逆襲の王女は敵国の王妃をめざす

かじや みの

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3章 王女、王子の召使になる

3 花の庭

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 庭園に走り込んだ。

 どうして来てしまったのだろう。

 セド侯爵の悪戯としか思えなかった。
 悪気はないのかもしれない。
 ただ純粋に、王子の人となりを見せたかっただけなのかもしれない。

 セドは知らないのだ。
 王女だったテオの心が、傷つくことを。
 自分でも、こんなに胸が痛くなるとは想像していなかった。

 現実はむごい。

 リアが滅ぼされなかったら、婚約は成立して、テオは王子の元に嫁いで来ていた。
 ここで、王子妃としてあの人と共に過ごせたのだ。

 だがもう自分は王女ではない。

 王子妃として、王子と結ばれることはないのだ。

 自分はただの召使いとして、ここで働く。

 半年もしないうちに、王子の婚約者が来る。

 その時、自分はここにはいられないだろう。

 辛すぎて、想像することすら困難だった。

 まったく知らない人なら、何の感情も湧かなかったかもしれない。

 あの人だから、こんなに心が揺さぶられるのだ。

 テオは、花の中にしゃがみ込んだ。

 嗚咽にならないように、こらえるのに必死だった。

「テオ!」

 リュークンが探している。

(どうしよう)

 泣いていても始まらない。

 覚悟を決めなければならない。

 幸いなことに、リュークンは、テオがリア王国の王女だとは知らない。
 理由を偽れる。
 自分は、ただ、驚いただけだと。

「キューイ」
 とラビが鳴いた。
 居場所はすぐにわかってしまった。

「テオ」

 立ち上がったテオに向かって、王子が走ってきた。

 色とりどりの花が咲いていることに、今更気がついた。


「黙っていて悪かった。心配しなくてもいい。私は何も変わらない。王子だろうが、商人だろうが、本当の私を見てくれないか。ファンにはきつくお仕置きしておこう」

「キューウ」
 ラビが返事をした。

 テオは涙を拭いてうなずいた。

 逃げてはいけない。

 自分は何のためにここにいるのか。

「驚きました。まさか、あなたさまが、王子だったなんて・・・」

 まだわからない。
 この先、どうなるのか、テオにも、リュークンにも、誰にもわからない。

 だからこそ、やれることがある。

 召使いとしてでも、きっとやれる。

 私は、復讐するために、ここに来た。

 リュークンの手が伸びてきて、テオの顔に触れた。

「君が来てくれて、嬉しいよ」

 ラビが、テオの腕の中から抜け出した。

 抱きしめられる。
 ずっと夢見ていた瞬間。

 王女ではないけれど、得られる幸せ。

 唇が重なった。

 風が吹き、可憐な花たちが揺れて、二人を祝福してくれているようだ。

 誰にも認められなくても構わない。

 風に煽られて、ラビが流されていることにも気がつかず、抱擁は止まらない。


 逆襲が、ここから始まる。

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