25個のスイーツのあとで

かじや みの

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9 自分軸のかき氷

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 返事は来なかった。

 人は、わかっていても、どうしてやってしまうのだろう。

 他の女の影なんて、彼女に知られたらやばいのに。

 でも、春の京都で、チラッと見た女性は、元アイドルの女性とは違うような気がした。

 ひと目につく駅の中で、あんな大胆なことができるとは思えない。

 本当に光源氏みたいに何人も彼女がいるのかも知れなかった。

 美香は、浅倉京一郎のことを何も知らない。

 美香にとっては、西野を名乗る京一郎が、本物の彼の姿だった。
 本名は、浅倉なのかもしれないが、そっちの方が嘘の京一郎のような気がした。

 そう思いたいだけなのだろうが、もしそうなら、きっと届くはずだ。

 関わりたくないとるみに言ったはずだったのに、メールをしてしまったことへの言い訳をそう分析してみる。

 京一郎の言葉に嘘はなかったと思いたかった。

 癒されると言ってくれた。

 だから、お返しに、美味しそうなスイーツで癒されて欲しかった。

 マスコミに追いかけられるのは、きっと、神経が擦り切れるほど気を遣うものだろうから。

 今、できることをやってみるしかない。
 あとで、後悔しないように。
 自分のために。

 このままで、いいわけ? 美香。

 るみの言うことは正しい。

 返事を期待していたわけではないから、美香も、それ以上は、メールもせずに放っておいた。

 そして、テレビから、その話題が消えるのも早く、その後の二人がどうなったかの新たな報道もないようだった。



 新しい情報が得られないまま、時はすぎ、8月のお盆休み、伊勢に帰った。

 夏のお伊勢まいりに欠かせないもの。

 それは、

 赤福氷。

 帰省中に、おかげ横丁で、必ず食べる。

 このかき氷を食べるために帰るようなものだった。

 抹茶のシロップがかけられた山盛りの氷の中に、あの、餅が入っている。

 掘り出すのが楽しくて、子供のようにはしゃいてしまう。

 今日は一人ではなく、地元で教師をしている亜由美と一緒だった。

 独身同士なので遠慮なく誘える。
 誘ってくれたのは、亜由美の方だったが。

 写真を撮ってから、食べた。

 この写真を、京一郎に送るつもりだった。

「ん~~。もう、夏はこれにかぎるわ~」

「出た。美香のそのリアクション。リバウンドしてなさそうね、よかったじゃん」
「でもね、減り方が少なくなって、上がったり下がったりなんだ」
「そりゃそうでしょ。何事もうまくいかないもんだって」
「そうよね」
「写真撮ってあげる。はい、笑って」

 美香の素ではしゃいだ笑顔の写真を何枚か撮ってくれた。

「本当好きだよね。そりゃ、痩せれんわ」
「だよねえ。わかってくれる?」

「よかった、美香、あの後大丈夫だったかなって、心配だったの」
「智美の結婚式の後?」
「うん」
「ごめんね、途中で抜けちゃって。大丈夫だよ。やっぱりはしゃぎすぎて食べすぎたみたい。ちょっと我慢してたかもね」
 笑って誤魔化す。
「そうじゃなくて、颯太」
「颯太? 家まで送ってもらった」
「家までって。何にもなかった?」
「ないよ。あるわけないでしょ。既婚者なんだから」
「なんか、聞いた話だと、奥さんとうまくいってないみたいよ。関係は冷えきってるって男子の間で話題になってた」
「そうなの? 幸せそうだったよ。奥さんの話してたし」
 それは、美香が聞いたからかもしれないが。

「強がってるのかも。奥さんの方が、颯太を離さないって話よ。子供二人抱えて別れられないでしょうね。稼ぎいいみたいだから」
「全然知らなかった。みんないろいろあるんやね」
「変な争いに巻き込まれないでね。美香ってそういうの流されそうだから」
「大丈夫。私、そんなモテないし。今更、って向こうも思ってるでしょ。颯太には、私を口説くなら、離婚してきてって言ってあるけど」
「うそ」
 亜由美が目を丸くした。
「言うじゃない、美香」
「あれから、何も連絡ないし、会ってもいないよ」
「そう。だったら、大丈夫そうね。心配して損しちゃった。みんなで大丈夫かなあって、言ってたから。今日会えてよかった」
「ありがと、心配してくれて」
 一人で食べるスイーツもいいけれど、話しながら、友と食べるのも、また嬉しい。

「そういう亜由美には、恋バナはないの?」
「ないない」
「学校にいい先生いない?」
「いないいない。もう、かったるい男ばっかよ」



 数日実家で過ごし、あっという間に1キロ増えてしまった。

 自分の写真なんて、送るのはどうかと思ったが、思い切って添付した。

 亜由美が撮ってくれた、かき氷を食べる笑顔の写真だ。



 京一郎さま

 お元気でしょうか。

 お盆休みは実家に帰省しました。

 夏の伊勢は、これがないと始まりません。

 私は元気にしています。


 西園寺美香



「誰も私のことなんて気にしてへんわ」
 送信ボタンを押して、自分にツッコミを入れた。
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