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4章 王女、王城へ乗り込む
7 誘惑
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「どうすればいい」
王子が辛そうに眉間に皺を寄せたが、声は低く抑えている。
「まさか、愛をささやけと言うんじゃないだろうな」
「そんなことをしたら、余計に怪しまれる」
セドはぷっと吹き出すように笑った。
「第一、あなたにそのようなことはできないと思いますが・・・」
「まあ、そうだ」
王子も苦笑し、笑い合う。
その時、ドアがノックされた。
「楽しそうだこと。やっぱり私も混ぜてくださらない? これから仲良くしていくのですもの。仲間外れは嫌ですわ」
ゼルダ王女が、トレーにお茶のセットを乗せて持ってきた。
「男同士の話だと言ったはずだが」
王子が不機嫌そうな顔で言った。
これが演技だとしたら、なかなかだ。
だが、これが王子の本音でもあるのだろう。
王子が冷たくすればするほど、振り向かせようとしてくるか、それともさらに脅してくるか。
王女の反応でも、策は変わってくる。
セドは王女の表情を見守った。
「あら、冷たいお言葉。セドさま、どう思われます? どうすれば、リューさまは私に優しくしてくださるのでしょう」
「王子はお優しいお方です。もっと頼られてはいかがですか。美しい王女に頼られれば、嫌だとは申せません。王女はおそらく、男に頼らずとも大丈夫だと、思われておいでになるのでしょう」
ゼルダは、紅茶の入ったカップを、それぞれの前に置いた。
そして、自分も王子の隣に腰掛けた。
「私は、少しでもお役に立てるよう、王子をお支えしていくつもりです。リューさまを愛しています。誰にも取られたくありません」
と、恥ずかしげに微笑む。
強さと可憐さ。
強さばかりだと思っていたが、時折見せる弱さと可憐さが男心をくすぐるのだろう。
自分がどう見えるのか、計算しつくしている。
(手強いな)
そう心で呟きながら、セドも微笑み反す。
「セドさま。・・・私のことは、ゼルダとお呼びすてください」
はっきりと、セドに向けて笑いかけた。
王女にふさわしい、華やかな笑顔だ。
「王子は幸せ者です。時がかかるかもしれませんが、そのお気持ちならば、通じる時がくるはずです。お美しいゼルダさまにお心を動かされない男がおりましょうや」
勝手なことを言うな、と王子の目が言っている。
「まあ、かいかぶりですわ。・・・でも、セドさまが来てくださって嬉しい」
ゼルダは立って、今度はセドの隣に座った。
腕とって抱くように体をくっつけてくる。
「正直、途方に暮れておりましたの。頼りにしておりますわ」
美しい瞳をうっとりと潤ませて、セドを見上げた。
王子に嫉妬させようとしているのだろうか。
だとすれば、成功しない。
リアの王女に先に会わせておいて正解だった。
テオを愛している王子に、他の女は目に入らない。
「ファンは、私の親友だ。私を動かしたければこの者を手懐けておくことだな」
突き放すように、王子は言ったが、その口端には、イタズラっぽい笑みがのっている。
この状況を面白がっているのだ。
「セドさま、しばらくこの城に滞在なさいませんこと?」
「そ、それは・・・」
そう来たか。
思わぬ方へ、話が進む。
「私はお邪魔だと思いますが」
「まあ、お逃げになるの? リューさまのことをもっと教えてくださいませ。セドさまは私の味方になるお方。そうでしょう? あなたとも仲良くなりたいわ」
「まあ・・・」
王子に目をやると、そうしろと言うふうに僅かにうなずいた。
そうすれば、王女はこの城にしばらく居座ることになる。
「それもいいでしょうな」
二人だけにしておくよりもいいかもしれない。
怒らせて帰らせるという事態は避けられる。
いや、王子が潰される方が早いのかもしれない。
ゼルダ王女の強さに、耐えられるかどうか。
王子を支える必要がある。
そして、王女の尻尾が掴めれば、こちらが有利になる。
「いい男だわ。奥様はいらっしゃるの?」
ゼルダはまだ、セドから離れない。
「いえ、おりません」
「あら。本当に? こんなにいい男なのに」
驚いた表情になり、セドを見つめる。
「ファンと呼び捨ててくださってかまいません。ゼルダさま」
王子が辛そうに眉間に皺を寄せたが、声は低く抑えている。
「まさか、愛をささやけと言うんじゃないだろうな」
「そんなことをしたら、余計に怪しまれる」
セドはぷっと吹き出すように笑った。
「第一、あなたにそのようなことはできないと思いますが・・・」
「まあ、そうだ」
王子も苦笑し、笑い合う。
その時、ドアがノックされた。
「楽しそうだこと。やっぱり私も混ぜてくださらない? これから仲良くしていくのですもの。仲間外れは嫌ですわ」
ゼルダ王女が、トレーにお茶のセットを乗せて持ってきた。
「男同士の話だと言ったはずだが」
王子が不機嫌そうな顔で言った。
これが演技だとしたら、なかなかだ。
だが、これが王子の本音でもあるのだろう。
王子が冷たくすればするほど、振り向かせようとしてくるか、それともさらに脅してくるか。
王女の反応でも、策は変わってくる。
セドは王女の表情を見守った。
「あら、冷たいお言葉。セドさま、どう思われます? どうすれば、リューさまは私に優しくしてくださるのでしょう」
「王子はお優しいお方です。もっと頼られてはいかがですか。美しい王女に頼られれば、嫌だとは申せません。王女はおそらく、男に頼らずとも大丈夫だと、思われておいでになるのでしょう」
ゼルダは、紅茶の入ったカップを、それぞれの前に置いた。
そして、自分も王子の隣に腰掛けた。
「私は、少しでもお役に立てるよう、王子をお支えしていくつもりです。リューさまを愛しています。誰にも取られたくありません」
と、恥ずかしげに微笑む。
強さと可憐さ。
強さばかりだと思っていたが、時折見せる弱さと可憐さが男心をくすぐるのだろう。
自分がどう見えるのか、計算しつくしている。
(手強いな)
そう心で呟きながら、セドも微笑み反す。
「セドさま。・・・私のことは、ゼルダとお呼びすてください」
はっきりと、セドに向けて笑いかけた。
王女にふさわしい、華やかな笑顔だ。
「王子は幸せ者です。時がかかるかもしれませんが、そのお気持ちならば、通じる時がくるはずです。お美しいゼルダさまにお心を動かされない男がおりましょうや」
勝手なことを言うな、と王子の目が言っている。
「まあ、かいかぶりですわ。・・・でも、セドさまが来てくださって嬉しい」
ゼルダは立って、今度はセドの隣に座った。
腕とって抱くように体をくっつけてくる。
「正直、途方に暮れておりましたの。頼りにしておりますわ」
美しい瞳をうっとりと潤ませて、セドを見上げた。
王子に嫉妬させようとしているのだろうか。
だとすれば、成功しない。
リアの王女に先に会わせておいて正解だった。
テオを愛している王子に、他の女は目に入らない。
「ファンは、私の親友だ。私を動かしたければこの者を手懐けておくことだな」
突き放すように、王子は言ったが、その口端には、イタズラっぽい笑みがのっている。
この状況を面白がっているのだ。
「セドさま、しばらくこの城に滞在なさいませんこと?」
「そ、それは・・・」
そう来たか。
思わぬ方へ、話が進む。
「私はお邪魔だと思いますが」
「まあ、お逃げになるの? リューさまのことをもっと教えてくださいませ。セドさまは私の味方になるお方。そうでしょう? あなたとも仲良くなりたいわ」
「まあ・・・」
王子に目をやると、そうしろと言うふうに僅かにうなずいた。
そうすれば、王女はこの城にしばらく居座ることになる。
「それもいいでしょうな」
二人だけにしておくよりもいいかもしれない。
怒らせて帰らせるという事態は避けられる。
いや、王子が潰される方が早いのかもしれない。
ゼルダ王女の強さに、耐えられるかどうか。
王子を支える必要がある。
そして、王女の尻尾が掴めれば、こちらが有利になる。
「いい男だわ。奥様はいらっしゃるの?」
ゼルダはまだ、セドから離れない。
「いえ、おりません」
「あら。本当に? こんなにいい男なのに」
驚いた表情になり、セドを見つめる。
「ファンと呼び捨ててくださってかまいません。ゼルダさま」
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