蟠龍に抱かれて眠れ〜水上の城に死す〜

かじや みの

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1章 ご落胤

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 目が覚めると、朝になっていた。

 いつの間にか、布団に寝かされている。

「夢?・・・か」

 やけに生々しい夢だった。
 おれがご落胤なんて、変な夢だ。
 それに、あんな・・・。

「お目覚めにございますか」

 気配を察したのか、美人の若党が入ってきた。

 差し出された白湯を、黙って飲む。

「ご気分はいかがですか」

「悪い」
 ぶっきらぼうに答えた。
 本当に気分が悪い。

「湯を沸かしてありますが、浴びられますか?」
「湯?」

 景三郎が目を丸くしたので、若党が微笑した。
 笑うと艶っぽさが増して、思わず見惚れてしまう。

 顔がみるみる赤くなる。

「もしかして、昨日のあれは・・・夢じゃない?」

「夢ではございませぬ」

「おれは、久松に、その・・・」
 相手はその道に明るいはずだから、恥ずかしがることもないと思うが、口にするのは躊躇われた。

「その・・・抱かれた、のか?・・・」

 若党の笑みが大きくなる。
「それがしの見たところ、若様はいまだ、無垢なままでございます」
「なぜわかる」

「初めてなら、なおのこと、腰が立たなくなります。その気であれば、殿は若様を、抱き潰してしまうでしょう」
「は?! ・・・そんな・・・」
「起き上がれるということは、お抱きになっていないということに・・・」

 言葉が出てこなかった。

「風呂に入る」
 不快になってきて、立ち上がった。

 全身舐めまわされたのだ。
 夢じゃないなら、これほど気持ち悪いことはない。

「ついてくるなよ。一人で行ける」

 昨日、小姓たちに体を洗われて痛い思いをしたことを思い出している。



 体を洗い、さっぱりして戻ってくると、食事の膳が用意されていた。

 今までは病人のような食事だったが、料亭とは言わないが、かつての片瀬家のものに比べれば、とても贅沢なご馳走が並んでいた。

「久松は、おれを、どうするつもりなんだ」

 遠慮なく箸をつけながら、給仕をしてくれている早乙女伊織と名乗った若党に訊く。

「それがしからは、申し上げられませぬ」
 だったら呼べ、とは、言いたくなかった。
 昨日のことを思い出してしまう。
 会うのは気づまりだった。

「殿は、またおいでになるでしょう。若様のことが、好きでたまらないのですから」
 そう言って、口元に手を当てて笑った。

「伊織っ」

 思わず声を荒げたが、否定したくても、あの様子を思い出せば、本気だとわかってしまう。

 前の殿様をどれだけ愛していたか。

 久松の言葉に嘘はないのだと、体に刻み込まれたような気がした。

 ご落胤の話は、本当のことなのだと。

 それでも、言わなければならない。

「久松を呼んでくれ。まだ聞いていないことがある」

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