25個のスイーツのあとで

かじや みの

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2 新年の福餅

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 年末年始は毎年実家に帰る。

 実家があるのは、三重県の伊勢市。
 伊勢神宮のお膝元だ。

 内宮と外宮があるが、西園寺家はどちらかというと外宮に近い。

 駅に降り立つと、見慣れた景色にほっとする。

 歩いて行けないこともないが、荷物があるだろうからと、車で迎えに来てくれる。

「美香」
 娘に甘い父が、ロータリーに車を停めた。

「おかえり」
「パパ、ただいま。みんな元気?」
「まあな」

 ごくごく普通の家庭である。
 名家ということもない。
 大昔はそうだったのかもしれないが、大きな家に住んでいるわけでも、商売をしているわけでもなく、団地の一角の一軒家だった。
 公務員の両親と、まだ独身の姉が住む家は、子供の頃と何も変わっていない。

 実家に帰ると、それまでにあったことがリセットされたように、頭の中から消えてしまう気がする。

 この家で暮らした記憶が強くよみがえり、美香の頭の中を支配する。

「やっぱ、落ち着くね、家は」

「いつでも帰ってきていいんだぞ」

「もう、パパは美香に甘すぎよ」

 高校生の頃は、そんな父に反発し、家を出たくて名古屋の大学に進学したのだった。

 家を離れたことで、その良さがわかるという、絵に描いたような典型的な経験をした。
 家族と暮らすことが、本当にかけがえのないことなのだと今はわかる。

 でも、帰るつもりはなかった。
 帰ってしまったら、もっと甘えてしまうから。

 夕食はすき焼きだ。
 お肉の焼けるいい匂いが食欲をそそる。

 新年を迎えたら、新しい自分になる。

 神様にもそう、毎年宣言しているつもりなのに、ここ数年、何も変わっていなかった。

「ねえ、お姉ちゃん。自炊すると痩せるってほんと?」
 お肉を頬張りながら、姉に聞いてみる。
「なあに? 美香、痩せたいと思ってるんだ」
「そりゃあ、思ってるわよ」
 姉の薫は、標準体重をキープしているようだ。
 母も働いているから、二人で代わりばんこに食事を作っているらしい。
 姉の姿を見ていても、それは嘘ではない気がした。

「痩せると思うよ。栄養バランス考えたりするしね。でも、美香にできるかどうか」
「やっぱり無理だと思う?」
「それは、やる気次第でしょ。やるのは美香なんだから」
「毎日は、無理かも。料理得意じゃないし」
「毎日じゃなくてもいいんじゃないの。悩んでたら痩せないわよ。決めないと」
「決める?」
「痩せるって決めるの」
「決めてるつもりなんだけどなあ」
「甘い甘い」
「甘いとだめなのかなあ。甘いの大好きなんだけど」

「美香は甘くていいんだ」
 父が言った。

「もう。甘いのはパパだった」
 姉がため息をついた。

「彼氏なんて作らなくていいからな。連れてくるならパパよりもいい男じゃないと認めない」
「パパの方が決めちゃってるね」



 伊勢の新年は、人人人!
 神宮周辺は人で溢れかえる。

 地元の人間は、参拝者の少ない時間帯を狙うか、時期を外す。

 でも、美香はいつまでもいられないから、仕方なく人の波に呑み込まれながら、参拝の列に並んだ。

 そして、ここでも、列に並ぶ。

 参拝者のお目当ての一つ、おかげ横丁。

 出来立ての、こし餡が乗った餅が食べられる。

 美香も、伊勢に帰ったら必ず食べる餅だった。

 両親も姉も、もっと人が少なくなってからくるつもりで、今日は美香一人で来ていた。

 客の回転が早いから、少し待っていれば席はあく。

 新しい年に、願いを込めて食べる餅。

 実は、名古屋でもお土産で売っているこの餅は、食べようと思えばいつでも食べられる。

 それでも、ここ、伊勢で、食べる餅は格別だ。
 味も違う気がする。

「んんーー」
 滑らかなあんこの甘さが、口いっぱいに広がる。
 甘すぎないので、いくらでも入ってしまう。

 今年こそ、痩せます!
 と神様に宣言してきた。

 姉が言っていたように、決めてきた。

 けれど、誓ったのに、もう、甘いもの?と思われるかもしれないが、罪悪感はない。

 一年後、またここに戻ってきた時には、きっと違う自分になっていたい。

 ここから始めるための誓いの餅だ。

 名古屋に帰る電車の中で、美香は新たに決意する。

 お金持ちになりたければ、お金がなくてもお金持ちの気持ちで過ごせば、お金を引き寄せられるという。

 年末年始の休みの間に、自分はどうなりたいのか、ずっと考えてきた。

 帰ったら、それを実行する。
 今年こそ、できる。

 痩せるためではなくて、自分のためにそれをして、結果的に痩せていればいい。

 今までとは違うことをしないと、きっと現実は動かないのだ。

 はじめの一歩を、踏み出す準備は整った。
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