【完結】誰に抱かれてもあなたへの愛は揺らがない

かじや みの

文字の大きさ
8 / 47
恋の舞

同心の妹

しおりを挟む
「夜遅くに呼び出すなんて、何かあると思ったけど、いったいどういうことなのよ。説明して」

 片桐家に戻って、遅くなった夕餉をとったあと、平助を呼びに行かせたのは、和馬の妹の紗江さえだった。
 紗江は、同じ同心の加納家に嫁いでいる。
 眉を吊り上げて怒っていた。
 それは、ゆきを見たからだ。
 しかも、くじいた足に布を巻いているのが、和馬だったからかもしれない。

「どこのあばずれ女を拾ってきたのよ。どうかしてるわ」
「紗江さま、落ち着いて」
 平助がなだめている。
「平助、あなたがついていながら、このざまは何なの。信じられない」
「話を聞け、紗江」
「堅物で通った兄上をここまで落とすのは、あっぱれだとは思うけど、片桐家の女中になろうというのなら、私の許しが必要よ」
「だと思って呼んだんじゃないか」

 紗江が、ゆきの前にいる和馬をどかし、きちんと正座をした。

 ゆきは顔が上げられなかった。
 怒るのも無理はない。
 あばずれなのも嘘じゃない。追い出されても文句は言えなかった。
 和馬の家族に許してもらわなければ、ここにはいられないのだ。
 最初の難関である。

「顔を上げなさい」
「はい」
 ゆきは、顔を上げたが、目は紗江を見ずに落とした。
 右足は横に投げ出してはいるが、両手は畳についている。
「まあ、見た感じは思ったよりもおとなしめね。芸者の子だというから、もっと派手で気取っているのかと思ったわ」
「尾張で武家奉公をしていたそうだ」
「そう。行儀作法はよさそうね」
 荒かった語気が落ち着いたようだ。
 口ごたえせず、おとなしくしているのが、印象を変えたらしかった。
「いい子なんですよ。いない間に掃除をしてくれたし、錆びついた鍋で夕餉を作ってくれようとしたり」
 平助が口添えしてくれている。
「そう。男どもの評判もいい、と。兄上も?」
 と、横目で和馬を見た。
「あ、ああ。ずっといるわけじゃない。一緒に江戸に来た叔母とはぐれて、見つからず、そんな話になったんだ」
「見つからない? 同心と岡っ引きの手にかかっても見つからなかったの? なんてお粗末」
 ふっと息をついて、首を振った。
「面目ない」
 平助が額を叩く。
「それでは仕方がないわね」
 紗江は天井を仰いだ。
「私が、迷子になったのが悪いのです。親分さんのせいではありません」
「庇うことないわ。見つけられなかったのは、事実なんだから」
「厳しいーっ」
 平助が打たれた真似をしてひっくり返った。
「恐れ入りやの鬼子母神!」
 ばかね、と紗江が笑うと、ゆきもつられて笑った。


「おゆきさんと言ったかしら」
「はい」
「これだけは言っておくわ。その行方不明の叔母さんが見つかるか、兄上がお嫁さんをもらうときには、この家を出ていってもらいます。それまでは女中として働くのを認めましょう。ただし、くれぐれも、妙な気は起こさないで」
「妙な気って・・・」
 つぶやいたのは和馬だ。
「それは兄上もです。そりゃあ、男と女だから、間違いはあるでしょう。私が言いたいのは、そうなったとしても、片桐の嫁になろうなどとは思わないこと。わかるわね」
「もちろんです」
 ゆきは、頭を下げた。
「なんか、間違いがある前提だな・・・」
 和馬が苦笑している。
「兄上は甘いわ。そこまで考えておいた方がいいのよ。女は、情を通じると、つけあがるから」
 断定した。
 分をわきまえろということだろう。
「ま、お大身でもないのだから、気楽にやってもらえばいいけど」
「お許しいただき、ありがとうございます。お言葉、肝にめいじます」
「まあ、しっかりしているのね」
 厳しいように思えるが、紗江の言うことに、嘘はない。
 まっすぐで裏表のないところが、和馬に似ていると思った。

「事情はわかったわ。疲れたでしょうから、今日は休みましょう。詳しいことは、また明日話しましょう」
 もう立ち上がっている。

「じゃあ、あっしも、紗江さまを送りがてら、おいとまを」
 平助も立ち上がった。
 嵐が過ぎ去ったように、静かになり、和馬とゆきだけが残された。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様を書いたストーリーです。

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...