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十八
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「里!」
小弥太が飛んできた。
「軽く当たっただけだ。折れてはおるまい。大袈裟だな。引き分けにして逃げようったって、そうはいかんぞ」
「なんだと?」
小弥太の乱暴な言い方に、水野が眉を吊り上げた。
が、小弥太を無視して言った。
「あと一本。決着をつける。どうした。立て!」
里絵は立ち上がった。
木刀を拾う。
右手首の上が赤くなっている。
「逃げるか。ぶっ倒す!」
鋒を水野に向けた。
目が据わっている。
「よし、それでこそ鬼姫の妹だ」
ニヤリと口元を歪めて、水野は木刀を肩に担ぐように構えた。
死闘の始まりだ。
どちらかがぶっ倒れるまで続くだろう。
合図も待たずにぶつかっていく。
木刀同士が激しく当たり、乾いた音が響いた。
「ご師範、止めなくていいのですか?」
小弥太が才介に詰め寄った。
「ああ・・・」
才介は苦い顔で顎に手を当てたままそう答えたのみで、止めようとしない。
目は、二人の立ち合いをしっかりと捉えている。
「限度があります。怪我でもしたら・・・」
小弥太は、兄のことが頭をよぎり、気が気でない。
「滅多なことはないと思うが、どこで止めるかだな」
師範の煮え切らない態度に、大人しい小弥太が次第に苛立ちを募らせる。
「闇雲に止めても止まらんだろう。信じるしかない」
里絵が休みなく攻め立てる。
もはや、試合というより喧嘩に近くなっている。
水野の払い方が、露骨に乱暴になり、床に転がるほど突き飛ばしたり、蹴り飛ばす。
軽い里絵は吹っ飛んで、壁にぶち当たり、掛けられた木刀がバラバラと落ち、派手な音が道場に響く。
それでも向かっていった。
負けたくない。
ほとんど意地になっている。
若侍たちも、門弟たちも、黙って見ていられない。
やじが飛び交い、総立ちになっている。
「派手にやっておるのう」
杖を片手に、源兵衛が道場に姿を見せた。
上座の方へ右足を引き摺りながら進む。
「何をしておる」
源兵衛の登場に、周りの者も、水野と里絵までが注目した。
「じじいはすっこんでろ!」
若侍の一人がいい放った。
「わしはまだじじいではない!」
源兵衛の大音声が響いた。
「じじいだろうが」
若侍たちが笑った。
足を引き摺る源兵衛を侮っているようだ。
「才介はまだ、この道場のことがわかっとらんようだから、ここはわしが預かろう」
「は。お願いいたします」
才介が頭を下げた。
源兵衛は今はほとんど道場には姿を現さない。
現役だった頃の源兵衛を知る者も、身内以外にはいなかった。
小弥太、と源兵衛が才介のそばにいる小弥太に声をかけた。
「思いっきりいけ。乱れ稽古じゃ。みな何をしておる。わしが責任をとる。見ておるだけでは上達せん。遠慮は無用じゃ! いけー!」
意気揚々と叫んだ。
「はい!」
察した小弥太が、木刀を拾って、若侍たちに向かっていく。
門弟たちもそれに続く。
迎え討つ若侍たちも、慌てて木刀や竹刀を手にする。
双方入り乱れての打ち合いになった。
「義父上・・・」
才介が唖然としている。
「里絵、腰が入っとらんぞ。そんな屁っ放り腰では、いたずらに転がされるだけじゃ。しゃんとせい!」
「はい!」
「そこ! なんじゃその打ち込みは! なっとらん! 稽古しとるのか」
若侍たちにも声を飛ばしている。
「鍛え直してやる」
「うっせえ、じじい!」
どんな罵声もものともしない。
「なんなんだこれは・・・」
さすがの水野も呆然として道場を眺めた。
「めちゃくちゃだな」
「これが大月道場よ。入門する?」
「馬鹿、誰がするか」
苦笑が浮かんだ顔を見合わせた。
「こら、水野! もうしまいか。いつでも来るがいい。相手になってやるぞ」
「来るか、じじい」
「親父どのによろしくな」
「言うか、そんなこと。今日のところはじじいに免じて引き分けにしといてやる。付き合ってられるか。行くぞ」
気勢を削がれて、立ち合う気を失った水野が合図し、若侍たちが引き上げて行った。
井戸端で、汗を拭きながら、門弟たちの自慢が始まった。
「おれは、二人に当ててやった。小弥太は?」
「三人に一本ずつ取ったよ」
「やったなあ」
「おれは肩と小手を打たれた」
「おれなんて、竹刀で胸を突かれたぜ。ここ」
と胸を開けて見せている。
「大したことないな」
ばん、と叩かれて、悲鳴をあげた。
どっと笑いが起きた。
里絵もその中にまじって笑っている。
どの顔も、明るい陽の光を浴びて輝いていた。
そんな門弟たちの様子を見ながら、道場の縁側に才介と源兵衛が腰をかけている。
「水野さまとは、お知り合いだったのですね」
「まあ、昔から世話になっておってな」
「もしかして、足の怪我とも関わりが・・・」
「・・・」
源兵衛は、右足をさすりながらそれ以上は言わなかった。
「若者は可愛いものよ。・・・どの子たちも皆、平等にな」
「そうですね」
「孫はもう一つ可愛いものだというが。・・・早く見たいものだな」
「はあ、それは・・・」
「間もなくだろうな?」
杖で上体を支えるようにして、才介に顔を近づけた。
杖をついているせいで、年寄りに見られるが、まだ五十になっていない源兵衛の目は鋭い。
「父上! 聞きましたよ」
畑仕事から帰ってきた織絵が源兵衛を見つけて近寄ってきた。
「もう耳に入ったのか。地獄耳よのう」
「まったくどういうおつもりですか。争いと見ればすぐに首を突っ込んでことを大きくしてしまうのですから」
「あの時は大人しくしておったぞ」
「出てきてもらっては困ります」
才介の国許から八重が来たときのことだ。
「足がそんなふうになってもまったく反省してないんですから。いい加減にしてください」
「今日のはわしの手柄だと思うがのう。見よ」
門弟たちの笑顔を指している。
「それはそうですけど、大事な子たちに怪我をさせたらどうするのですか」
「ああ、わかったわかった。鬼姫には敵わん」
「誰が鬼ですって?」
源兵衛は杖を支えにして立ち上がり、帰ろうとしたが、杖が滑って踏ん張りが効かずに転んだ。
「あっ、先生!」
「手助け無用。子供じゃないんですから、一人で立ってください」
織絵がそう冷たく言い、母屋の方へ行ってしまった。
「やはり鬼じゃ」
起きあがろうともがく源兵衛を、門弟たち数人が助け起こした。
母屋の方から、ご飯を炊くいい匂いがしてきた。
小弥太が飛んできた。
「軽く当たっただけだ。折れてはおるまい。大袈裟だな。引き分けにして逃げようったって、そうはいかんぞ」
「なんだと?」
小弥太の乱暴な言い方に、水野が眉を吊り上げた。
が、小弥太を無視して言った。
「あと一本。決着をつける。どうした。立て!」
里絵は立ち上がった。
木刀を拾う。
右手首の上が赤くなっている。
「逃げるか。ぶっ倒す!」
鋒を水野に向けた。
目が据わっている。
「よし、それでこそ鬼姫の妹だ」
ニヤリと口元を歪めて、水野は木刀を肩に担ぐように構えた。
死闘の始まりだ。
どちらかがぶっ倒れるまで続くだろう。
合図も待たずにぶつかっていく。
木刀同士が激しく当たり、乾いた音が響いた。
「ご師範、止めなくていいのですか?」
小弥太が才介に詰め寄った。
「ああ・・・」
才介は苦い顔で顎に手を当てたままそう答えたのみで、止めようとしない。
目は、二人の立ち合いをしっかりと捉えている。
「限度があります。怪我でもしたら・・・」
小弥太は、兄のことが頭をよぎり、気が気でない。
「滅多なことはないと思うが、どこで止めるかだな」
師範の煮え切らない態度に、大人しい小弥太が次第に苛立ちを募らせる。
「闇雲に止めても止まらんだろう。信じるしかない」
里絵が休みなく攻め立てる。
もはや、試合というより喧嘩に近くなっている。
水野の払い方が、露骨に乱暴になり、床に転がるほど突き飛ばしたり、蹴り飛ばす。
軽い里絵は吹っ飛んで、壁にぶち当たり、掛けられた木刀がバラバラと落ち、派手な音が道場に響く。
それでも向かっていった。
負けたくない。
ほとんど意地になっている。
若侍たちも、門弟たちも、黙って見ていられない。
やじが飛び交い、総立ちになっている。
「派手にやっておるのう」
杖を片手に、源兵衛が道場に姿を見せた。
上座の方へ右足を引き摺りながら進む。
「何をしておる」
源兵衛の登場に、周りの者も、水野と里絵までが注目した。
「じじいはすっこんでろ!」
若侍の一人がいい放った。
「わしはまだじじいではない!」
源兵衛の大音声が響いた。
「じじいだろうが」
若侍たちが笑った。
足を引き摺る源兵衛を侮っているようだ。
「才介はまだ、この道場のことがわかっとらんようだから、ここはわしが預かろう」
「は。お願いいたします」
才介が頭を下げた。
源兵衛は今はほとんど道場には姿を現さない。
現役だった頃の源兵衛を知る者も、身内以外にはいなかった。
小弥太、と源兵衛が才介のそばにいる小弥太に声をかけた。
「思いっきりいけ。乱れ稽古じゃ。みな何をしておる。わしが責任をとる。見ておるだけでは上達せん。遠慮は無用じゃ! いけー!」
意気揚々と叫んだ。
「はい!」
察した小弥太が、木刀を拾って、若侍たちに向かっていく。
門弟たちもそれに続く。
迎え討つ若侍たちも、慌てて木刀や竹刀を手にする。
双方入り乱れての打ち合いになった。
「義父上・・・」
才介が唖然としている。
「里絵、腰が入っとらんぞ。そんな屁っ放り腰では、いたずらに転がされるだけじゃ。しゃんとせい!」
「はい!」
「そこ! なんじゃその打ち込みは! なっとらん! 稽古しとるのか」
若侍たちにも声を飛ばしている。
「鍛え直してやる」
「うっせえ、じじい!」
どんな罵声もものともしない。
「なんなんだこれは・・・」
さすがの水野も呆然として道場を眺めた。
「めちゃくちゃだな」
「これが大月道場よ。入門する?」
「馬鹿、誰がするか」
苦笑が浮かんだ顔を見合わせた。
「こら、水野! もうしまいか。いつでも来るがいい。相手になってやるぞ」
「来るか、じじい」
「親父どのによろしくな」
「言うか、そんなこと。今日のところはじじいに免じて引き分けにしといてやる。付き合ってられるか。行くぞ」
気勢を削がれて、立ち合う気を失った水野が合図し、若侍たちが引き上げて行った。
井戸端で、汗を拭きながら、門弟たちの自慢が始まった。
「おれは、二人に当ててやった。小弥太は?」
「三人に一本ずつ取ったよ」
「やったなあ」
「おれは肩と小手を打たれた」
「おれなんて、竹刀で胸を突かれたぜ。ここ」
と胸を開けて見せている。
「大したことないな」
ばん、と叩かれて、悲鳴をあげた。
どっと笑いが起きた。
里絵もその中にまじって笑っている。
どの顔も、明るい陽の光を浴びて輝いていた。
そんな門弟たちの様子を見ながら、道場の縁側に才介と源兵衛が腰をかけている。
「水野さまとは、お知り合いだったのですね」
「まあ、昔から世話になっておってな」
「もしかして、足の怪我とも関わりが・・・」
「・・・」
源兵衛は、右足をさすりながらそれ以上は言わなかった。
「若者は可愛いものよ。・・・どの子たちも皆、平等にな」
「そうですね」
「孫はもう一つ可愛いものだというが。・・・早く見たいものだな」
「はあ、それは・・・」
「間もなくだろうな?」
杖で上体を支えるようにして、才介に顔を近づけた。
杖をついているせいで、年寄りに見られるが、まだ五十になっていない源兵衛の目は鋭い。
「父上! 聞きましたよ」
畑仕事から帰ってきた織絵が源兵衛を見つけて近寄ってきた。
「もう耳に入ったのか。地獄耳よのう」
「まったくどういうおつもりですか。争いと見ればすぐに首を突っ込んでことを大きくしてしまうのですから」
「あの時は大人しくしておったぞ」
「出てきてもらっては困ります」
才介の国許から八重が来たときのことだ。
「足がそんなふうになってもまったく反省してないんですから。いい加減にしてください」
「今日のはわしの手柄だと思うがのう。見よ」
門弟たちの笑顔を指している。
「それはそうですけど、大事な子たちに怪我をさせたらどうするのですか」
「ああ、わかったわかった。鬼姫には敵わん」
「誰が鬼ですって?」
源兵衛は杖を支えにして立ち上がり、帰ろうとしたが、杖が滑って踏ん張りが効かずに転んだ。
「あっ、先生!」
「手助け無用。子供じゃないんですから、一人で立ってください」
織絵がそう冷たく言い、母屋の方へ行ってしまった。
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