隠密姫

かじや みの

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七 家老の思惑

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「姫さま、ご家老の大森修理さまがお会いしたいと、お見えでございますが」
 佐伯さまの声が襖の向こうからした。
 来た。
 きっと何か動きがあるはずだと思っていた。
「お通しして」
 私は脇息にもたれかかった。
 何も策は考えていなかった。
 出たとこ勝負だ。
 修理さまが何を言うのか、その考えていることがわかればいい。
「お疲れのところ、申し訳ございませぬ」
 入ってきた修理さまが平伏する。
 佐伯さまにも同席してもらう。
「どうなっているのじゃ?探索は進んでおるのか?。茜がおらぬとわらわも困る」
 心痛で具合が悪いというふうに見せる。
 実際そうなのだから嘘ではない。
「只今、手を尽くしておりますれば、今しばらく」
「そちらも、若殿がおらぬでは、お話になるまい」
「そのことで、お願いがあって参上仕りました」
「・・・」
 私は体を起こして座り直した。
 修理さまが膝でにじり寄ってきた。
 佐伯さまが控えてくれているからいいが、少し怖かった。
 グッと堪えて、平気な顔をする。
「若殿がこのまま見つからぬ場合・・・」
 声を顰めている。
「それでも我が、伊那代の存続を、上様にお願いしていただけませぬか。姫さまが、そのように仰せならば、上様もお許しになられるものと」
「・・・」
 私は即答を避けて考えた。
 お家の存続を願う家老の言葉は、至極もっともなものだ。

 ん?
 ちょっと待って?
 ここでうんと言ったらどうなるの?

 若殿がいなくても、藩は存続する。

 殿

 それってまずくない?
 若殿がいなくていいことにならない?

 どうしよう・・・
 なんて答えたらいいの?
 目が泳ぎそうになる。

 よきに計らえ、じゃなくて、・・・

 私は、修理さまを見据えた。
 そして、力一杯お腹に力を入れて言った。
「そのほう、わらわに指図するのか。上様に何を言上するかは、わらわが決めることじゃ。・・・下がりゃ!」

 ビシッと、決めた。
 つもりだった。
 のに。

「はは」
 平伏した修理さまは、
「今日のところは下がりまするが、あきらめませぬ。是非ともお考えいただきたく、お願い申し上げまする」
 と、悠々と去っていった。

 私、迫力なかったかしら・・・
 姫さま稼業は向いていないんだわ。
「なかなかでしたよ」
 ため息をついた私を、佐伯さまが慰めてくれた。
「佐伯さま、お願いがあるのですが・・・」
 思いついたことを口にしてみる。
「町の様子を見てきてほしいのです。あちらの情報だけでは、片落ちになる気がします」
「そうですね。行って参りましょう。その間お一人で大丈夫ですか」
「ここでじっとしている分には何も起こらないかと・・・。若殿と修理さまがどう思われているのか、知りたいのです」
 ご家中の方々や、民の思いはどうなのか、ちゃんと知っておきたい。

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