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家に帰り、いつものように冷蔵庫からお茶を出し、2階に上がる。
その間にも、汗が吹き出す。
すぐにエアコンを入れて、制服を脱いだ。
息苦しいほどの暑さに辟易するが、服を着替えただけでホッとする。
お茶を一気に半分ほど飲んで、体を冷やすと、やっと落ち着いて、椅子の背にもたれて一息ついた。
(旅行、どうしようかな)
三年生は、旅行が終われば部活からは完全に離れる。
行けないと思うのに、行ってみたいと思っている自分がいる。
(どこに行くんだろう)
気にはなっていたけれど、やっと開けてみる気になって、封筒を取り出した。
開封して折り畳まれた紙を出す。
A4の紙に印刷されているのは、行程表だった。
「京都」
鞍馬、貴船、本能寺、一条戻り橋、御所、二条城、映画村・・・
一泊二日で行けるのかというくらい、詰め込んである。
「いっぱい行くんだな」
『部員みんなの行きたいところに行きます。
れん君も、行きたいところがあったら言ってね』
誰かの手書きの文字が書かれていた。
泊まりがあるってことは、夜までも含めて成宮と一緒にいることになる。
どうしよう。
紙を封筒に戻そうとして、中にまだ何かが入っていることに気がついた。
出てきたのは、札。
れんには馴染みがあるその札は、下の句のみ書かれた百人一首の取り札だ。
驚きで、心臓を掴まれたように、一瞬ぎゅっとなって、思わず胸を押さえた。
「みを尽くしても あわんとぞ思う」
どんなことをしても会いたいという、熱烈な恋の歌だった。
平安時代きってのプレイボーイ、元良親王の歌。
「わびぬれば 今はた同じ 難波なる 身を尽くしても 逢はむとぞ思ふ」
もう、どんなに悩んだって同じだ、という上の句。
(言いたいのは、こっちか)
悩んでいてもしょうがないだろ、一緒に行こう。
そう言われているような気もする。
(好きなものは、好きなんだから・・・)
意訳のしすぎだろうけど、れんの心に浮かんだ言葉だ。
それは、成宮の言葉のようでもあり、自分の言葉のようでもあり、旅行に誘ってくれている、みんなの言葉のようでもあった。
「歌って、すごいな」
直接、ダイレクトに伝えなくても、なんとなく伝わるものがある。
その歌の趣旨と離れた解釈をしても、それを受け入れてくれる懐の深さ。
受け取った方も、素直に受け取ることができる。
他人の、それもまったく知らない遠い昔の人の言葉なのに。
いや、だからこそなのかもしれない。
次の日、れんは、部室の入り口に立っていた。
「れん君!」
「来てくれたんだ」
「来てくれると思ってたよ」
「伝わったね」
甘利が、れんの手を引いて、中に入れた。
成宮もいた。
「部長はいないのかと思った」
インターハイも近いから、歴研にはなかなか顔を出せないと思っていた。
「これでも、一応部長だからな」
「最後の打ち合わせよ。れん君も座って」
初めて来た時と同じように、全員が机を輪にして座っている。
違うのは、成宮がいることだけ。
みんな、嬉しそうにニコニコしていた。
失礼なことを言ったはずなのに、忘れているのだろうか。
れんの気にしすぎか。
「楽しみだね」
みんな旅行が楽しみで、嬉しそうなのだ。
「インターハイと重ならないんですか」
「陸上は、七月中に終わるから大丈夫だ」
旅行は、八月の初め頃の平日だった。
「みんな質問はない? れん君は行きたいとこあったら言ってね」
「俺は、特に・・・どこでも・・・」
「遠慮しなくていいのよ」
「歴史、全然詳しくないし・・・」
「いいから、私たちが、教えて、あ、げ、る」
新島がウインクしてきた。
「こら、奈緒子!」
「あごめん。それは、部長の仕事でした」
ちろりと舌を出す。
相変わらず言いたいことを言っている。
「・・・」
一瞬、場が静かになったのは、れんを気遣ったからなのだろう。
「気にするな。れんも、好きなことを言えばいい」
成宮が言った。
「うん」
れんは、顔を上げて言った。
「色々と、教えてください」
その間にも、汗が吹き出す。
すぐにエアコンを入れて、制服を脱いだ。
息苦しいほどの暑さに辟易するが、服を着替えただけでホッとする。
お茶を一気に半分ほど飲んで、体を冷やすと、やっと落ち着いて、椅子の背にもたれて一息ついた。
(旅行、どうしようかな)
三年生は、旅行が終われば部活からは完全に離れる。
行けないと思うのに、行ってみたいと思っている自分がいる。
(どこに行くんだろう)
気にはなっていたけれど、やっと開けてみる気になって、封筒を取り出した。
開封して折り畳まれた紙を出す。
A4の紙に印刷されているのは、行程表だった。
「京都」
鞍馬、貴船、本能寺、一条戻り橋、御所、二条城、映画村・・・
一泊二日で行けるのかというくらい、詰め込んである。
「いっぱい行くんだな」
『部員みんなの行きたいところに行きます。
れん君も、行きたいところがあったら言ってね』
誰かの手書きの文字が書かれていた。
泊まりがあるってことは、夜までも含めて成宮と一緒にいることになる。
どうしよう。
紙を封筒に戻そうとして、中にまだ何かが入っていることに気がついた。
出てきたのは、札。
れんには馴染みがあるその札は、下の句のみ書かれた百人一首の取り札だ。
驚きで、心臓を掴まれたように、一瞬ぎゅっとなって、思わず胸を押さえた。
「みを尽くしても あわんとぞ思う」
どんなことをしても会いたいという、熱烈な恋の歌だった。
平安時代きってのプレイボーイ、元良親王の歌。
「わびぬれば 今はた同じ 難波なる 身を尽くしても 逢はむとぞ思ふ」
もう、どんなに悩んだって同じだ、という上の句。
(言いたいのは、こっちか)
悩んでいてもしょうがないだろ、一緒に行こう。
そう言われているような気もする。
(好きなものは、好きなんだから・・・)
意訳のしすぎだろうけど、れんの心に浮かんだ言葉だ。
それは、成宮の言葉のようでもあり、自分の言葉のようでもあり、旅行に誘ってくれている、みんなの言葉のようでもあった。
「歌って、すごいな」
直接、ダイレクトに伝えなくても、なんとなく伝わるものがある。
その歌の趣旨と離れた解釈をしても、それを受け入れてくれる懐の深さ。
受け取った方も、素直に受け取ることができる。
他人の、それもまったく知らない遠い昔の人の言葉なのに。
いや、だからこそなのかもしれない。
次の日、れんは、部室の入り口に立っていた。
「れん君!」
「来てくれたんだ」
「来てくれると思ってたよ」
「伝わったね」
甘利が、れんの手を引いて、中に入れた。
成宮もいた。
「部長はいないのかと思った」
インターハイも近いから、歴研にはなかなか顔を出せないと思っていた。
「これでも、一応部長だからな」
「最後の打ち合わせよ。れん君も座って」
初めて来た時と同じように、全員が机を輪にして座っている。
違うのは、成宮がいることだけ。
みんな、嬉しそうにニコニコしていた。
失礼なことを言ったはずなのに、忘れているのだろうか。
れんの気にしすぎか。
「楽しみだね」
みんな旅行が楽しみで、嬉しそうなのだ。
「インターハイと重ならないんですか」
「陸上は、七月中に終わるから大丈夫だ」
旅行は、八月の初め頃の平日だった。
「みんな質問はない? れん君は行きたいとこあったら言ってね」
「俺は、特に・・・どこでも・・・」
「遠慮しなくていいのよ」
「歴史、全然詳しくないし・・・」
「いいから、私たちが、教えて、あ、げ、る」
新島がウインクしてきた。
「こら、奈緒子!」
「あごめん。それは、部長の仕事でした」
ちろりと舌を出す。
相変わらず言いたいことを言っている。
「・・・」
一瞬、場が静かになったのは、れんを気遣ったからなのだろう。
「気にするな。れんも、好きなことを言えばいい」
成宮が言った。
「うん」
れんは、顔を上げて言った。
「色々と、教えてください」
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