【完結】誰に抱かれてもあなたへの愛は揺らがない

かじや みの

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炎の舞

幸せの花火

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 花の季節がすぎ、若葉の季節もすぎて、夏の川遊び、花火の季節・・・。

 江戸の楽しみは、四季を通じて尽きることがない。

 外に出られないという左京大夫の別邸で、花火を見た。

 御公儀に遠慮して、この頃は、深川で遊ぶ回数もめっきり減っている。

 海沿いの別邸からは、花火が良く見えた。

「どうだ。特等席であろう。船から見るのが一番だがな」
「十分でございます。船は、おそらく酔ってしまいます」
「船酔いする質だったか?」
「いいえ、この頃は特に・・・。お腹の辺りがムカムカして・・・食べ物も喉を通りません」
「なんだ。暑気あたりか? 暑い日が続くゆえ、気をつけねばならんぞ」
「はい」

 縁に座り、酒を飲んでいる左京大夫に、上体を預け、もたれかかった。

「どうした。珍しいな。花火を見ながら抱かれたいのか」
 と肩を抱く。
「いいえ。今は、いりません」
「そうか? 気分が悪ければ仕方がないな」
 残念そうな顔になった。
「・・・」
 何食わぬ顔で、肩を抱く手を外し、お腹の方へ持っていく。

「来年は、この子と花火が見られるかも・・・」
「ん? 来年?」
「はい」
「まさか・・・」

 花火が打ち上がった。

 見つめ合い、うなずく。

「まことか。間違いないのだな。別の男の子だねということはないのか」
 信じられないのか、笑いながらも、目を細めている。
「疑うのですか? 私は、お殿さま以外に抱かれていません」
 ぷくっと頬を膨らませた。

「でかした! ゆき!」
 急に大声を出し、盃を放り出して、両手で雪也を抱きしめた。

「喜んでくださるのですね」
「もちろんだ。良くやった」

 打ち上がる花火をそっちのけにして、抱き合った。
 労わるような優しい口づけを交わす。

「いらないと言ってなかったか」

 いつもは激しく腰を打ちつけてくる左京大夫も、今夜はそっと、優しく抱く。
 優しくても、感じるところは執拗に攻めてくるので、喘ぎっぱなしだ。

 なぜか、抱き合っていると、気持ち悪さが消えるので、ほとんど雪也の方から動いて求めた。

「孕んでも好きものは変わらんとみえる」
 と、左京大夫に笑われながらも、久しぶりの男を堪能した。

 花火はいつの間にか終わり、汗だくのまま、男の胸に顔を埋める。

「もうそろそろ考えねばならんな」
「何をですか?」
「決まっておろう。身請けのことだ」
「え?」
「何を驚く。今はまだいいかもしれんが、腹が大きくなれば、芸者もできんだろう」
「まだしばらくは、舞いたいと思っております。私の母も、私がお腹にいる間も芸者を続けていたそうですから」
「それは、金に困っていたからであろう。お前には、このおれがついておる」
 確かにお金のためもあったのだろうが、母もきっと、舞いたいと思っていたに違いない。

「私も母のような芸者になりたい」
 病で倒れるまで、芸者であり続けた。
 でも、この子は松平の子だ。
 母親が芸者では、きっと外聞が悪い。

「悪いが、それは無理だ。生まれてくる子のためにもな」
 左京大夫にも、それがわかっている。
 ならば、ここは、折れた方がいい。
「はい。わかりました。お殿さまに従います」
「聞き分けがいいな」
「では、もうしばらく雪也でいさせてくださいませ」
「よかろう。こちらで準備はしておく。何も案ずることはない」

 この上ない幸せなはずなのに、なぜか一抹の不安がよぎった。

 これは、幸せすぎて怖いということだと思い込もうとした。

 お祭り騒ぎの後に感じる、寂しさと同じように。
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