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2 新年の福餅
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年末年始は毎年実家に帰る。
実家があるのは、三重県の伊勢市。
伊勢神宮のお膝元だ。
内宮と外宮があるが、西園寺家はどちらかというと外宮に近い。
駅に降り立つと、見慣れた景色にほっとする。
歩いて行けないこともないが、荷物があるだろうからと、車で迎えに来てくれる。
「美香」
娘に甘い父が、ロータリーに車を停めた。
「おかえり」
「パパ、ただいま。みんな元気?」
「まあな」
ごくごく普通の家庭である。
名家ということもない。
大昔はそうだったのかもしれないが、大きな家に住んでいるわけでも、商売をしているわけでもなく、団地の一角の一軒家だった。
公務員の両親と、まだ独身の姉が住む家は、子供の頃と何も変わっていない。
実家に帰ると、それまでにあったことがリセットされたように、頭の中から消えてしまう気がする。
この家で暮らした記憶が強くよみがえり、美香の頭の中を支配する。
「やっぱ、落ち着くね、家は」
「いつでも帰ってきていいんだぞ」
「もう、パパは美香に甘すぎよ」
高校生の頃は、そんな父に反発し、家を出たくて名古屋の大学に進学したのだった。
家を離れたことで、その良さがわかるという、絵に描いたような典型的な経験をした。
家族と暮らすことが、本当にかけがえのないことなのだと今はわかる。
でも、帰るつもりはなかった。
帰ってしまったら、もっと甘えてしまうから。
夕食はすき焼きだ。
お肉の焼けるいい匂いが食欲をそそる。
新年を迎えたら、新しい自分になる。
神様にもそう、毎年宣言しているつもりなのに、ここ数年、何も変わっていなかった。
「ねえ、お姉ちゃん。自炊すると痩せるってほんと?」
お肉を頬張りながら、姉に聞いてみる。
「なあに? 美香、痩せたいと思ってるんだ」
「そりゃあ、思ってるわよ」
姉の薫は、標準体重をキープしているようだ。
母も働いているから、二人で代わりばんこに食事を作っているらしい。
姉の姿を見ていても、それは嘘ではない気がした。
「痩せると思うよ。栄養バランス考えたりするしね。でも、美香にできるかどうか」
「やっぱり無理だと思う?」
「それは、やる気次第でしょ。やるのは美香なんだから」
「毎日は、無理かも。料理得意じゃないし」
「毎日じゃなくてもいいんじゃないの。悩んでたら痩せないわよ。決めないと」
「決める?」
「痩せるって決めるの」
「決めてるつもりなんだけどなあ」
「甘い甘い」
「甘いとだめなのかなあ。甘いの大好きなんだけど」
「美香は甘くていいんだ」
父が言った。
「もう。甘いのはパパだった」
姉がため息をついた。
「彼氏なんて作らなくていいからな。連れてくるならパパよりもいい男じゃないと認めない」
「パパの方が決めちゃってるね」
伊勢の新年は、人人人!
神宮周辺は人で溢れかえる。
地元の人間は、参拝者の少ない時間帯を狙うか、時期を外す。
でも、美香はいつまでもいられないから、仕方なく人の波に呑み込まれながら、参拝の列に並んだ。
そして、ここでも、列に並ぶ。
参拝者のお目当ての一つ、おかげ横丁。
出来立ての、こし餡が乗った餅が食べられる。
美香も、伊勢に帰ったら必ず食べる餅だった。
両親も姉も、もっと人が少なくなってからくるつもりで、今日は美香一人で来ていた。
客の回転が早いから、少し待っていれば席はあく。
新しい年に、願いを込めて食べる餅。
実は、名古屋でもお土産で売っているこの餅は、食べようと思えばいつでも食べられる。
それでも、ここ、伊勢で、食べる餅は格別だ。
味も違う気がする。
「んんーー」
滑らかなあんこの甘さが、口いっぱいに広がる。
甘すぎないので、いくらでも入ってしまう。
今年こそ、痩せます!
と神様に宣言してきた。
姉が言っていたように、決めてきた。
けれど、誓ったのに、もう、甘いもの?と思われるかもしれないが、罪悪感はない。
一年後、またここに戻ってきた時には、きっと違う自分になっていたい。
ここから始めるための誓いの餅だ。
名古屋に帰る電車の中で、美香は新たに決意する。
お金持ちになりたければ、お金がなくてもお金持ちの気持ちで過ごせば、お金を引き寄せられるという。
年末年始の休みの間に、自分はどうなりたいのか、ずっと考えてきた。
帰ったら、それを実行する。
今年こそ、できる。
痩せるためではなくて、自分のためにそれをして、結果的に痩せていればいい。
今までとは違うことをしないと、きっと現実は動かないのだ。
はじめの一歩を、踏み出す準備は整った。
実家があるのは、三重県の伊勢市。
伊勢神宮のお膝元だ。
内宮と外宮があるが、西園寺家はどちらかというと外宮に近い。
駅に降り立つと、見慣れた景色にほっとする。
歩いて行けないこともないが、荷物があるだろうからと、車で迎えに来てくれる。
「美香」
娘に甘い父が、ロータリーに車を停めた。
「おかえり」
「パパ、ただいま。みんな元気?」
「まあな」
ごくごく普通の家庭である。
名家ということもない。
大昔はそうだったのかもしれないが、大きな家に住んでいるわけでも、商売をしているわけでもなく、団地の一角の一軒家だった。
公務員の両親と、まだ独身の姉が住む家は、子供の頃と何も変わっていない。
実家に帰ると、それまでにあったことがリセットされたように、頭の中から消えてしまう気がする。
この家で暮らした記憶が強くよみがえり、美香の頭の中を支配する。
「やっぱ、落ち着くね、家は」
「いつでも帰ってきていいんだぞ」
「もう、パパは美香に甘すぎよ」
高校生の頃は、そんな父に反発し、家を出たくて名古屋の大学に進学したのだった。
家を離れたことで、その良さがわかるという、絵に描いたような典型的な経験をした。
家族と暮らすことが、本当にかけがえのないことなのだと今はわかる。
でも、帰るつもりはなかった。
帰ってしまったら、もっと甘えてしまうから。
夕食はすき焼きだ。
お肉の焼けるいい匂いが食欲をそそる。
新年を迎えたら、新しい自分になる。
神様にもそう、毎年宣言しているつもりなのに、ここ数年、何も変わっていなかった。
「ねえ、お姉ちゃん。自炊すると痩せるってほんと?」
お肉を頬張りながら、姉に聞いてみる。
「なあに? 美香、痩せたいと思ってるんだ」
「そりゃあ、思ってるわよ」
姉の薫は、標準体重をキープしているようだ。
母も働いているから、二人で代わりばんこに食事を作っているらしい。
姉の姿を見ていても、それは嘘ではない気がした。
「痩せると思うよ。栄養バランス考えたりするしね。でも、美香にできるかどうか」
「やっぱり無理だと思う?」
「それは、やる気次第でしょ。やるのは美香なんだから」
「毎日は、無理かも。料理得意じゃないし」
「毎日じゃなくてもいいんじゃないの。悩んでたら痩せないわよ。決めないと」
「決める?」
「痩せるって決めるの」
「決めてるつもりなんだけどなあ」
「甘い甘い」
「甘いとだめなのかなあ。甘いの大好きなんだけど」
「美香は甘くていいんだ」
父が言った。
「もう。甘いのはパパだった」
姉がため息をついた。
「彼氏なんて作らなくていいからな。連れてくるならパパよりもいい男じゃないと認めない」
「パパの方が決めちゃってるね」
伊勢の新年は、人人人!
神宮周辺は人で溢れかえる。
地元の人間は、参拝者の少ない時間帯を狙うか、時期を外す。
でも、美香はいつまでもいられないから、仕方なく人の波に呑み込まれながら、参拝の列に並んだ。
そして、ここでも、列に並ぶ。
参拝者のお目当ての一つ、おかげ横丁。
出来立ての、こし餡が乗った餅が食べられる。
美香も、伊勢に帰ったら必ず食べる餅だった。
両親も姉も、もっと人が少なくなってからくるつもりで、今日は美香一人で来ていた。
客の回転が早いから、少し待っていれば席はあく。
新しい年に、願いを込めて食べる餅。
実は、名古屋でもお土産で売っているこの餅は、食べようと思えばいつでも食べられる。
それでも、ここ、伊勢で、食べる餅は格別だ。
味も違う気がする。
「んんーー」
滑らかなあんこの甘さが、口いっぱいに広がる。
甘すぎないので、いくらでも入ってしまう。
今年こそ、痩せます!
と神様に宣言してきた。
姉が言っていたように、決めてきた。
けれど、誓ったのに、もう、甘いもの?と思われるかもしれないが、罪悪感はない。
一年後、またここに戻ってきた時には、きっと違う自分になっていたい。
ここから始めるための誓いの餅だ。
名古屋に帰る電車の中で、美香は新たに決意する。
お金持ちになりたければ、お金がなくてもお金持ちの気持ちで過ごせば、お金を引き寄せられるという。
年末年始の休みの間に、自分はどうなりたいのか、ずっと考えてきた。
帰ったら、それを実行する。
今年こそ、できる。
痩せるためではなくて、自分のためにそれをして、結果的に痩せていればいい。
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はじめの一歩を、踏み出す準備は整った。
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