触れられたいと思うまで〜トラウマを克服したら溺愛が始まるようです〜

かじや みの

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 悠人は、部活旅行に行くことを喜んでくれた。

「俺たちはインターハイの応援に広島まで行くんだ」
「広島? 遠いね」
「いいだろ。れんも先輩の応援に行く?」
「いいって。そんな人の多いところには行けないよ」
「まあ、全国から人が集まるもんな。京都も人が多いだろうから、くれぐれも気をつけるんだぞ」
「そうだね」
「あ、先輩が一緒だったな。なら安心だ。思いっきり楽しんでこいよ」
「うん」
「ああ、いや一番危険かな・・・」
 独り言を言っている。

「本当によかった。顔が明るくなった」
 隣で歩く悠人が、横目でれんを見た。
「そんなにひどかった?」
 肩をすくめるようにして訊いてみる。
「そうでもないか」
 悠人は、にっと歯を見せて笑った。
「紅葉まんじゅう買ってきてやるよ」
「じゃあ、俺は、八ツ橋買ってくる」
「写真送れよな」
「悠人もね」
「わかった。先輩の勇姿送ってやるよ」
「いいってそれは」


 夏休みに入り、広島に行った悠人から、写真が送られてきた。

 トラックを走る成宮の姿。
 応援に手を振っているところ。
 成宮と肩を組んでピースで自撮り。
 広島焼きを食べているところ。

 楽しそうな様子が眩しかった。

(肩を組んでピースか)

 自分にはできそうになくて、でも、なぜか羨ましいと思ってしまった。

 いつかできるようになるんだろうか。

 できない自分が情けなくなる。

 そして、みじめだ。



 悠人が、紅葉まんじゅうを持って、家に来た。

「お疲れ」

 一段と日焼けして、引き締まったように見える。

「かっこよかっただろ? 先輩。入賞はできなかったけど、まあまあなとこいってたし、すごいよ」
「そうだね。楽しそうだったね」
「やっぱ全国から強豪が来るだけあってレベルが違うわ」
「やる気出た? 悠人も頑張れば」
「そうだな。ぼちぼちやるよ」
「宿題持ってきた?」
「もち。今のうちにやっつけとかないと、部活始まるとこうして来れないもんな、れんちに。うちじゃ絶対できねえから」
「うち、学習室じゃないけど」
「れんだって、気が紛れるだろ」
「悠人のお守りが大変なんだけど」
 実際、すぐに他ごとをしようとする悠人を勉強に戻すのは骨が折れるのだ。

「次はれんの番だな。楽しんで来いよ」
 紅葉まんじゅうを食べながら、悠人が言った。
「うん」
「腐女子とやり合ったんだって? 大丈夫か」
「先輩に聞いたの?」
 成宮とれんをくっつけようとしていることも知っているのだろうか。

「先輩に、れんのこと、お願いしますって言っといたから」
「なにそれ」
「れんを泣かすようなことはするなって」
「悠人・・・」
 れんが見つめると、恥ずかしそうに苦笑した。
「心配してくれて、ありがとう」
「俺にとっても、れんは大事だから、さ」
「うん」
「ずっと、親友だ」
「うん」
 悠人の声は、優しくて、あたたかいものが全身を満たすような感覚になる。

「嫌なことがあったら、俺に言えよ」
「うん、わかってる」
 悠人が拳を突き出してきた。

 その拳に、拳をくっつける。



 新幹線で京都まで行く。

 私服姿の部員たちをみるのは初めてで新鮮だった。

「さあ、いざ、出陣!」

 甘利が古風な掛け声をかけ、みんなが、おおーっと応じている。

「部長がやらなきゃ、意味ないでしょ」
「そんな恥ずかしいことできるか」
 ジーンズにキャップをかぶったラフな格好の成宮が一歩離れる。
「なあ」
 れんに同意を求めるが、れんはみんなと同じように拳を突き上げている。


「適当に座っていいから」

 座席を向かい合わせにして、6人と、通路を挟んで4人に分かれる。

「まあ、そうなるわね」

 一年の女子と二年生が6人の席に座り、三年生3人と、れんが4人の席だ。

 部員みんなの荷物を荷台に上げ終わった成宮が、れんの隣に座った。
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