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仕舞
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ゆきは順調に回復し、お腹も大きくなっていった。
体を動かせるようになって、心も落ち着いてきた。
何もせずに寝ているよりも、家事をしていると気が紛れて、戻ってきたのだという実感がわいてくる。
月日は容赦なくすぎていった。
紗江の言った通りに、噂は次第に聞かれなくなっていったが、それでも、好奇な目は注がれている。
ゆきのお腹が隠せないのだ。
和馬の子ではないのは明白だった。
だけど、そのことで、もう和馬にも世間にも、負い目を感じることはなかった。
ただ、和馬の覚悟が嬉しくて、素直に甘える気持ちになっている。
左京大夫の子を授かったことを、誇りに思い、和馬と一緒に育てていきたいと思っていた。
春が来て、無事に元気な男の子が生まれた。
平助も泣いて喜んでくれた。
世話好きな紗江が、初めての出産に大きな助けとなってくれた。
和馬が危なっかしい手つきで赤子を抱いている。
「かわいいな。・・・やっぱりお殿さまに似てないか?」
赤子の顔をしみじみと見て言った。
「旦那、それ今言うことじゃないでしょうよ」
平助が咎めた。
「なぜだ。いいじゃないか。きっと男前になる」
「そうですね」
ゆきが笑顔で応じている。
「ちょっと、ゆきちゃんまで・・・わかんないなあ。可愛いのはわかるけど」
自分の子じゃなくても、赤子はかわいいのだ。
以前の恋人の子供を腕に抱きながら、その男を話題にするなど、他人には考えられないのかもしれない。
「やんちゃにならなきゃいいのだけど・・・」
思わず口に出してしまった。
「なりそうな気がする。なんたってお殿さまとゆきの子だから」
和馬がしきりにうなずいている。
「そうかしら」
「おれがビシッと躾けてやろう」
「はい。父上、頼りにしております」
「もう、やってらんねえや」
幸せそうに笑い合っている二人に、平助が不貞腐れたように言った。
「あら、平助、羨ましかったら、あんたの嫁さん探し、してあげようか」
紗江が面白がって、笑いながら言っている。
「紗江さま、それはいいですから」
「遠慮しなくてもいいわよ」
和馬が落ち着いたから、今度は平助に狙いを定めたようだ。
産後しばらくして、お染も会いに来てくれた。
「あら、可愛いわね」
京太と名付けた赤子をあやしながら、
「幸せそうで、安心したわ」
と、胸を撫で下ろすように言った。
「一時はどうなることかと思ったけど、深川もかつての賑わいが戻ってきているわよ」
「叔母さまは、もう芸者を?」
「あたしは引退しようかと思うの。若い子たちに三味線を教えて食べてもいけるし」
「え?」
叔母はもっと長く芸者を続けるものだと思っていた。
「いい機会だわ。あたしは、あんたを芸者として育てることができて、もう思い残すことはないの。芸は身を助けるというのは本当ね。芸者をやめても食べていけるのはありがたいわ。ゆきはどうするつもりなの? 本当に芸者はもうやらないの?」
「はい。決めました。寂しいと思うこともあるかもしれませんが、今は和馬さまのそばにいたい。そう決めたら、舞えなくてもいいと思えるようになりました」
「そう。ゆきが決めたのなら、そうしなさい」
叔母が、ニコニコ笑っている。
「強くなったわね」
「はい。鍛えていただきました」
数ヶ月が過ぎて、京太の夜泣きの回数も少なくなってきた。
今は、夜中に何度も起きるため、和馬とは隣の部屋で、母子二人で寝ている。
ゆきは、起きてしまった京太を寝かせると、思い切って、和馬の部屋の襖を開けて、中に入った。
和馬はちょうど、寝ようとしているところだった。
「もう寝た?」
「はい」
「夜中に何度も起きるのは疲れるだろう」
ゆきは何も言わずに和馬に近づき、抱きついた。
「もう待てません。抱いてくださいませ」
体を動かせるようになって、心も落ち着いてきた。
何もせずに寝ているよりも、家事をしていると気が紛れて、戻ってきたのだという実感がわいてくる。
月日は容赦なくすぎていった。
紗江の言った通りに、噂は次第に聞かれなくなっていったが、それでも、好奇な目は注がれている。
ゆきのお腹が隠せないのだ。
和馬の子ではないのは明白だった。
だけど、そのことで、もう和馬にも世間にも、負い目を感じることはなかった。
ただ、和馬の覚悟が嬉しくて、素直に甘える気持ちになっている。
左京大夫の子を授かったことを、誇りに思い、和馬と一緒に育てていきたいと思っていた。
春が来て、無事に元気な男の子が生まれた。
平助も泣いて喜んでくれた。
世話好きな紗江が、初めての出産に大きな助けとなってくれた。
和馬が危なっかしい手つきで赤子を抱いている。
「かわいいな。・・・やっぱりお殿さまに似てないか?」
赤子の顔をしみじみと見て言った。
「旦那、それ今言うことじゃないでしょうよ」
平助が咎めた。
「なぜだ。いいじゃないか。きっと男前になる」
「そうですね」
ゆきが笑顔で応じている。
「ちょっと、ゆきちゃんまで・・・わかんないなあ。可愛いのはわかるけど」
自分の子じゃなくても、赤子はかわいいのだ。
以前の恋人の子供を腕に抱きながら、その男を話題にするなど、他人には考えられないのかもしれない。
「やんちゃにならなきゃいいのだけど・・・」
思わず口に出してしまった。
「なりそうな気がする。なんたってお殿さまとゆきの子だから」
和馬がしきりにうなずいている。
「そうかしら」
「おれがビシッと躾けてやろう」
「はい。父上、頼りにしております」
「もう、やってらんねえや」
幸せそうに笑い合っている二人に、平助が不貞腐れたように言った。
「あら、平助、羨ましかったら、あんたの嫁さん探し、してあげようか」
紗江が面白がって、笑いながら言っている。
「紗江さま、それはいいですから」
「遠慮しなくてもいいわよ」
和馬が落ち着いたから、今度は平助に狙いを定めたようだ。
産後しばらくして、お染も会いに来てくれた。
「あら、可愛いわね」
京太と名付けた赤子をあやしながら、
「幸せそうで、安心したわ」
と、胸を撫で下ろすように言った。
「一時はどうなることかと思ったけど、深川もかつての賑わいが戻ってきているわよ」
「叔母さまは、もう芸者を?」
「あたしは引退しようかと思うの。若い子たちに三味線を教えて食べてもいけるし」
「え?」
叔母はもっと長く芸者を続けるものだと思っていた。
「いい機会だわ。あたしは、あんたを芸者として育てることができて、もう思い残すことはないの。芸は身を助けるというのは本当ね。芸者をやめても食べていけるのはありがたいわ。ゆきはどうするつもりなの? 本当に芸者はもうやらないの?」
「はい。決めました。寂しいと思うこともあるかもしれませんが、今は和馬さまのそばにいたい。そう決めたら、舞えなくてもいいと思えるようになりました」
「そう。ゆきが決めたのなら、そうしなさい」
叔母が、ニコニコ笑っている。
「強くなったわね」
「はい。鍛えていただきました」
数ヶ月が過ぎて、京太の夜泣きの回数も少なくなってきた。
今は、夜中に何度も起きるため、和馬とは隣の部屋で、母子二人で寝ている。
ゆきは、起きてしまった京太を寝かせると、思い切って、和馬の部屋の襖を開けて、中に入った。
和馬はちょうど、寝ようとしているところだった。
「もう寝た?」
「はい」
「夜中に何度も起きるのは疲れるだろう」
ゆきは何も言わずに和馬に近づき、抱きついた。
「もう待てません。抱いてくださいませ」
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