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恋の舞
潤んだ瞳
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「お見苦しいところを、お見せしてしまいました。お助けいただき、ありがとうございます」
お染が、畳に手をついて頭を下げた。
捕物を終えて、屋敷に戻ると、灯りが灯っていて驚いた。
和馬はてっきり、もうゆきはいないものと思っていたからだ。
お染が自分の家に連れて帰ると思っていた。
ゆきが言った、帰るとは、叔母の家のことだと。
「いや、家に帰ったのかと思っていたが・・・」
思わず口にした。
「捕物は、うまくいきましたか」
「ああ、一網打尽にできた」
「それは、よう、ございました」
賊は、左近が裏切るとは思っていなかったようで、警戒していなかった。
まだ旅立つ前なのが幸いして、捕えることができた。
「おかげさまで、私も胸のつかえがおりました」
お染も落ち着いたようで、すっきりした表情をしていた。
ゆきは、布団で休んでいるでもなく、きちんと着物を着て、お染の後ろに控えていた。
「大丈夫か?」
「はい。駕籠を使いましたし」
顔を伏せたまま、返事をした。
あんなことがあって、男しかいない家には居づらいはずだった。
和馬は正直、どういう顔をしていいかわからなかった。
「うちに帰るつもりでしたが、ゆきが、こちらに戻りたいと言うので・・・」
と、ゆきの顔色を見る。
「ですが、ちゃんと引き取るつもりでおります。芸者に育てたいと思います」
「そうか」
目をそらした。
顔色を読まれたくなかった。
だが、遅かったようだ。
「片桐さまを見ていて、わかりました。ゆきがここに帰りたいと言った理由が」
お染が思わせぶりに笑った。
笑っただけで、その理由を言わない。
「好きにすればいい。・・・だが、その前に」
和馬は、ゆきに頭を下げた。
「守ってやれなかった。・・・すまない」
おれが守ると言ったのに、己の不甲斐なさがたまらなく嫌になる。
そして守れなかったことが、悔しくて、情けなくて、心が痛くてたまらない。
捕物を終えた高揚感など、跡形も消えて、今夜は、独寝の夜具の中で、泣き明かすだろうと思って帰ってきたのだった。
「おやまあ、旦那のせいじゃありませんよ」
お染が慌てて言った。
ゆきがすっと立って、和馬に近づいた。
膝が触れるほど近くに座り、手を取る。
思いがけず、大胆な行動に、はっと顔を上げた。
「私は大丈夫です。こんなことぐらい何でもありません。・・・私のために・・・ありがとうございます」
「ゆき・・・」
和馬の手を握っておいて恥ずかしいのか、控えめに微笑するゆきの顔を、見つめてしまう。
癒してあげたいのに、癒されているのは自分のほうだった。
「ああ、これは、吉次ねえさんの野暮天だ」
お染がぱん、と膝を叩いた。
「わかりました。私の方も支度をしなくちゃなんないから、しばらく置いてもらいなさい」
「叔母さま・・・ありがとうございます」
ゆきが拝むような仕草をした。
「しばらくの間よ。長居すれば、旦那に迷惑をかけることになる。わかっているね」
「はい」
ゆきがうなずいている。
「迷惑・・・」
和馬自身はそう思わなくても、おそらく周りがうるさいだろう。
人の口に戸は立てられない。
今まで以上に風当たりが強くなる。
もうお染は立ち上がっていた。
「そうと決まれば、邪魔者は退散」
「おい、待て」
和馬は思わず引き留めた。
「あら、おいやですか。ならば、このまま連れ帰りますが」
と妖艶に微笑んだ。
「あ、いや・・・」
「もう旦那ったら。・・・男ならはっきりしてくださいな。おゆきを頼みますよ。また迎えに来ますから」
ぽんぽんと小気味良くいい置いて、本当に帰っていった。
平助がいたら、そのきっぷの良さに惚れ惚れしたかもしれない。
「早く休んだほうがいい」
ゆきの手を、逆につかんで、その膝の上に置いた。
「怪我がなくてよかった」
「はい。和馬さまも・・・」
その上に、ゆきの手が重なる。
いつにない近さにドキドキし、顔を見合った。
ほっとしたような、物憂げな潤んだ瞳が、和馬を拒んでいなかった。
「ああ、いや、その・・・」
その手を引き寄せそうになり、離した和馬は、慌てて立ちあがった。
「今日はゆっくり休んだほうがいいな」
「はい」
ゆきの目が細められ、ゆっくりと微笑んだ。
お染が、畳に手をついて頭を下げた。
捕物を終えて、屋敷に戻ると、灯りが灯っていて驚いた。
和馬はてっきり、もうゆきはいないものと思っていたからだ。
お染が自分の家に連れて帰ると思っていた。
ゆきが言った、帰るとは、叔母の家のことだと。
「いや、家に帰ったのかと思っていたが・・・」
思わず口にした。
「捕物は、うまくいきましたか」
「ああ、一網打尽にできた」
「それは、よう、ございました」
賊は、左近が裏切るとは思っていなかったようで、警戒していなかった。
まだ旅立つ前なのが幸いして、捕えることができた。
「おかげさまで、私も胸のつかえがおりました」
お染も落ち着いたようで、すっきりした表情をしていた。
ゆきは、布団で休んでいるでもなく、きちんと着物を着て、お染の後ろに控えていた。
「大丈夫か?」
「はい。駕籠を使いましたし」
顔を伏せたまま、返事をした。
あんなことがあって、男しかいない家には居づらいはずだった。
和馬は正直、どういう顔をしていいかわからなかった。
「うちに帰るつもりでしたが、ゆきが、こちらに戻りたいと言うので・・・」
と、ゆきの顔色を見る。
「ですが、ちゃんと引き取るつもりでおります。芸者に育てたいと思います」
「そうか」
目をそらした。
顔色を読まれたくなかった。
だが、遅かったようだ。
「片桐さまを見ていて、わかりました。ゆきがここに帰りたいと言った理由が」
お染が思わせぶりに笑った。
笑っただけで、その理由を言わない。
「好きにすればいい。・・・だが、その前に」
和馬は、ゆきに頭を下げた。
「守ってやれなかった。・・・すまない」
おれが守ると言ったのに、己の不甲斐なさがたまらなく嫌になる。
そして守れなかったことが、悔しくて、情けなくて、心が痛くてたまらない。
捕物を終えた高揚感など、跡形も消えて、今夜は、独寝の夜具の中で、泣き明かすだろうと思って帰ってきたのだった。
「おやまあ、旦那のせいじゃありませんよ」
お染が慌てて言った。
ゆきがすっと立って、和馬に近づいた。
膝が触れるほど近くに座り、手を取る。
思いがけず、大胆な行動に、はっと顔を上げた。
「私は大丈夫です。こんなことぐらい何でもありません。・・・私のために・・・ありがとうございます」
「ゆき・・・」
和馬の手を握っておいて恥ずかしいのか、控えめに微笑するゆきの顔を、見つめてしまう。
癒してあげたいのに、癒されているのは自分のほうだった。
「ああ、これは、吉次ねえさんの野暮天だ」
お染がぱん、と膝を叩いた。
「わかりました。私の方も支度をしなくちゃなんないから、しばらく置いてもらいなさい」
「叔母さま・・・ありがとうございます」
ゆきが拝むような仕草をした。
「しばらくの間よ。長居すれば、旦那に迷惑をかけることになる。わかっているね」
「はい」
ゆきがうなずいている。
「迷惑・・・」
和馬自身はそう思わなくても、おそらく周りがうるさいだろう。
人の口に戸は立てられない。
今まで以上に風当たりが強くなる。
もうお染は立ち上がっていた。
「そうと決まれば、邪魔者は退散」
「おい、待て」
和馬は思わず引き留めた。
「あら、おいやですか。ならば、このまま連れ帰りますが」
と妖艶に微笑んだ。
「あ、いや・・・」
「もう旦那ったら。・・・男ならはっきりしてくださいな。おゆきを頼みますよ。また迎えに来ますから」
ぽんぽんと小気味良くいい置いて、本当に帰っていった。
平助がいたら、そのきっぷの良さに惚れ惚れしたかもしれない。
「早く休んだほうがいい」
ゆきの手を、逆につかんで、その膝の上に置いた。
「怪我がなくてよかった」
「はい。和馬さまも・・・」
その上に、ゆきの手が重なる。
いつにない近さにドキドキし、顔を見合った。
ほっとしたような、物憂げな潤んだ瞳が、和馬を拒んでいなかった。
「ああ、いや、その・・・」
その手を引き寄せそうになり、離した和馬は、慌てて立ちあがった。
「今日はゆっくり休んだほうがいいな」
「はい」
ゆきの目が細められ、ゆっくりと微笑んだ。
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