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5章 王女、囚われる
5 飛んで火に入る
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王城に着き、馬車を降りた。
テオーネルラが捕えられたという知らせは届いているのだろう。
城の兵士に引き渡されたが、混乱することもなくスムーズに、兵士から召使いに渡された。
王女として扱われるのだろうか。
そう思ったのは、行き先が牢屋ではなかったからだ。
汚れた姿では、人前に出せないからなのか、頭の先から綺麗に洗われて、衣服も新しいものに取り替えられた。
召使いの服ではない。
豪華ではないが、貴族の令嬢が身につけるようなドレスだ。
リカがどうなったのか、気になるが、召使いたちは、一言もしゃべることなく仕事をこなしていて、訊いてもおそらく答えてはくれないと思われた。
こちらも無言のままで、されるがままにまかせた。
連れて行かれたのは、やはり牢屋ではなく、客間だった。
王女として扱われるのは間違いないらしい。
滅ぼされた国の、王女として。
牢屋に連れて行かれるよりも緊張し、不安になる。
名乗り出た以上、この先待ち受けるのはいいことであるはずがないのだ。
相手は、国を滅ぼした敵。
これから敵に対峙することになる。
ここに通されたからには、面会には、王太子か、ゼルダ王女が来るはずだ。
テオは、ソファに一人座って息を吐き、拳を握った。
ドアが開き、コツコツと小気味のいいヒールの音が響いた。
「あら、ずいぶんと早かったのね。もっとごねられるのかと思ったけど、飛んで火に入るなんとやら。あっさりと引っかかってくれたようね」
「やはり、あなたなのね」
ゼルダ王女が勝ち誇ったような満面の笑みで、テオを見下ろした。
その目を、鋭く睨み返す。
「間違いないわ、アレク」
続いて入ってきた王太子に、ゼルダが親しげに声をかける。
「リアの王女、テオーネルラよ」
テオは、王太子を見ても、立って礼をしなかった。
ソファに座ったまま、ぷい、と横を向いた。
そのテオの顎をとらえ、ぐいと前を向かせる。
「なるほど。どうりで他の女とは違うわけだ。私を見て、動揺したのだろう」
王太子の顔が目の前に迫り、体が震えた。
面白そうに、ニヤニヤしている。
ダイニングで、お茶を出しながら震えたのは確かだった。
「あなた、ここに潜伏していたのね。大した度胸だわ。褒めてあげる。王太子を殺すつもりだった?」
「・・・」
「そんなことができるわけがない。命乞いなら聞いてやったかもしれんが」
「あら、王子の婚約者だった女を奪うつもり?」
「召使いとしてずっとそばに置いてやろうと思っておったのだ。その矢先に逃げ出した。まさか、リアの王女だったとは」
「それもお楽しみかもしれないけど、そうもいかないわ」
ゼルダは、王太子をテオから離して抱きついた。
あなたには、私がいると言いたげに。
「あなたなんかに、王子は渡さない」
二人の仲の良さを見せつけられて、腹が立ち、思わず口走る。
「あなたなのね。リアを攻めるよう、王太子を焚きつけたのは。その上で王子と婚約しようと言うの?」
「そうよ。リアが欲しいとおねだりしたの。王太子にとっても悪い話ではない。王子も手に入る。邪魔なあなたがいなくなれば、できるはずよ。シーザスとヤンの結びつきは強固なものになる。それのどこが悪いって言うのよ」
「人でなしっ!」
こんな女のために、家族は死に、国は滅んだ。
かっとなって、ゼルダに飛びかかろうとした。
だが、テオの手が、胸ぐらを掴むより早く、王女のヒールが腹を蹴り、床にうずくまった。
「なんとでも言いなさい。負け犬の遠吠えにしか聞こえない。せいぜい今のうちに吠えていなさい。あなたの命ももう終わりよ。処刑してあげる。あの時に死んでいればよかったのに。死に様を人目に晒さずに済んだのにね」
「くっ・・・」
笑い声をあげるゼルダを睨みつけることしかできなかった。
「命乞いでもしてみる? 私の靴でも舐めるなら、許してあげなくもないわよ」
テオを蹴った靴を、鼻先に突きつける。
「誰が命乞いなど!」
「そう言うと思った。せめてもの情けに、王女として死なせてあげるわ。見すぼらしいままではかわいそうだものね。感謝して欲しいくらいよ。その方が見せしめにもなるし」
「リカはどこに・・・リカだけは、助けて」
「大丈夫よ。王様が死ぬまでは生かしといてあげる。まあ、それもまもなくでしょうけど」
「・・・」
やはり王様の死を、リカのせいにする気だ。
「ねえ、アレク」
今度は、王太子に甘えるような声でしなだれかかった。
「今度はジュートが欲しいわ。あそこは宝石の産地。手に入れて私にたくさんの宝石を贈って」
「攻め込むにも、理由がいるぞ。リアの時は、少々非難を浴びた。ただ闇雲に攻めるわけにもいかん」
「理由なら、なんとでもつけられるでしょう? たとえば、この女を使って内情を探らせた、とか」
「やめて! ジュートは攻めさせない!」
「ちょっと、あなた一人で何ができるの? これは、国の政治よ。なんの後ろ盾もない敗戦国の者に、口出しできないことよ。邪魔だわ。連れてって」
蔑みの目で、冷たく見下ろし、警護の者を呼んだ。
今度こそ、連れてこられた牢屋に、入れられた。
「リカ!」
そこには、先に入れられていたリカの姿があった。
「テオさま」
二人は抱き合って、再会を喜んだ。
「申し訳ございません。私のために」
テオが戻ってこなければ、処刑されると聞かされていたらしい。
「よかった、無事で。リカに何かあったら、私・・・」
「もったいないお言葉」
「やるだけのことはやったわ。あとは、運を天に任せるだけ。私は、一人ではないのだから」
リカを抱きしめ、その温もりに癒されながら、つぶやいていた。
テオーネルラが捕えられたという知らせは届いているのだろう。
城の兵士に引き渡されたが、混乱することもなくスムーズに、兵士から召使いに渡された。
王女として扱われるのだろうか。
そう思ったのは、行き先が牢屋ではなかったからだ。
汚れた姿では、人前に出せないからなのか、頭の先から綺麗に洗われて、衣服も新しいものに取り替えられた。
召使いの服ではない。
豪華ではないが、貴族の令嬢が身につけるようなドレスだ。
リカがどうなったのか、気になるが、召使いたちは、一言もしゃべることなく仕事をこなしていて、訊いてもおそらく答えてはくれないと思われた。
こちらも無言のままで、されるがままにまかせた。
連れて行かれたのは、やはり牢屋ではなく、客間だった。
王女として扱われるのは間違いないらしい。
滅ぼされた国の、王女として。
牢屋に連れて行かれるよりも緊張し、不安になる。
名乗り出た以上、この先待ち受けるのはいいことであるはずがないのだ。
相手は、国を滅ぼした敵。
これから敵に対峙することになる。
ここに通されたからには、面会には、王太子か、ゼルダ王女が来るはずだ。
テオは、ソファに一人座って息を吐き、拳を握った。
ドアが開き、コツコツと小気味のいいヒールの音が響いた。
「あら、ずいぶんと早かったのね。もっとごねられるのかと思ったけど、飛んで火に入るなんとやら。あっさりと引っかかってくれたようね」
「やはり、あなたなのね」
ゼルダ王女が勝ち誇ったような満面の笑みで、テオを見下ろした。
その目を、鋭く睨み返す。
「間違いないわ、アレク」
続いて入ってきた王太子に、ゼルダが親しげに声をかける。
「リアの王女、テオーネルラよ」
テオは、王太子を見ても、立って礼をしなかった。
ソファに座ったまま、ぷい、と横を向いた。
そのテオの顎をとらえ、ぐいと前を向かせる。
「なるほど。どうりで他の女とは違うわけだ。私を見て、動揺したのだろう」
王太子の顔が目の前に迫り、体が震えた。
面白そうに、ニヤニヤしている。
ダイニングで、お茶を出しながら震えたのは確かだった。
「あなた、ここに潜伏していたのね。大した度胸だわ。褒めてあげる。王太子を殺すつもりだった?」
「・・・」
「そんなことができるわけがない。命乞いなら聞いてやったかもしれんが」
「あら、王子の婚約者だった女を奪うつもり?」
「召使いとしてずっとそばに置いてやろうと思っておったのだ。その矢先に逃げ出した。まさか、リアの王女だったとは」
「それもお楽しみかもしれないけど、そうもいかないわ」
ゼルダは、王太子をテオから離して抱きついた。
あなたには、私がいると言いたげに。
「あなたなんかに、王子は渡さない」
二人の仲の良さを見せつけられて、腹が立ち、思わず口走る。
「あなたなのね。リアを攻めるよう、王太子を焚きつけたのは。その上で王子と婚約しようと言うの?」
「そうよ。リアが欲しいとおねだりしたの。王太子にとっても悪い話ではない。王子も手に入る。邪魔なあなたがいなくなれば、できるはずよ。シーザスとヤンの結びつきは強固なものになる。それのどこが悪いって言うのよ」
「人でなしっ!」
こんな女のために、家族は死に、国は滅んだ。
かっとなって、ゼルダに飛びかかろうとした。
だが、テオの手が、胸ぐらを掴むより早く、王女のヒールが腹を蹴り、床にうずくまった。
「なんとでも言いなさい。負け犬の遠吠えにしか聞こえない。せいぜい今のうちに吠えていなさい。あなたの命ももう終わりよ。処刑してあげる。あの時に死んでいればよかったのに。死に様を人目に晒さずに済んだのにね」
「くっ・・・」
笑い声をあげるゼルダを睨みつけることしかできなかった。
「命乞いでもしてみる? 私の靴でも舐めるなら、許してあげなくもないわよ」
テオを蹴った靴を、鼻先に突きつける。
「誰が命乞いなど!」
「そう言うと思った。せめてもの情けに、王女として死なせてあげるわ。見すぼらしいままではかわいそうだものね。感謝して欲しいくらいよ。その方が見せしめにもなるし」
「リカはどこに・・・リカだけは、助けて」
「大丈夫よ。王様が死ぬまでは生かしといてあげる。まあ、それもまもなくでしょうけど」
「・・・」
やはり王様の死を、リカのせいにする気だ。
「ねえ、アレク」
今度は、王太子に甘えるような声でしなだれかかった。
「今度はジュートが欲しいわ。あそこは宝石の産地。手に入れて私にたくさんの宝石を贈って」
「攻め込むにも、理由がいるぞ。リアの時は、少々非難を浴びた。ただ闇雲に攻めるわけにもいかん」
「理由なら、なんとでもつけられるでしょう? たとえば、この女を使って内情を探らせた、とか」
「やめて! ジュートは攻めさせない!」
「ちょっと、あなた一人で何ができるの? これは、国の政治よ。なんの後ろ盾もない敗戦国の者に、口出しできないことよ。邪魔だわ。連れてって」
蔑みの目で、冷たく見下ろし、警護の者を呼んだ。
今度こそ、連れてこられた牢屋に、入れられた。
「リカ!」
そこには、先に入れられていたリカの姿があった。
「テオさま」
二人は抱き合って、再会を喜んだ。
「申し訳ございません。私のために」
テオが戻ってこなければ、処刑されると聞かされていたらしい。
「よかった、無事で。リカに何かあったら、私・・・」
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