25個のスイーツのあとで

かじや みの

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4−2 再会のメロンパン

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 警戒心が緩んだのは、ここがホームグラウンドだから。

 そして、エレベーター内から見る景色の凄さと、非日常感が、正常な思考を妨げた。

「申し遅れました。僕はこういう者です」

 外の景色が見えることで閉塞感がなく、二人きりだということを忘れてしまいそうになるが、名刺を差し出されて向き合うと、急に現実に引き戻されたような気になった。

「西野京一郎です」
「ライターをなさっていらっしゃるのですね」
「ええ。全国を旅行して、ホテルや観光地の記事を書いています。これからの会食も、新メニューの試食会ですよ」
「お仕事なんですね。東京にもお仕事で?」
「そうです」
「旅慣れていらっしゃるのですね。私は・・・」

 あまり取り出したことのない名刺入れを、慌ててうちボケットから出した。

「西園寺美香です」
「西園寺さん」
「そんな苗字ですけど、名家でもなんでもありませんよ。ごく普通の家ですから」
 苦笑して、初対面の人にいつも言う言葉を西野にも言った。

「素敵なお名前ですね」

 名前だけはね、と心の中で呟くのもいつものことだった。

「会社はお近くなのですか?」
「はい」

 話しているうちに、エレベーターが止まり、ドアが開いた。

「どうぞ」
「ありがとうございます」

 降りたところは、最上階ではなかった。

「え?」
「こちらです」
 にこりと甘い微笑を浮かべて、立ち尽くす美香をうながした。

 ホテルのフロアだ。

 しかも・・・。

 西野がドアを開けたのは、スイートルームだった。

 美香が、これまでも、これからもきっと縁のない部屋。

「どうぞ」
「でも・・・」
「遠慮はいりませんよ」

 そういうことじゃなくて・・・。

 あり得ないとわかっていても、変な想像が、頭の中で勝手に繰り広げられて、美香の頬が赤くなる。

「一人ではもったいないと思いまして。メロンパンのお詫びには、とてもなりませんが」
「・・・」
「お気に召しませんか」

 スイートルームへの好奇心と、ここまでついてきてしまったのだからと覚悟を決めて、足を踏み入れた。

 一面のガラス窓の向こうは、絶景だった。

 ある意味、最上階のレストランよりも贅沢な景色だと思った。
 ここに泊まった人が、独り占めできる景色。

「わあ! すごい。宇宙にいるみたい」

 さっきとはまるで違って、街の明かりがはるか下の方にあり、星のように輝いていた。
 暗くなりきっていない空が、地平線でオレンジのグラデーションになっている。

 窓の外を呆然と眺めている間に、西野がキッチンでコーヒーを淹れていた。

 いい匂いが鼻腔を満たし、人が動き何かをしている音が耳を心地よく打つ。

「どうぞ」
 テーブルにカップを置いた。

 東京で見た王子様に劣らない、さまになるスタイルで。

 そして、低く、心地よい声。

 本当の贅沢というのは、こういうことを言うのだと思った。

 素直にテーブルにつき、コーヒーを飲んだ。

「やはりいいですね。あなたの幸せそうな顔が見られて僕も嬉しい。お会いできてよかった」

 かけられるその言葉も、夢の中の出来事のような気がして、美香は曖昧な微笑を浮かべた。

「本当に、夢みたい」
 そう口にも出してしまった。

 夢はすぐに覚める。

「ゆっくりしていってください。僕はもう行きます。好きなだけいていいですよ」

「ありがとうございます。あの・・・ここで、メロンパン食べていってもいいですか」

「もちろんです」

 西野が出ていった後、メロンパンを袋から取り出した。

 少し潰れて、生地が割れたメロンパンをかじる。

 見た目は悪くても、中身は同じ。

「最高のメロンパンだね」

 そう呟いて笑ったが、なぜか涙が頬をつたって落ちていく。

 なんで・・・。

 お金持ちの気まぐれなんて、やめてほしい。

 綺麗で心地いいけれど、私のものではない。

 東京でも感じた寂しさを、ここでも感じていた。

 これはきっと、一人だから、ではないのだ。

 メロンパンを平らげ、コーヒーカップを洗って元に戻し、美香がいた痕跡を消してから部屋を出た。

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