16 / 37
9 自分軸のかき氷
しおりを挟む
返事は来なかった。
人は、わかっていても、どうしてやってしまうのだろう。
他の女の影なんて、彼女に知られたらやばいのに。
でも、春の京都で、チラッと見た女性は、元アイドルの女性とは違うような気がした。
ひと目につく駅の中で、あんな大胆なことができるとは思えない。
本当に光源氏みたいに何人も彼女がいるのかも知れなかった。
美香は、浅倉京一郎のことを何も知らない。
美香にとっては、西野を名乗る京一郎が、本物の彼の姿だった。
本名は、浅倉なのかもしれないが、そっちの方が嘘の京一郎のような気がした。
そう思いたいだけなのだろうが、もしそうなら、きっと届くはずだ。
関わりたくないとるみに言ったはずだったのに、メールをしてしまったことへの言い訳をそう分析してみる。
京一郎の言葉に嘘はなかったと思いたかった。
癒されると言ってくれた。
だから、お返しに、美味しそうなスイーツで癒されて欲しかった。
マスコミに追いかけられるのは、きっと、神経が擦り切れるほど気を遣うものだろうから。
今、できることをやってみるしかない。
あとで、後悔しないように。
自分のために。
このままで、いいわけ? 美香。
るみの言うことは正しい。
返事を期待していたわけではないから、美香も、それ以上は、メールもせずに放っておいた。
そして、テレビから、その話題が消えるのも早く、その後の二人がどうなったかの新たな報道もないようだった。
新しい情報が得られないまま、時はすぎ、8月のお盆休み、伊勢に帰った。
夏のお伊勢まいりに欠かせないもの。
それは、
赤福氷。
帰省中に、おかげ横丁で、必ず食べる。
このかき氷を食べるために帰るようなものだった。
抹茶のシロップがかけられた山盛りの氷の中に、あの、餅が入っている。
掘り出すのが楽しくて、子供のようにはしゃいてしまう。
今日は一人ではなく、地元で教師をしている亜由美と一緒だった。
独身同士なので遠慮なく誘える。
誘ってくれたのは、亜由美の方だったが。
写真を撮ってから、食べた。
この写真を、京一郎に送るつもりだった。
「ん~~。もう、夏はこれにかぎるわ~」
「出た。美香のそのリアクション。リバウンドしてなさそうね、よかったじゃん」
「でもね、減り方が少なくなって、上がったり下がったりなんだ」
「そりゃそうでしょ。何事もうまくいかないもんだって」
「そうよね」
「写真撮ってあげる。はい、笑って」
美香の素ではしゃいだ笑顔の写真を何枚か撮ってくれた。
「本当好きだよね。そりゃ、痩せれんわ」
「だよねえ。わかってくれる?」
「よかった、美香、あの後大丈夫だったかなって、心配だったの」
「智美の結婚式の後?」
「うん」
「ごめんね、途中で抜けちゃって。大丈夫だよ。やっぱりはしゃぎすぎて食べすぎたみたい。ちょっと我慢してたかもね」
笑って誤魔化す。
「そうじゃなくて、颯太」
「颯太? 家まで送ってもらった」
「家までって。何にもなかった?」
「ないよ。あるわけないでしょ。既婚者なんだから」
「なんか、聞いた話だと、奥さんとうまくいってないみたいよ。関係は冷えきってるって男子の間で話題になってた」
「そうなの? 幸せそうだったよ。奥さんの話してたし」
それは、美香が聞いたからかもしれないが。
「強がってるのかも。奥さんの方が、颯太を離さないって話よ。子供二人抱えて別れられないでしょうね。稼ぎいいみたいだから」
「全然知らなかった。みんないろいろあるんやね」
「変な争いに巻き込まれないでね。美香ってそういうの流されそうだから」
「大丈夫。私、そんなモテないし。今更、って向こうも思ってるでしょ。颯太には、私を口説くなら、離婚してきてって言ってあるけど」
「うそ」
亜由美が目を丸くした。
「言うじゃない、美香」
「あれから、何も連絡ないし、会ってもいないよ」
「そう。だったら、大丈夫そうね。心配して損しちゃった。みんなで大丈夫かなあって、言ってたから。今日会えてよかった」
「ありがと、心配してくれて」
一人で食べるスイーツもいいけれど、話しながら、友と食べるのも、また嬉しい。
「そういう亜由美には、恋バナはないの?」
「ないない」
「学校にいい先生いない?」
「いないいない。もう、かったるい男ばっかよ」
数日実家で過ごし、あっという間に1キロ増えてしまった。
自分の写真なんて、送るのはどうかと思ったが、思い切って添付した。
亜由美が撮ってくれた、かき氷を食べる笑顔の写真だ。
京一郎さま
お元気でしょうか。
お盆休みは実家に帰省しました。
夏の伊勢は、これがないと始まりません。
私は元気にしています。
西園寺美香
「誰も私のことなんて気にしてへんわ」
送信ボタンを押して、自分にツッコミを入れた。
人は、わかっていても、どうしてやってしまうのだろう。
他の女の影なんて、彼女に知られたらやばいのに。
でも、春の京都で、チラッと見た女性は、元アイドルの女性とは違うような気がした。
ひと目につく駅の中で、あんな大胆なことができるとは思えない。
本当に光源氏みたいに何人も彼女がいるのかも知れなかった。
美香は、浅倉京一郎のことを何も知らない。
美香にとっては、西野を名乗る京一郎が、本物の彼の姿だった。
本名は、浅倉なのかもしれないが、そっちの方が嘘の京一郎のような気がした。
そう思いたいだけなのだろうが、もしそうなら、きっと届くはずだ。
関わりたくないとるみに言ったはずだったのに、メールをしてしまったことへの言い訳をそう分析してみる。
京一郎の言葉に嘘はなかったと思いたかった。
癒されると言ってくれた。
だから、お返しに、美味しそうなスイーツで癒されて欲しかった。
マスコミに追いかけられるのは、きっと、神経が擦り切れるほど気を遣うものだろうから。
今、できることをやってみるしかない。
あとで、後悔しないように。
自分のために。
このままで、いいわけ? 美香。
るみの言うことは正しい。
返事を期待していたわけではないから、美香も、それ以上は、メールもせずに放っておいた。
そして、テレビから、その話題が消えるのも早く、その後の二人がどうなったかの新たな報道もないようだった。
新しい情報が得られないまま、時はすぎ、8月のお盆休み、伊勢に帰った。
夏のお伊勢まいりに欠かせないもの。
それは、
赤福氷。
帰省中に、おかげ横丁で、必ず食べる。
このかき氷を食べるために帰るようなものだった。
抹茶のシロップがかけられた山盛りの氷の中に、あの、餅が入っている。
掘り出すのが楽しくて、子供のようにはしゃいてしまう。
今日は一人ではなく、地元で教師をしている亜由美と一緒だった。
独身同士なので遠慮なく誘える。
誘ってくれたのは、亜由美の方だったが。
写真を撮ってから、食べた。
この写真を、京一郎に送るつもりだった。
「ん~~。もう、夏はこれにかぎるわ~」
「出た。美香のそのリアクション。リバウンドしてなさそうね、よかったじゃん」
「でもね、減り方が少なくなって、上がったり下がったりなんだ」
「そりゃそうでしょ。何事もうまくいかないもんだって」
「そうよね」
「写真撮ってあげる。はい、笑って」
美香の素ではしゃいだ笑顔の写真を何枚か撮ってくれた。
「本当好きだよね。そりゃ、痩せれんわ」
「だよねえ。わかってくれる?」
「よかった、美香、あの後大丈夫だったかなって、心配だったの」
「智美の結婚式の後?」
「うん」
「ごめんね、途中で抜けちゃって。大丈夫だよ。やっぱりはしゃぎすぎて食べすぎたみたい。ちょっと我慢してたかもね」
笑って誤魔化す。
「そうじゃなくて、颯太」
「颯太? 家まで送ってもらった」
「家までって。何にもなかった?」
「ないよ。あるわけないでしょ。既婚者なんだから」
「なんか、聞いた話だと、奥さんとうまくいってないみたいよ。関係は冷えきってるって男子の間で話題になってた」
「そうなの? 幸せそうだったよ。奥さんの話してたし」
それは、美香が聞いたからかもしれないが。
「強がってるのかも。奥さんの方が、颯太を離さないって話よ。子供二人抱えて別れられないでしょうね。稼ぎいいみたいだから」
「全然知らなかった。みんないろいろあるんやね」
「変な争いに巻き込まれないでね。美香ってそういうの流されそうだから」
「大丈夫。私、そんなモテないし。今更、って向こうも思ってるでしょ。颯太には、私を口説くなら、離婚してきてって言ってあるけど」
「うそ」
亜由美が目を丸くした。
「言うじゃない、美香」
「あれから、何も連絡ないし、会ってもいないよ」
「そう。だったら、大丈夫そうね。心配して損しちゃった。みんなで大丈夫かなあって、言ってたから。今日会えてよかった」
「ありがと、心配してくれて」
一人で食べるスイーツもいいけれど、話しながら、友と食べるのも、また嬉しい。
「そういう亜由美には、恋バナはないの?」
「ないない」
「学校にいい先生いない?」
「いないいない。もう、かったるい男ばっかよ」
数日実家で過ごし、あっという間に1キロ増えてしまった。
自分の写真なんて、送るのはどうかと思ったが、思い切って添付した。
亜由美が撮ってくれた、かき氷を食べる笑顔の写真だ。
京一郎さま
お元気でしょうか。
お盆休みは実家に帰省しました。
夏の伊勢は、これがないと始まりません。
私は元気にしています。
西園寺美香
「誰も私のことなんて気にしてへんわ」
送信ボタンを押して、自分にツッコミを入れた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】逃がすわけがないよね?
春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。
それは二人の結婚式の夜のことだった。
何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。
理由を聞いたルーカスは決断する。
「もうあの家、いらないよね?」
※完結まで作成済み。短いです。
※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。
※カクヨムにも掲載。
王女殿下のモラトリアム
あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」
突然、怒鳴られたの。
見知らぬ男子生徒から。
それが余りにも突然で反応できなかったの。
この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの?
わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。
先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。
お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって!
婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪
お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。
え? 違うの?
ライバルって縦ロールなの?
世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。
わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら?
この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。
※設定はゆるんゆるん
※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。
※明るいラブコメが書きたくて。
※シャティエル王国シリーズ3作目!
※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、
『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。
上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。
※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅!
※小説家になろうにも投稿しました。
妹の身代わりだった私に「本命は君だ」――王宮前で王子に抱き潰され、溺愛がバレました。~私が虐げられるきっかけになった少年が、私と王子を結び付
唯崎りいち
恋愛
妹の身代わりとして王子とデートすることになった私。でも王子の本命は最初から私で――。長年虐げられ、地味でみすぼらしい私が、王子の愛と溺愛に包まれ、ついに幸せを掴む甘々ラブファンタジー。妹や家族との誤解、影武者の存在も絡み、ハラハラと胸キュンが止まらない物語。
姉の引き立て役の私は
ぴぴみ
恋愛
アリアには完璧な姉がいる。姉は美人で頭も良くてみんなに好かれてる。
「どうしたら、お姉様のようになれるの?」
「ならなくていいのよ。あなたは、そのままでいいの」
姉は優しい。でもあるとき気づいて─
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる