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仕舞
愛のかたち ※
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「私は、和馬さまの妻なのですよね」
和馬が受け止めきれずによろけたために、折り重なって夜具に倒れ込んだ。
「何を言っている。当たり前じゃないか」
「なら、どうして、抱いてくださらないのですか?」
「それは、京太の世話で疲れていると思って・・・」
そう言い訳する和馬は口ごもる。
夜泣きでなかなか眠れないこともあり、気遣ってくれているのだとわかっているのだが、なじらずにはいられない。
「愛しているなら、抱いてください。それとも、子供を産んだ体は抱く気にもなりませんか」
言ってしまってから、妙に恥ずかしくなって、抱きついたまま、顔があげられなかった。
「そんなことはない」
ゆきにとって、愛することは、体を重ねることと同じだ。
抱かれなければ、愛されていることにはならない。
男たちはそうやって、ゆきを愛してきた。
愛がなくても、欲望だけで男は女を抱けるものだ。
初めのうちは、嫌悪しかなかったのに、体を重ねるごとに、相手を理解し、愛が深まることを、芸者になって知った。
体から始まったとしても、ゆきは、梅太郎を愛し、左京大夫を愛していた。
そんな花街の流儀が体に染み付いてしまっている。
本当は、抱いて抱いて抱き潰すくらい抱いてほしい。
愛しているから抱かないという感覚が、ゆきにはわからない。
ここへ連れてこられた時は、生きるか死ぬかの怪我を負っていたし、怪我が治ってからはお腹が大きくなっていき、生まれてからは赤子の世話でかかりっきりになった。
仕方がないと言えば、そうなのだが、抱かない愛の形が、いまいち理解できていなかった。
もう半年ほども、体を重ねないままきている。
いや、もっと。
あのときの一度きりしか、和馬とはしていないことになる。
乳飲子を育ててはいるが、一人の女として見てほしい欲がむくむくと大きくなってくるのを我慢できなくなっていた。
体が寂しくて仕方がないのだ。
頭ではわかっている。
和馬が自分を愛してくれていることは、よくわかっていた。
わかっていても、体は満たされない。
「愛しているに決まっている」
その言葉に嘘はないことも知っている。
だが、もう限界だ。
「こんな、淫乱な私を、蔑んでください。和馬さまの妻にはふさわしくありません」
自分が情けなさすぎて、つい口走ってしまった。
「またそんなことを言う。どんなゆきでもいいと言ってるだろう」
ゆきは首を振った。
言葉だけではわからない。
「結納まで交わした美里さまを、どうして妻にしなかったのですか? きっと、清楚で慎ましいお方だったに違いありません」
なおも責めるように口にしてしまう。
「そうだな。確かにそうだった」
気にさわったのか、和馬の声は、怒ったようにぶっきらぼうになった。
「おれは、あの人を抱いたんだ」
「え?・・・」
突然の告白が、なぜか意外で声を上げてしまった。
気になっていたことをずばりと言われて動揺した。
煮え切らないから振られたと言っていたのではなかったか。
「ゆきを忘れたくて・・・。結納もすんだし、忘れさせてくれるなら、と思って抱いた。向こうもそれを望んでいたから」
言いようのない感情が胸を焦がした。
これは、嫉妬に違いない。
(ずっと嫉妬してた)
これは、梅太郎にも左京大夫にも感じなかったものだった。
「けど、忘れられなかった。かえってゆきが忘れられなくなってしまった。あの時の気持ちよさには及ばなくて・・・。ゆきと比べてしまっていた。・・・桜の堤で再会したとき、おれは、まだゆきへの思いを捨てきれていないと気付かされた。それからは、もう、だめだった」
「・・・」
「あの人を、抱けなくなってた。これじゃあ、捨てられて当然だ。もう、おれは、ゆきの体じゃなきゃ、だめなんだ。・・・それなのに、馬鹿なのは、おれの方さ。ゆきに・・・堕としてきた男たちと、比べられて、つまらないと思われるのが、怖い。・・・意気地なしなんだ」
「和馬さま・・・」
「笑われるのは、おれだ」
こんなに近くにいて、二人で悶々としていたのか。
考えたらおかしくなって笑ってしまった。
「笑ったな」
「おかしすぎます」
ひとしきり笑ったら、もうすっきりしていた。
「和馬さま。私も、どんな和馬さまでもいいのです」
ゆきの中で、しつこく残っていた、嫉妬する気持ちが露と消えていったのを感じた。
和馬にまたがる格好になる。
あのときと同じように、寝着を脱ぎ捨てて裸になった。
「こんないやらしい顔をするんだな」
和馬の手が伸びて、頬に触れた。
「大きくなった乳首も乳房も、もう濡れてるここも、とんでもなくいやらしい・・・」
「言わないで。恥ずかしい」
言いながらも、躊躇いもなく、和馬の着物の前をはだけていく。
「うっ・・・触られるだけでいきそうだ」
「嬉しい」
すでに大きくはち切れそうなほど硬くなった男根に、腰を沈めていく。
自分の中に収めていくだけで、体が喜んで満たされた。
脈打つ和馬を感じる。
もっと感じたくて、腰を動かした。
締まらないんじゃないかと心配になったが、ゆきの中は、久しぶりの男を逃さないように絡みつくようだ。
和馬も腰を突き上げるようにし、授乳のために大きくなり迫力を増した乳房を下から揉み上げる。
「あ、あ、ああ・・・ん、うんん・・・はあ、ん・・・」
快感が体を突き抜けて、はしたなく喘ぎ声が漏れる。
「ゆき・・・」
「和馬さま・・・」
和馬が上体を起こして、唇を重ねて吸い付いた。
舌を絡めて、お互いの口腔を犯す。
吐息が、唾液が混じり合い、愛液が溢れ出す。
繋がりあったまま、ゆきを仰向けに寝かせ、母乳が滲み出る乳首をつまむと、腰が跳ね、和馬を締め付けた。
「もう、だめだ・・・出る」
いくらなんでも早すぎる。
腰を数回激しく打ちつけて、和馬が果てた。
「ごめん・・・嬉しすぎて・・・」
抱き締めて、余韻に浸った。
「ううん、幸せ・・・」
ゆきも十分に満たされている。
名残惜しそうに、きゅんと締め付けたままだった。
その時、隣の部屋で、京太が泣き出した。
京太に乳を飲ませ、おしめを替えて寝かしつけると、和馬の部屋に戻った。
が、もう和馬は、裸に寝着を羽織ったまま眠ってしまっていた。
「そうだ」
いいことを思いついたゆきは、そっと襖を開けて、眠る京太を抱き上げると、和馬の隣に寝かせる。
そして夜具を引っ張ってきて、隣にくっつけて敷くと、京太をそちらに移し、自分が和馬の横に寝る。
体を密着させて、眠りにつくのだ。
愛する人と、朝までこうして眠ることが夢だったことを思い出していた。
ついたままになっていた灯りを消して、和馬の隣に、体を滑り込ませた。
<了>
和馬が受け止めきれずによろけたために、折り重なって夜具に倒れ込んだ。
「何を言っている。当たり前じゃないか」
「なら、どうして、抱いてくださらないのですか?」
「それは、京太の世話で疲れていると思って・・・」
そう言い訳する和馬は口ごもる。
夜泣きでなかなか眠れないこともあり、気遣ってくれているのだとわかっているのだが、なじらずにはいられない。
「愛しているなら、抱いてください。それとも、子供を産んだ体は抱く気にもなりませんか」
言ってしまってから、妙に恥ずかしくなって、抱きついたまま、顔があげられなかった。
「そんなことはない」
ゆきにとって、愛することは、体を重ねることと同じだ。
抱かれなければ、愛されていることにはならない。
男たちはそうやって、ゆきを愛してきた。
愛がなくても、欲望だけで男は女を抱けるものだ。
初めのうちは、嫌悪しかなかったのに、体を重ねるごとに、相手を理解し、愛が深まることを、芸者になって知った。
体から始まったとしても、ゆきは、梅太郎を愛し、左京大夫を愛していた。
そんな花街の流儀が体に染み付いてしまっている。
本当は、抱いて抱いて抱き潰すくらい抱いてほしい。
愛しているから抱かないという感覚が、ゆきにはわからない。
ここへ連れてこられた時は、生きるか死ぬかの怪我を負っていたし、怪我が治ってからはお腹が大きくなっていき、生まれてからは赤子の世話でかかりっきりになった。
仕方がないと言えば、そうなのだが、抱かない愛の形が、いまいち理解できていなかった。
もう半年ほども、体を重ねないままきている。
いや、もっと。
あのときの一度きりしか、和馬とはしていないことになる。
乳飲子を育ててはいるが、一人の女として見てほしい欲がむくむくと大きくなってくるのを我慢できなくなっていた。
体が寂しくて仕方がないのだ。
頭ではわかっている。
和馬が自分を愛してくれていることは、よくわかっていた。
わかっていても、体は満たされない。
「愛しているに決まっている」
その言葉に嘘はないことも知っている。
だが、もう限界だ。
「こんな、淫乱な私を、蔑んでください。和馬さまの妻にはふさわしくありません」
自分が情けなさすぎて、つい口走ってしまった。
「またそんなことを言う。どんなゆきでもいいと言ってるだろう」
ゆきは首を振った。
言葉だけではわからない。
「結納まで交わした美里さまを、どうして妻にしなかったのですか? きっと、清楚で慎ましいお方だったに違いありません」
なおも責めるように口にしてしまう。
「そうだな。確かにそうだった」
気にさわったのか、和馬の声は、怒ったようにぶっきらぼうになった。
「おれは、あの人を抱いたんだ」
「え?・・・」
突然の告白が、なぜか意外で声を上げてしまった。
気になっていたことをずばりと言われて動揺した。
煮え切らないから振られたと言っていたのではなかったか。
「ゆきを忘れたくて・・・。結納もすんだし、忘れさせてくれるなら、と思って抱いた。向こうもそれを望んでいたから」
言いようのない感情が胸を焦がした。
これは、嫉妬に違いない。
(ずっと嫉妬してた)
これは、梅太郎にも左京大夫にも感じなかったものだった。
「けど、忘れられなかった。かえってゆきが忘れられなくなってしまった。あの時の気持ちよさには及ばなくて・・・。ゆきと比べてしまっていた。・・・桜の堤で再会したとき、おれは、まだゆきへの思いを捨てきれていないと気付かされた。それからは、もう、だめだった」
「・・・」
「あの人を、抱けなくなってた。これじゃあ、捨てられて当然だ。もう、おれは、ゆきの体じゃなきゃ、だめなんだ。・・・それなのに、馬鹿なのは、おれの方さ。ゆきに・・・堕としてきた男たちと、比べられて、つまらないと思われるのが、怖い。・・・意気地なしなんだ」
「和馬さま・・・」
「笑われるのは、おれだ」
こんなに近くにいて、二人で悶々としていたのか。
考えたらおかしくなって笑ってしまった。
「笑ったな」
「おかしすぎます」
ひとしきり笑ったら、もうすっきりしていた。
「和馬さま。私も、どんな和馬さまでもいいのです」
ゆきの中で、しつこく残っていた、嫉妬する気持ちが露と消えていったのを感じた。
和馬にまたがる格好になる。
あのときと同じように、寝着を脱ぎ捨てて裸になった。
「こんないやらしい顔をするんだな」
和馬の手が伸びて、頬に触れた。
「大きくなった乳首も乳房も、もう濡れてるここも、とんでもなくいやらしい・・・」
「言わないで。恥ずかしい」
言いながらも、躊躇いもなく、和馬の着物の前をはだけていく。
「うっ・・・触られるだけでいきそうだ」
「嬉しい」
すでに大きくはち切れそうなほど硬くなった男根に、腰を沈めていく。
自分の中に収めていくだけで、体が喜んで満たされた。
脈打つ和馬を感じる。
もっと感じたくて、腰を動かした。
締まらないんじゃないかと心配になったが、ゆきの中は、久しぶりの男を逃さないように絡みつくようだ。
和馬も腰を突き上げるようにし、授乳のために大きくなり迫力を増した乳房を下から揉み上げる。
「あ、あ、ああ・・・ん、うんん・・・はあ、ん・・・」
快感が体を突き抜けて、はしたなく喘ぎ声が漏れる。
「ゆき・・・」
「和馬さま・・・」
和馬が上体を起こして、唇を重ねて吸い付いた。
舌を絡めて、お互いの口腔を犯す。
吐息が、唾液が混じり合い、愛液が溢れ出す。
繋がりあったまま、ゆきを仰向けに寝かせ、母乳が滲み出る乳首をつまむと、腰が跳ね、和馬を締め付けた。
「もう、だめだ・・・出る」
いくらなんでも早すぎる。
腰を数回激しく打ちつけて、和馬が果てた。
「ごめん・・・嬉しすぎて・・・」
抱き締めて、余韻に浸った。
「ううん、幸せ・・・」
ゆきも十分に満たされている。
名残惜しそうに、きゅんと締め付けたままだった。
その時、隣の部屋で、京太が泣き出した。
京太に乳を飲ませ、おしめを替えて寝かしつけると、和馬の部屋に戻った。
が、もう和馬は、裸に寝着を羽織ったまま眠ってしまっていた。
「そうだ」
いいことを思いついたゆきは、そっと襖を開けて、眠る京太を抱き上げると、和馬の隣に寝かせる。
そして夜具を引っ張ってきて、隣にくっつけて敷くと、京太をそちらに移し、自分が和馬の横に寝る。
体を密着させて、眠りにつくのだ。
愛する人と、朝までこうして眠ることが夢だったことを思い出していた。
ついたままになっていた灯りを消して、和馬の隣に、体を滑り込ませた。
<了>
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