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18−1 別れの小倉トースト
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「美香、焼けたなんじゃない?」
いつものお昼時間、るみがまじまじと美香を見て言った。
「そうなんだよね。海なんて、初めてだったから。日焼け止め甘かったのかも」
「もしかして、水着着たの?」
「へへへ・・・」
「やるう」
うなずくのが恥ずかしくて、笑って誤魔化した。
お昼はコンビニで買った。
朝からどうしても、自炊する気にならなかったのだ。
疲れが残っている。
月曜日、いつもの日常が始まった。
でも、まだ体がふわふわして、いつもと同じはずなのに、違う感じがする。
「いい顔してるよ。いいことあったんでしょ」
「うん。そう。たぶん、おかしくなるくらい」
「プロポーズされたとか」
「え? あ、そうじゃないと思うけど、近い、かな」
「何それー。どっちなのよー」
と言いながらも、るみは美香を抱きしめた。
「よかったね。おめでとう」
「ちょっと、るみ。まだ早いって」
「御曹司も、本当に見る目があったんだ。応援するからね」
「ありがとう。でもまだ始まったばっかりなんだから。どうなるかわからないし」
「まだそんなこと言ってる」
るみは笑うが、そう簡単にはいかないと思っている。
だから、素直に喜べないのだ。
体が勝手に喜んでしまうのを、頭で必死に押さえつけている。
喜んではいけない。
いつ起こるかわからない事態に、耐えなければならないのだ。
京一郎の決断を喜ぶ人なんて、誰もいない。
敵だらけなのだ。
数日後、美香が恐れていた事態は、予想よりもずっと早く、襲ってきた。
「西園寺、ちょっと」
課長に呼ばれてデスクの前に立った。
仕事のダメ出しか、何か用事を言いつけられるのかと、思っていると、
「これ、西園寺だよな」
なぜか週刊誌が課長の手元にあり、開いたページを、美香に示した。
他の社員も、何事かと近くに集まってくる。
「えっ!」
自分の口から悲鳴が漏れる。
「これ、西園寺さん?」
沖縄で京一郎と歩いているところを隠し撮りされたらしい。
実名は出ていないが、顔はしっかり写っている。
見る人が見れば、美香だということはわかるだろう。
横から社員たちも覗き込んでいる。
「垂れ込みがあったんだ」
「嘘でしょ?」
「巨乳美女略奪愛!? やっばっ・・・」
「この人って、あの?」
「すごーい」
「有名人じゃない」
「かすみの彼氏じゃん」
「なんで西園寺さんが?」
女子がはしゃいでいる。
「西園寺さんって、意外に肉食だったんですね」
さざなみが広がるように、噂が社内に広がっていった。
「・・・」
血の気が引いていく。
こう来たか。
「見て見て」
誰かがパソコンでテレビを映した。
「ワイドショーに出てるよ!」
『かすみさん、どういうことですか? 別れたということですか!』
レポーターがかすみを追いかけている。
『知っていましたか?』
『いいえ』
『破局ということでしょうか。今のお気持ちを聞かせてください』
『信じられません。信じていたのに・・・』
信じられないのはこっちだ。
『私は、京一郎さんと別れたつもりはありません』
『でも、裏切られたんじゃないですか? 交際はどうするのです?』
『別れてないと言ってるでしょ』
『二股かけられたのでは?』
『京一郎さんは悪くありません。世界中を飛び回っている人ですから、仕事が忙しくて、近頃あまり会えてないので・・・ひっ』
しゃくりあげて泣き出した。
『ごめんなさい』
堪えているけど、我慢しきれずに涙がこぼれてしまったというふうに見える。
もう、これ以上は、とマネージャーに支えられるようにして、レポーターから離れていった。。
(これは・・・)
美香が悪者になっている。
世間がどっちの味方をするのかは、一目瞭然だろう。
「本当なのか、西園寺」
「・・・」
一緒に仕事をしてきた同僚たちの視線が痛い。
仲間だと思って毎日のように接してきた人たちにも、そんな目で見られるのだ。
「本当だとしたら、ひどいよね」
「恋人がいるのに」
「かすみさん、かわいそう」
「略奪って最低」
るみだけは、同情の眼差しを向けてくれるが、庇っていいものかどうか迷っているようだ。
美香は首を振って合図を送った。
「否定しないんだ」
黙って返事をしない美香に、非難の眼差しが注がれる。
ここで違うと言って、誰が信じる?
言い訳がましく聞こえるだけだ。
心が急速に冷えていく。
「すみません。お騒がせしました。今日は帰ります」
誰も止めなかった。
いつものお昼時間、るみがまじまじと美香を見て言った。
「そうなんだよね。海なんて、初めてだったから。日焼け止め甘かったのかも」
「もしかして、水着着たの?」
「へへへ・・・」
「やるう」
うなずくのが恥ずかしくて、笑って誤魔化した。
お昼はコンビニで買った。
朝からどうしても、自炊する気にならなかったのだ。
疲れが残っている。
月曜日、いつもの日常が始まった。
でも、まだ体がふわふわして、いつもと同じはずなのに、違う感じがする。
「いい顔してるよ。いいことあったんでしょ」
「うん。そう。たぶん、おかしくなるくらい」
「プロポーズされたとか」
「え? あ、そうじゃないと思うけど、近い、かな」
「何それー。どっちなのよー」
と言いながらも、るみは美香を抱きしめた。
「よかったね。おめでとう」
「ちょっと、るみ。まだ早いって」
「御曹司も、本当に見る目があったんだ。応援するからね」
「ありがとう。でもまだ始まったばっかりなんだから。どうなるかわからないし」
「まだそんなこと言ってる」
るみは笑うが、そう簡単にはいかないと思っている。
だから、素直に喜べないのだ。
体が勝手に喜んでしまうのを、頭で必死に押さえつけている。
喜んではいけない。
いつ起こるかわからない事態に、耐えなければならないのだ。
京一郎の決断を喜ぶ人なんて、誰もいない。
敵だらけなのだ。
数日後、美香が恐れていた事態は、予想よりもずっと早く、襲ってきた。
「西園寺、ちょっと」
課長に呼ばれてデスクの前に立った。
仕事のダメ出しか、何か用事を言いつけられるのかと、思っていると、
「これ、西園寺だよな」
なぜか週刊誌が課長の手元にあり、開いたページを、美香に示した。
他の社員も、何事かと近くに集まってくる。
「えっ!」
自分の口から悲鳴が漏れる。
「これ、西園寺さん?」
沖縄で京一郎と歩いているところを隠し撮りされたらしい。
実名は出ていないが、顔はしっかり写っている。
見る人が見れば、美香だということはわかるだろう。
横から社員たちも覗き込んでいる。
「垂れ込みがあったんだ」
「嘘でしょ?」
「巨乳美女略奪愛!? やっばっ・・・」
「この人って、あの?」
「すごーい」
「有名人じゃない」
「かすみの彼氏じゃん」
「なんで西園寺さんが?」
女子がはしゃいでいる。
「西園寺さんって、意外に肉食だったんですね」
さざなみが広がるように、噂が社内に広がっていった。
「・・・」
血の気が引いていく。
こう来たか。
「見て見て」
誰かがパソコンでテレビを映した。
「ワイドショーに出てるよ!」
『かすみさん、どういうことですか? 別れたということですか!』
レポーターがかすみを追いかけている。
『知っていましたか?』
『いいえ』
『破局ということでしょうか。今のお気持ちを聞かせてください』
『信じられません。信じていたのに・・・』
信じられないのはこっちだ。
『私は、京一郎さんと別れたつもりはありません』
『でも、裏切られたんじゃないですか? 交際はどうするのです?』
『別れてないと言ってるでしょ』
『二股かけられたのでは?』
『京一郎さんは悪くありません。世界中を飛び回っている人ですから、仕事が忙しくて、近頃あまり会えてないので・・・ひっ』
しゃくりあげて泣き出した。
『ごめんなさい』
堪えているけど、我慢しきれずに涙がこぼれてしまったというふうに見える。
もう、これ以上は、とマネージャーに支えられるようにして、レポーターから離れていった。。
(これは・・・)
美香が悪者になっている。
世間がどっちの味方をするのかは、一目瞭然だろう。
「本当なのか、西園寺」
「・・・」
一緒に仕事をしてきた同僚たちの視線が痛い。
仲間だと思って毎日のように接してきた人たちにも、そんな目で見られるのだ。
「本当だとしたら、ひどいよね」
「恋人がいるのに」
「かすみさん、かわいそう」
「略奪って最低」
るみだけは、同情の眼差しを向けてくれるが、庇っていいものかどうか迷っているようだ。
美香は首を振って合図を送った。
「否定しないんだ」
黙って返事をしない美香に、非難の眼差しが注がれる。
ここで違うと言って、誰が信じる?
言い訳がましく聞こえるだけだ。
心が急速に冷えていく。
「すみません。お騒がせしました。今日は帰ります」
誰も止めなかった。
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