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5−1 ゴーストとさくらパフェ
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「ほんとね。西野京一郎なんて名前、どこにもないね」
るみがスマホをスクロールしながら眉をしかめた。
どんな記事を書いているのか気になって、あれから、ネットで名前を検索してみた。
SNSに至るまで探してみたのだが、見つけることができなかったのだ。
「騙されてんじゃない? ホイホイついていっちゃだめよ。美香はただでさえ騙されやすいんだから」
もったいないとけしかけたことを忘れているようだ。
「私を騙してどうするのよ。もう会うこともないんだし」
「ほんと、よくついていったわね。何者かも知らない男の人に」
「そうだよね。自分でもそう思う」
「責めてないよ。美香にしては上出来なんじゃない。幸せは自分で掴みにいかないと」
「ちょっと、どっちなの?」
ダメと言ったり、上出来と言ったり。
貶されているのか褒められているのかわからない。
でも、美香自身も、後悔してはいなかった。
ついていかなかったら、あの景色には出会えなかったのだ。
「名前が出せない理由があるんじゃないかな」
話題を西野に戻した。
「わかった。ゴーストライターとか?」
「そうかもね。ゴーストなのかも。この世に存在してないのかも。私に声をかけるなんて、あり得ないじゃん」
「こら、美香」
るみが、うつむいてしまった美香の肩を抱いた。
「自己肯定感低すぎ。なんのためにお金使って東京まで行ったの」
「やけ食いしそう」
「だめだめ。せっかく痩せてきたんだから。リバウンドしてもいいの?」
美香は首を振った。
「るみコーチぃ、ご指導お願いします」
「よしよし」
一人だったらきっともう元に戻っている。
やけ食いをやめただけで、今年は3キロ減っていた。
その夜、美香は、名刺に書かれたアドレスに、メールを書いた。
そうでもしないと、気になって仕方がなかったから。
何度も何度も読み返し、失礼にならないように書き直したりして推敲したため、数時間があっというまに過ぎた。
西野京一郎さま。
先日は、ありがとうございました。
どうしてもお礼が言いたくてメールしました。
西野さんがどんな記事を書かれているのか読んでみたくて、ネットを探してみたのですが、見つけられませんでした。
もしよろしければ、記事が掲載されている媒体などありましたら、教えていただけないでしょうか。
私は、昨年末、恋人と思っていた人に振られたことをきっかけに一念発起し、自分を上げるために、入ったことのない高級なホテルにお茶をしに行きました。
その時は、それで満足して、もう終わりにするつもりでしたが、日本中を旅されている西野さんにもう一度出会い、憧れてしまいました。
月に一日でも旅をして、美味しいものを食べられたらと思うようになりました。
西野さんの記事を参考にさせていただきたいなあ、とおこがましくもメールを差し上げた次第です。
お忙しいところ、おかしなメールを差し上げてしまい、申し訳ありません。
でも、よく考えたら、西野さんの行かれるところに、私が行けるはずもなく・・・。
笑って受け流してくださって結構です。
行けるかどうかは別にして、おすすめの場所などありましたら、教えていただけましたら嬉しく思います。
お気に障りましたらお返事なくても平気ですので、うっちゃってください。
お体大切になさってください。
西園寺美香
送信ボタンを押して、詰めていた息を吐いた。
(何やってるの、私)
これ、絶対痩せるわ。
体重計に乗ってみたいほどに、神経がすり減った。
どうして送っちゃったんだろうと、その後も恥ずかしくなって何度も後悔した。
だが、今さら取り消しもできない。
返事来ないで、と何度も念を送った。
その日は寝不足で、食欲もなくなり、翌朝出社したるみに心配されるほどだった。
次の日の夜、西野から返事が来た。
西園寺美香さま。
メールをくださりありがとうございます。
僕のことを探してくださったのですね。
とても嬉しいです。
もうおわかりかもしれませんが、僕の名前は、ネット上にはありません。
著名なライターのゴーストとして記事を書き、報酬をもらっています。
申し訳ないですが、契約上、記事をお見せすることはできません。
嘘を言ってしまったことになり、心苦しく思っています。
東京であなたをお見かけした時、原点に戻れた気がしたのです。
僕は、美味しいものを食べて幸せそうな顔をする美香さんのような人のために、記事を書いているのだと思い出したのです。
自分の名前なんて、どうでもよかった。
僕の書いた記事が、誰かの幸せのお役に立てればそれでいいのです。
いい加減な気持ちで声をかけたのではありません。
きっとキザなやつだと思われたことでしょう(笑)
再会した時に、ゆっくりお話しできなかったことをが悔やまれます。
お話するべきでしたね。
3月末か4月の初めに、京都へ行く予定です。
京都の桜を取材するのですが、もし美香さんの予定が合いましたら、少しだけでもご一緒しませんか。
桜の咲く時期に合わせての取材なので、日にちを指定するのはもう少し先になりますが、考えておいてください。
美味しいものを食べに行きましょう。
ご一緒できることを楽しみにしています。
西野京一郎
るみがスマホをスクロールしながら眉をしかめた。
どんな記事を書いているのか気になって、あれから、ネットで名前を検索してみた。
SNSに至るまで探してみたのだが、見つけることができなかったのだ。
「騙されてんじゃない? ホイホイついていっちゃだめよ。美香はただでさえ騙されやすいんだから」
もったいないとけしかけたことを忘れているようだ。
「私を騙してどうするのよ。もう会うこともないんだし」
「ほんと、よくついていったわね。何者かも知らない男の人に」
「そうだよね。自分でもそう思う」
「責めてないよ。美香にしては上出来なんじゃない。幸せは自分で掴みにいかないと」
「ちょっと、どっちなの?」
ダメと言ったり、上出来と言ったり。
貶されているのか褒められているのかわからない。
でも、美香自身も、後悔してはいなかった。
ついていかなかったら、あの景色には出会えなかったのだ。
「名前が出せない理由があるんじゃないかな」
話題を西野に戻した。
「わかった。ゴーストライターとか?」
「そうかもね。ゴーストなのかも。この世に存在してないのかも。私に声をかけるなんて、あり得ないじゃん」
「こら、美香」
るみが、うつむいてしまった美香の肩を抱いた。
「自己肯定感低すぎ。なんのためにお金使って東京まで行ったの」
「やけ食いしそう」
「だめだめ。せっかく痩せてきたんだから。リバウンドしてもいいの?」
美香は首を振った。
「るみコーチぃ、ご指導お願いします」
「よしよし」
一人だったらきっともう元に戻っている。
やけ食いをやめただけで、今年は3キロ減っていた。
その夜、美香は、名刺に書かれたアドレスに、メールを書いた。
そうでもしないと、気になって仕方がなかったから。
何度も何度も読み返し、失礼にならないように書き直したりして推敲したため、数時間があっというまに過ぎた。
西野京一郎さま。
先日は、ありがとうございました。
どうしてもお礼が言いたくてメールしました。
西野さんがどんな記事を書かれているのか読んでみたくて、ネットを探してみたのですが、見つけられませんでした。
もしよろしければ、記事が掲載されている媒体などありましたら、教えていただけないでしょうか。
私は、昨年末、恋人と思っていた人に振られたことをきっかけに一念発起し、自分を上げるために、入ったことのない高級なホテルにお茶をしに行きました。
その時は、それで満足して、もう終わりにするつもりでしたが、日本中を旅されている西野さんにもう一度出会い、憧れてしまいました。
月に一日でも旅をして、美味しいものを食べられたらと思うようになりました。
西野さんの記事を参考にさせていただきたいなあ、とおこがましくもメールを差し上げた次第です。
お忙しいところ、おかしなメールを差し上げてしまい、申し訳ありません。
でも、よく考えたら、西野さんの行かれるところに、私が行けるはずもなく・・・。
笑って受け流してくださって結構です。
行けるかどうかは別にして、おすすめの場所などありましたら、教えていただけましたら嬉しく思います。
お気に障りましたらお返事なくても平気ですので、うっちゃってください。
お体大切になさってください。
西園寺美香
送信ボタンを押して、詰めていた息を吐いた。
(何やってるの、私)
これ、絶対痩せるわ。
体重計に乗ってみたいほどに、神経がすり減った。
どうして送っちゃったんだろうと、その後も恥ずかしくなって何度も後悔した。
だが、今さら取り消しもできない。
返事来ないで、と何度も念を送った。
その日は寝不足で、食欲もなくなり、翌朝出社したるみに心配されるほどだった。
次の日の夜、西野から返事が来た。
西園寺美香さま。
メールをくださりありがとうございます。
僕のことを探してくださったのですね。
とても嬉しいです。
もうおわかりかもしれませんが、僕の名前は、ネット上にはありません。
著名なライターのゴーストとして記事を書き、報酬をもらっています。
申し訳ないですが、契約上、記事をお見せすることはできません。
嘘を言ってしまったことになり、心苦しく思っています。
東京であなたをお見かけした時、原点に戻れた気がしたのです。
僕は、美味しいものを食べて幸せそうな顔をする美香さんのような人のために、記事を書いているのだと思い出したのです。
自分の名前なんて、どうでもよかった。
僕の書いた記事が、誰かの幸せのお役に立てればそれでいいのです。
いい加減な気持ちで声をかけたのではありません。
きっとキザなやつだと思われたことでしょう(笑)
再会した時に、ゆっくりお話しできなかったことをが悔やまれます。
お話するべきでしたね。
3月末か4月の初めに、京都へ行く予定です。
京都の桜を取材するのですが、もし美香さんの予定が合いましたら、少しだけでもご一緒しませんか。
桜の咲く時期に合わせての取材なので、日にちを指定するのはもう少し先になりますが、考えておいてください。
美味しいものを食べに行きましょう。
ご一緒できることを楽しみにしています。
西野京一郎
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