうなんて、思うなよ」
「・・・」
 辰吉は返事をしなかった。
「それは、こっちの仕事だからな」
 商家の若旦那に、あの殺しはできない。
 斬られた首の切り口を思い出していた。
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末

松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰 第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。 本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。 2025年11月28書籍刊行。 なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。 酒と肴と剣と闇 江戸情緒を添えて 江戸は本所にある居酒屋『草間』。 美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。 自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。 多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。 その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。 店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

If太平洋戦争        日本が懸命な判断をしていたら

みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら? 国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。 真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…そして終戦工作 分水嶺で下された「if」の決断。 破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦 そしてそこから繋がる新たな近代史へ

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。