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3章 王女、王子の召使になる
5 復讐の刃
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ジュートの王からの手紙には、見られてはいけないような内容は書かれておらず、伯父が姪を心配する、心が温まる文面になっていた。
「伯父さま・・・」
自分は一人ではないと、励まされる。
ジュートはあくまでも、テオの味方だと、心強い言葉も書かれていた。
必要なものがあれば、遠慮なく言うがよいと。
そして、くれぐれも気をつけるように。
読み終わると、小さくちぎって炉の火の中に入れた。
紙切れは、一瞬にして、灰になった。
どうすれば、近づけるだろう。
焦る気持ちと、このままでいいという気持ちがせめぎ合って、動けない。
ただ、この城にいられるだけで、満足してしまう自分がいた。
だから、セドに、感じが変わったと言われてしまうのだ。
パンパン、と自分で頬を叩いて気合いをいれる。
だが、焦りは禁物だ。
成り行きに任せるしか方法がない。
変に焦って動けば、疑われる恐れがある。
幸いにして、嫌われてはいないから、待っていればその機会は来る。
そう信じて、自分の仕事をするしかなかった。
刻は容赦無く過ぎていき、喪が明けるまで、もう1ヶ月に迫ってきた。
仕事の要領を覚えて、余裕も生まれ、花の庭で過ごす時間が増えた。
庭仕事も、少しづつできるようになっていた。
水や肥料をやったり、余分な草を摘み取ったり、枯れた花の移し替えや手入れだ。
少ない人数でも負担にならないように、自然なまま生やしている場所が多いのだが、あまりに伸び過ぎてもいけないし、薔薇が咲くエリアは手入れが欠かせない。
楽しくて夢中になり、つい無防備になる。
枯れた薔薇の花を、ハサミで丁寧に取り除いていく。
「テオ」
「きゃっ!」
不意に後ろから声をかけられて、飛び上がってしまった。
「薔薇の中に佇む君は、とても綺麗だ」
歯の浮くようなセリフも、王子の口からなら、嫌味に聞こえない。
一本の薔薇が、目の前に差し出された。
笑顔になる。
「リューさま・・・」
「庭の手入れは楽しい?」
「いいのですか? このようなところに、お一人で」
辺りを見回したが、他には誰もいなかった。
「たまには君と話したい。いや、本当は、君をもっとそばに置いておきたい。これでもずっと、我慢しているんだが・・・」
見つめられて、体がほてってくる。
おそらく顔が赤くなっているだろう。
「喪が明けるまでは、我慢してくださいませ」
「テオは意地悪だな」
「じゃあ、喪が明けたら、いいんだね」
「いいえ。喪が明けたら、私はここにはいられません」
「どうして・・・」
「結婚なさるのでしょう? 私はリアの人間です。とても見ていられませんから」
「じゃあ、結婚なんてしない」
「そんなわけには参りません」
「もし、リアが滅びていなかったら、王女がこの城に来るとき、君も共に来ていたかい?」
と、話をそらした。
「・・・それは・・・たぶん」
「そうか、私たちは、出会う運命だったんだ」
リュークンの目が、優しく包み込むようにテオを見ている。
「いいえ。そのときは、リューさまはきっと、王女さまに夢中になってしまわれます。私など、目に入りません」
「そうか。それほど素敵な人だったんだね」
「・・・」
「どんな人だったんだい?」
「・・・」
言葉に詰まり、涙が溢れてきた。
なんて言えばいいのかわからない。
「すまない。思い出させてしまったね」
一度溢れた涙は、とめどなく頬を伝った。
「兄上さまは、とても聡明でお優しくて、国のことも、領民のことも大切に思っておられて、頼り甲斐があって・・・王さまも・・・」
いけないと思いながらも、感情が激して止められない。
「・・・父上も母上も、本当に慈悲深くてそれでいて、強くて、尊敬していました。・・・あまりにも理不尽です。どうして・・・どうしてあんなにお優しい方たちが殺されなければならないのでしょうか。納得がいきません・・・」
「テオ・・・君は、いったい・・・」
リュークンが驚いて目を見開いた。
「許せない・・・この国が許せない!」
「君は・・・まさか・・・」
「返して! 私の国を返して!」
リュークンがテオを抱きしめてきた。
「テオ・・・テオーネルラ、だね、君がリアの・・・生きていてくれた・・・」
「ああーー!!」
慟哭になった。
テオは王子を突き放し、きつく抱きしめていた腕の中から抜け出す。
「あなたも同罪よ」
と胸の前で、ハサミを構えた。
尖った先を、リュークンに向ける。
「無念を晴らします」
「刺したかったら、刺すがいい。逃げも隠れもしない」
「伯父さま・・・」
自分は一人ではないと、励まされる。
ジュートはあくまでも、テオの味方だと、心強い言葉も書かれていた。
必要なものがあれば、遠慮なく言うがよいと。
そして、くれぐれも気をつけるように。
読み終わると、小さくちぎって炉の火の中に入れた。
紙切れは、一瞬にして、灰になった。
どうすれば、近づけるだろう。
焦る気持ちと、このままでいいという気持ちがせめぎ合って、動けない。
ただ、この城にいられるだけで、満足してしまう自分がいた。
だから、セドに、感じが変わったと言われてしまうのだ。
パンパン、と自分で頬を叩いて気合いをいれる。
だが、焦りは禁物だ。
成り行きに任せるしか方法がない。
変に焦って動けば、疑われる恐れがある。
幸いにして、嫌われてはいないから、待っていればその機会は来る。
そう信じて、自分の仕事をするしかなかった。
刻は容赦無く過ぎていき、喪が明けるまで、もう1ヶ月に迫ってきた。
仕事の要領を覚えて、余裕も生まれ、花の庭で過ごす時間が増えた。
庭仕事も、少しづつできるようになっていた。
水や肥料をやったり、余分な草を摘み取ったり、枯れた花の移し替えや手入れだ。
少ない人数でも負担にならないように、自然なまま生やしている場所が多いのだが、あまりに伸び過ぎてもいけないし、薔薇が咲くエリアは手入れが欠かせない。
楽しくて夢中になり、つい無防備になる。
枯れた薔薇の花を、ハサミで丁寧に取り除いていく。
「テオ」
「きゃっ!」
不意に後ろから声をかけられて、飛び上がってしまった。
「薔薇の中に佇む君は、とても綺麗だ」
歯の浮くようなセリフも、王子の口からなら、嫌味に聞こえない。
一本の薔薇が、目の前に差し出された。
笑顔になる。
「リューさま・・・」
「庭の手入れは楽しい?」
「いいのですか? このようなところに、お一人で」
辺りを見回したが、他には誰もいなかった。
「たまには君と話したい。いや、本当は、君をもっとそばに置いておきたい。これでもずっと、我慢しているんだが・・・」
見つめられて、体がほてってくる。
おそらく顔が赤くなっているだろう。
「喪が明けるまでは、我慢してくださいませ」
「テオは意地悪だな」
「じゃあ、喪が明けたら、いいんだね」
「いいえ。喪が明けたら、私はここにはいられません」
「どうして・・・」
「結婚なさるのでしょう? 私はリアの人間です。とても見ていられませんから」
「じゃあ、結婚なんてしない」
「そんなわけには参りません」
「もし、リアが滅びていなかったら、王女がこの城に来るとき、君も共に来ていたかい?」
と、話をそらした。
「・・・それは・・・たぶん」
「そうか、私たちは、出会う運命だったんだ」
リュークンの目が、優しく包み込むようにテオを見ている。
「いいえ。そのときは、リューさまはきっと、王女さまに夢中になってしまわれます。私など、目に入りません」
「そうか。それほど素敵な人だったんだね」
「・・・」
「どんな人だったんだい?」
「・・・」
言葉に詰まり、涙が溢れてきた。
なんて言えばいいのかわからない。
「すまない。思い出させてしまったね」
一度溢れた涙は、とめどなく頬を伝った。
「兄上さまは、とても聡明でお優しくて、国のことも、領民のことも大切に思っておられて、頼り甲斐があって・・・王さまも・・・」
いけないと思いながらも、感情が激して止められない。
「・・・父上も母上も、本当に慈悲深くてそれでいて、強くて、尊敬していました。・・・あまりにも理不尽です。どうして・・・どうしてあんなにお優しい方たちが殺されなければならないのでしょうか。納得がいきません・・・」
「テオ・・・君は、いったい・・・」
リュークンが驚いて目を見開いた。
「許せない・・・この国が許せない!」
「君は・・・まさか・・・」
「返して! 私の国を返して!」
リュークンがテオを抱きしめてきた。
「テオ・・・テオーネルラ、だね、君がリアの・・・生きていてくれた・・・」
「ああーー!!」
慟哭になった。
テオは王子を突き放し、きつく抱きしめていた腕の中から抜け出す。
「あなたも同罪よ」
と胸の前で、ハサミを構えた。
尖った先を、リュークンに向ける。
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