25個のスイーツのあとで

かじや みの

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3−1 始まりのチョコレートケーキ

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 新年がスタートし、新しいことを始めるのに、とてもいい時期だ。

 なりたい自分って何だろう。

 実家から帰ってからも、そのことばかり考えている。
 でも、痩せたいことくらいしか、出てこなかった。

 年末年始に痩せられるわけもなく、おせち料理をはじめ、実家でご馳走を食べてきたツケがたくさん溜まってしまった。

「さあ、美香。何をするつもり?」

 お昼の休憩室。
 るみが先月のことをちゃんと覚えていてくれる。

「今日は、パンは我慢します」
「おお~。やるじゃん」
「褒めて褒めて~~」

 美香の目の前には、お弁当だけ。

「でもそれだけじゃ、ずぐもとに戻っちゃうよ」
「そうだよね」
 一時的にパンをやめても、我慢は続かずに爆発してやけ食いしてしまうパターンを何度繰り返してきたことだろう。

「そのうちに、それも、手作りにしようね」
「あははは・・・」
「返事ー」
「はーい」
「また暇な時に作り方教えてあげるからね」

 先月からそう言っていて、まだ実現していない。

 るみには旦那がいるので、仕事が終わってからも、休みの日も、なかなかに忙しい。

「ぼちぼちでいいよ。自信ないし」
「運動はどう?」
「私にできると思ってる?」
「苦手だよね。わかってる。でも朝ジムに行ってから出社って、かっこいいじゃない」
「マジで言ってる?」
「歩いて来るとか」
「それしかない思うけど・・・」
「だから、なりたい未来が必要なんでしょ。何もなしで続くわけないんだから」
「ごめんなさい」
 思わずうつむいてしまった。
「ほら、それもだめ」
 すぐにあきらめてしまう癖がある。
「るみ、コーチみたい」
「そうよ。ビシビシ鍛えるからね。私ももう見たくないの。美香が振られるの」
「ありがとう。頑張るね」

 るみはきっと自分が幸せな結婚をしているから、美香のことを気にしてくれているのだ。
 ありがたいと思う。
 心が、それだけであたたかくなる。
 自分のことをこうして気にかけてくれる友達がいてくれて嬉しかった。

「美香の幸せは何?」

 それで会話は終わりではなく、本気のるみからの質問が飛んできた。

「うーん。もちろん、食べること」
「じゃあ、何が食べたいの?」
「美味しいもの」
「どこで?」
「別にどこだって・・・」
「ちゃんと考えて。場所も大切よ」
「うーーん・・・」

 お弁当を平らげて、お茶を飲みながら考える。

「ホテルで、ランチとか、ディナーとか。・・・て、無理すぎん?」
「いいの。今は妄想で」
「そっか。妄想ね」
「妄想はただだから。お金が、なんて思わないで」
「なんか、楽しくなってきた」
「それは、明日までの宿題ね」

 お昼休憩の時間はあっという間に過ぎてしまった。



 2月に入り、美香は新幹線に乗っていた。

 さすがにグリーン車には乗れず、それでも指定席なのは、るみが予約してくれたからだ。
 そうでもしなければ、怖気付いて、やっぱやめると言い出しかねないから。

 東京までの贅沢な旅だった。

 るみコーチの導きで、美香が出した答えは、

「有名ホテルでお茶ができるできる自分になる」だ。

 旅行でホテルに泊まるなんて、家族旅行以外にない。
 働くようになってからはなおさら、休日の旅行は人が多いのと、割高で手が出なかった。
 日帰りでちょこちょこ行くだけになっている。

 東京のホテルとは、美香にとっては手の届かない、別世界だ。。

 そのホテルに、スイーツを食べに行くのが目的の旅だった。

 なんて贅沢な旅だろうか。

 もちろん日帰りだ。

 泊まるなんて、夢のまた夢の話。

 いつかは出来たらいいなあ、と思う。
 妄想はただだから、思いっきり描いてみた。

「はい、行ってらっしゃい。実際に行って、その世界をのぞいていらっしゃい」
「ええーーっ。無理無理無理。第一そんなところに行く服とか持ってないもん」

 美香は、会社に行く時も帰る時も、事務服を着たままだ。

 着替えて遊びに行く子もいるけど、買い物くらいなら、その格好のまま行ってしまう。

 別に変な顔をされるわけでなし、会社帰りだとバレバレでも気にならなかった。

 休日も、ファストファッションで事足りてしまう。
 平凡なぽっちゃりさんには、おしゃれなんて似合わない。
 そう思ってきたから。

「何着ていけばいいの?」
「スーツでいいんじゃない? 足出すの嫌ならパンツスーツで。仕事の合間にお茶しに来ましたって感じでさ」
「でも土曜日だよ」
「土曜でも仕事してる人くらいいるでしょ」
「まあ、そうだよね」

 と、状況を作り込んで、この日のために準備してきた。

「るみもついてきてよー」
「だめ。こういうのは一人でいかないと」
「むうぅ・・・」
 恨めしそうな目で見ても、るみは首を縦に振ってはくれなかった。

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